第1118話 一時撤退をして
Lv17という予想以上に高Lvなフィールドボスのワニに白の刻印:増幅で強化した火属性を付与した上で、水属性への弱体化をかけて、風音さんとの2人での発動でウォーターフォールで押し潰してやった!
これで2割も削れないようなら……冗談抜きで倒すのは諦めるしかない。あ、ヨッシさんとサヤの竜で電気の昇華魔法って手段もあったか。いや、どっちにしても今のダメージの効き次第になるな。
「サヤ、ハーレさん! ダメージはどうだ!?」
「ウォーターフォールの勢いが凄くて見えにくいけど、どんどん削れてるのさー!」
「この感じなら2割は削れそうかな!」
「おし! 充分な有効打にはなってるか!」
まだ発動中のウォーターフォールで押し潰されているワニの姿は確認しにくいけど、流石はサヤとハーレさん。どんどんワニから離れていってる今の状態でもしっかりとHPの減り方はちゃんと把握してくれているね。
ワニが水属性を持っていない単純な物理型だったならもっと削れたんだろうけど、Lv差や属性相性を考えたら俺らの今の状態での最大威力と言っても良いはず。結果としては上々だな。
さて、こうなるとLv差を埋めるには弱体化が有効という事が分かった。そして俺達には、まだ取っていないだけでそれらを手に入れる方法はある。まぁ弱体化じゃなくて、強化も選べる訳だけど……流石に格上の相手との戦闘中に取るのは無理。だからこその撤退。
「ケイ、もう少し離れておくか? すぐには戻らない……というか、刻印系スキルの取得を考えてるだろ?」
「おっ、分かってんじゃん、アル! そのつもりだから、ワニを一旦振り切ってくれ!」
「……流石に飛んでりゃ追いつかれるとは思わないが、油断は禁物か」
「……あはは、そうでもないみたいだよ、アルさん」
「わっ!? ワニが木々をなぎ倒して追いかけてきてるのさー!?」
「このワニ、動きがかなり速いかな!?」
「ちょ、マジか!?」
ウォーターフォールで押し潰してたワニが、効果時間が切れかけて勢いが落ちてきた段階で駆け出してきてるよ!? てか、自己強化を発動してるっぽい!
「……足止めをする。『ブラックホール』」
「風音さん、ナイス!」
よし、風音さんのブラックホールでワニを空中に持ち上げられている。でも、暴れ方が凄まじくて、どんどん吸い寄せる力は弱くなってるな。これだけじゃ足止めにもまだ足りないか。
でも、これで風音さんがワニにかけたファイアエンチャントの効果は切れた。それなら、一か八かにはなるけどこの手でいけるはず!
「アル、一旦速度落とせ!」
「は!? ここで距離を稼がないでどうすんだ!?」
「Lv差があり過ぎだから、ヨッシさんのダイヤモンドダストで動きを鈍らせる! ワニ相手なら、それに賭ける!」
「え、私?」
「あー、そういう事か! 速度を落とさなきゃ、そもそも固定してるヨッシさんが発動出来ねぇんだな!」
「そういう事! みんなの固定は俺が引き継ぐから、ヨッシさんが昇華魔法を発動したら、再度加速で!」
「了解だ! ただ、速度は落とさず周囲を回る感じでいくぞ!」
「それで十分! ヨッシさん、合図をしたら頼めるか!?」
「うん、それは了解!」
上手くいくかは博打だけど、大急ぎで準備だ! 魔力値が空っぽだけど、みんなの固定をするのには少しだけ魔力値があれば十分だし、レモンを齧って魔力値を回復!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 88/114(上限値使用:1): 魔力値 7/290
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 69/114(上限値使用:1)
よし、これで下準備は完了! ここから先は、状態異常特化のヨッシさんに賭ける! アルはワニの周りを飛んでくれているし、まだ風音さんのブラックホールでまだなんとか浮かせられている。
「ヨッシさん、頼む!」
「了解! 『並行制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」
「あっ、ワニの暴れ方が大人しくなっていくのさー!」
「効果ありかな!」
ダイヤモンドダストが発動すると同時に、消滅したヨッシさんの固定用の氷塊の代わりに岩を追加生成してみんなの固定をしていく。……よし、上手く狙い通りにいったみたいだし、固定も終わった!
「アル、もういいぞ!」
「おうよ!」
「……ブラックホール、ギリギリだった」
ともかくワニから距離を取れー! てか、撤退するだけでも一苦労過ぎるんだけど!? 体制を立て直す為にも、今は撤退だ!
