第1114話 突然の出現
ジャングル……群雄の密林の北側のエリアへとやってきた! ちょっと話し合い中なので、今は移動は停止。どうやらここでは例の骨やゾンビ系の異形の敵への進化が発生するとの事。って、ちょっと待てーい!
「誰かが纏瘴を使う必要があるよな? そこ、どうする?」
「「「「あっ」」」」
「……迂闊に使えない?」
「おし、そこは偶発的に発生する事に期待しとくか」
「まとめを見る限り、瘴気の渦の自然発生は確認されてないっぽいけどなー。まぁまだ未確認なだけかもしれないけど……」
「なるほど、そう都合よくはいかないってか……」
確認した内容的には、競争クエストの参戦予定がない人が纏瘴を使って試してみたという話になってた。まぁ新しいタイプのアンデッド系の敵が競争クエストの対象エリア以外でも発生させる手段があるのが分かってるだけ、今は十分な情報か。まだ来れるようになって間がないしね。
「はい! 少し気になる事があります!」
「ん? ハーレさん、どうした?」
「他にもこっちに来てる人がいてもよさそうなのに、人が少ないのは気のせいですか!?」
「あ、言われてみればそうかな? 全然いないって訳でもないけど、マサキの場所に比べると人は少ないね」
「そう言われれば、そんな感じか?」
声自体は聞き取れないくらいのがちょいちょい聞こえてはいるけど、確かにマサキの周辺が結構混雑してた割には少ないような気もする。こっちへの移動は割と早く出来るような位置だったけど、人が少ない理由ってなんだろ?
まとめで確認すればそういう情報もあるだろうけど、そこは自分達で探っていきたいよな。なんでもかんでもまとめに頼る気は無し! さて、とりあえず人が少ない理由として思いつく内容としては……。
「群雄の密林の踏破とか、妨害ボスの討伐順番待ちを優先してるとか? あと、トーナメント戦の方に行ってるとかもあるか?」
「……どれもありそう」
「ありそうだが、もう少しこっちの方に誰かが来ててもいい気は――」
「ぎゃー! 助――」
ちょ!? なんか思いっきり叫び声が聞こえたんだけど、これは何事!? それに何か途中で叫び声が途切れていくように聞こえたのは気のせいか?
「みんな、警戒! 今の叫び声、どこからだ!?」
「西の方から聞こえたのさー! あっちの川の方!」
「多分、川の中に引き摺り込まれたんじゃないかな!」
「それで声が途切れた?」
「……ありそう」
「ケイ、今のうちに獲物察知をしちまえ。流石に距離がある気もするが、それで何か分かるかもしれん」
「……だな」
川まで効果範囲が届くか怪しいけど、やるだけやってみよう。でも、川で襲われたのなら、距離的に俺らには多分どうしようもない。ここに進出したプレイヤーが叫び声を上げるような相手か……。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 110/115
さて、反応はどうだ? うーん、やっぱりここからだと範囲外で反応が分からないな。黒い矢印自体はあちこちにあるんだけど……ん? 地味に東の方に赤い矢印がちょいちょい見える? 8人くらいが固まって動いてる連結PTって感じか。これってひょっとして……。
「川の方はやっぱり効果範囲外だ。それとは別件で、なんか赤の群集の連結PTが来てるっぽい」
「……赤の群集からもこっちに来れるのか」
「なんとなく思い当たる人達がいるのです!」
「同感かな」
「あはは、私も」
「……心当たりがあるの?」
「まぁこのタイミングで迷いなく来そうな集団は……どう考えても赤のサファリ同盟だよなー。多分、競争クエストには参戦してない人達か」
「おそらくな。違う可能性もあるにはあるだろうが、可能性としては高いだろう」
「……赤の……サファリ同盟。……強かった……ネコ2人の所属。……前から……名前だけは知ってた」
「だろうなー」
あまり他の人との交流してなかった無所属の風音さんでも、赤のサファリ同盟の名前は知ってたようである。まぁ弥生さんとシュウさんには、思いっきり午前中の戦闘で会ってるしね。
「……どういう人達?」
「細かくは知らないんだけど、リアル側での知り合い集団らしいぞ。ちなみに強いネコの人の黒い方がリーダーの弥生さん」
「……そっちがリーダー? ……てっきり、白い方のシュウって人かと思ってた」
「あー、見たのがあれだけじゃ、そういう判断にもなるか」
風音さんが見たのって、戦闘でハイテンションになってる状態の