◇ ◇ ◇
それからアルの水流の操作の時間切れになるまで、ひたすら距離を取る事に専念した。そのおかげで、ワニの姿は今は見えていない。とりあえず振り切れたか……。
「撤退するだけで、一苦労過ぎるだろ……」
「それには同感だけど、それでも未成体の時に成熟体から逃げた頃よりはマシだって。……あれは、エリアを切り替えなきゃ振り切れなかったんだし」
「いやまぁ、そりゃそうだがよ……。あれ、今の段階で無理に倒す必要ってあるのか?」
「ぶっちゃけ、無い! フィールドボスが存在するかどうかの確認は出来たしなー」
「ケイさんが盛大にぶっちゃけちゃったのさー!?」
「だって、ここで誤魔化しても仕方ないしなー」
すぐに倒す必要はどう考えてもない。それは紛れもない事実だし、そこから目を逸らしても意味がない。あるとすれば、その上で挑む気があるかどうかだけだ。
「白の刻印や黒の刻印があれば、やり方次第ではいけそうかな?」
「あ、そういえばそんな事も言ってたね。強化と弱体化を叩き込めば、Lv差があっても有効打にはなりそう?」
「多分なー。風音さん、ちょっと質問なんだけどファイアエンチャントは普段と様子は違ったりした?」
「……普段より強力だった気がする? ……多分、水属性は相当弱まってた」
「やっぱりかー」
付与魔法を白の刻印:増幅で強化してしまえば、付与効果が強化されると考えて良さそうだ。そういう性質なのであれば、俺の水の付与魔法で水属性を強化すれば、より雷属性に弱くなる?
ふむふむ、白の刻印と黒の刻印をどうセットしていくかにもよるけど、組み合わせ次第ではかなりの威力強化が狙えるかもしれないな。まぁその辺を考えていくのは重要だけど、その前にやっておく事がある。これは忘れちゃいけない事!
「さてと、予想以上にLvが高いフィールドボスだったし、無理に戦う必要はないんだけど……討伐はやるか?」
「はい! 私はやりたいです! 新スキルを得るには、あの耐久性は丁度良いのです!」
「ま、それは確かにな。倒す必然性はないが、倒したいかどうかと聞かれるとやるしかねぇだろ。どうせ今回の競争クエストで死んだら送り返されるなら、ここでリスポーン位置を再設定して消費しても問題ないだろうしな」
「あ、そっか。確かにそうだよね。うん、それなら私もやりたいかも?」
「倒し甲斐はあるし、刻印系スキルの実験にもいいかな!」
「……敗走は嫌だから……倒したい!」
「おし、それじゃ作戦を立てて次は討伐するぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
なんだかんだでみんなも負けず嫌いだよなー。まぁ無茶を承知で強敵相手に挑むというのも、オンラインゲームの醍醐味だしね!
さて、それじゃ本格的にあのワニの討伐の手順を考えていきますか! その為にもまずはここからやっていかないとなー。
「まずは後回しになってた白の刻印と黒の刻印の取得からやっていくか。みんな、刻印石は2個はあるよな? 俺は3個あるけど」
「とりあえず今は2個あれば十分じゃねぇか? あ、いや、そうでもないな」
「え、アル? それってどういう意味かな?」
「いや、単純な話だ。簡略指示や支配共有で、もう片方の種族の方も呼び出せるんじゃねえか?」
「あ、確かにそれはそうかな!?」
「……簡略指示? ……支配共有?」
風音さんが不思議そうにしてるけど、その辺は知らないんだな。まぁちょっと前まで黒い龍もトカゲも単独進化だったんだし、交流が少なければ知らなくても仕方ないか。
「簡略指示は共生進化を続けてると手に入るスキルなのさー! 孤高強化Ⅰみたいな共生進化固有のスキル! 支配共有は支配進化じゃないと意味がないので、今は気にしなくていいのです!」
「……そうなんだ? ……簡略指示はどういう効果?」
「共生相手のスキルを、ログイン側の行動値や魔力値を使って使用出来るのさー! あと、共生指示よりも登録枠数が多いのです!」
「……それ、欲しい!」
「でも、成熟体での簡略指示の取得方法は分かりません!」
「……そうなの? ……それは残念」
その辺はなぁー。未成体での取得条件は共生進化状態でLv15以上育てる必要があったもんな。その基準と、オフライン版での成熟体の最大Lv60だった事から考えると、Lv30以上育てる事って可能性もあるんだよなー。
まぁ未成体で手に入るスキルだから、多少条件が緩和される可能性もあるけど、それはまだ未知数なところだから何とも言えない。
「はっ!? そういえば気にしてなかったけど、成熟体からの登録枠数はどうなってるの!?」
「そういえば気にしてなかったね? 未成体の頃はLvの半分の個数までだったけど……あ、その数から成熟体のLvの半分が上乗せになってるみたいだね」
ほほう、簡略指示の登録数ってそうなってるんだ。俺の同調共有も登録制だけど……あ、成熟体からはLvと同じだけの個数が上乗せかー。まぁ未成体まではLvの3倍の個数で90枠はあったんだし、それ以上あっても仕方ない気はする。
「……すぐには使えそうにないから……みんなに持ってる2個の刻印石をあげる」
「いやいや、風音さん、それは待った! 流石にそれは申し訳ないから!」
「ケイの言う通りかな!」
「……でも勝率は上げたい。……貸すのなら?」
「それならありか? ケイ、どうだ?」
「……悩ましいとこだけど、それならまぁ許容範囲か」
確かにここで刻印系スキルの手札が2種類増えるなら、勝率が上がる可能性は高い。風音さんの気持ちは分かるし、貸してもらうという形ならありかもしれない。
「あー、とりあえずみんな、肝心の白の刻印と黒の刻印を取得してしまおう! 具体的な内容はそこからで!」
「まぁそれもそうだな。俺とヨッシさんは支配進化だからこのままでもいいが、ケイとサヤとハーレさんは場合によってはログインの切り替えも必要だしな」
「そういやそうだったー!?」
あんまりロブスター側のスキルを増やす事が少ないから忘れ気味だけど、同調共有は登録制ー!? 刻印系スキルに何をセットするかは後で決めるとしても、コケとロブスターのどっちでも取得はしておいた方がいい!
「それじゃまずは、白の刻印と黒の刻印の取得をやっていくのさー!」
「「「「おー!」」」」
「……する事ないから……周囲の警戒をしてるね?」
「あ、風音さんはもう持ってるもんな。すまん、少し待たせる事になる!」
「……待つのは問題ないよ。……勝つ為の準備は大丈夫」
「そう言ってくれると助かる!」
でも、あんまり待たせないように出来るだけ手早くやっていこう! という事で、ポイント取得から白の刻印と黒の刻印を手に入れようじゃないか。
えーと、一覧から探して……お、あった、あった。取るのは確定だけど、一応詳細を見ておくか。
『白の刻印』
暴走した幾度かの進化を経た精神生命体の力の一部が結晶化して剥離した『刻印石』の力を、自身の強化として刻み付ける事が出来る。
どのような形で刻みつけるかは、任意に設定が可能。(再設定には新たな『刻印石』が必要となる)
1つの刻印を刻むと1分間は再度刻む事は出来ないが、10分経過すれば再度刻む事が出来る。(ただし、同じ精神生命体が10分間に刻めるのは3回まで。刻印の重複は不可)
消費行動値はLv×5。Lv上昇により、設定した刻印の効果の強化。
ふむふむ、10分間に3回までと、1回使うと1分間は使えないって使用制限があるから、消費行動値は控えめなんだね。これ、2キャラで2個使えるようにした方がお得なのでは?
あ、違う。『同じ精神生命体が10分間に刻めるのは3回まで』って制限は、コケだろうがロブスターだろうが、同じカウントって事か! あー、種類こそ使い分けられるけど、総数は変わらないって制限っぽい。逆に他の精神生命体……要は他のプレイヤーのは問題ないんだな。
まぁこの辺は仕様上の問題だから気にしても仕方ないし、サクッと取得をしてしまおう。
<増強進化ポイント100、融合進化ポイント50を消費して、スキル『白の刻印』を取得しました>
うへぇ、必要な進化ポイントが多いですなー。まぁ進化ポイントは余ってるから問題ないけどさ。さて、次は黒の刻印だな!
『黒の刻印』
暴走した幾度かの進化を経た精神生命体の力の一部が結晶化して剥離した『刻印石』の力を、敵の弱体化として刻み付ける事が出来る。
どのような形で刻みつけるかは、任意に設定が可能。(再設定には新たな『刻印石』が必要となる)
1つの刻印を刻むと1分間は再度刻む事は出来ないが、10分経過すれば再度刻む事が出来る。(ただし、同じ精神生命体が10分間に刻めるのは3回まで。刻印の重複は不可)
消費行動値はLv×5。Lv上昇により、設定した刻印の効果の強化。
白の刻印と違う部分は、強化だった部分が弱体化になってるくらいか。まぁ使う方向性が違うだけで、本質的には大差ないって事なんだろうね。さて、こっちもサクッと取得してしまおう。
<融合進化ポイント50、生存進化ポイント100を消費して、スキル『黒の刻印』を取得しました>
取得に必要な進化ポイントの種類が違うけど、こっちも特に問題なし! とりあえずこれでコケの方の取得は完了したけど、ロブスターの方も取得していかないとね。
「ロブスターの方でも取得するから、一旦切り替える!」
「あ、それなら私もかな!」
「私もなのさー!」
「おう、行ってこい! 俺とヨッシさんはその必要はないか」
「あはは、確かにそうだね。ここら辺は支配進化の便利なとこかも?」
「……そうなの? ……とにかく待ってるね」
「ほいよっと! 出来るだけ手早く済ませるぞ!」
「「おー!」」
という事で、ロブスター側でログインする為に一旦ログアウト! ロブスター側の取得と同調共有への登録を済ませたら、まだ全部の内容は確認出来てない刻印系スキルにセット出来る効果を確認していこう。それからどれをセットするかを決めないとね。
 




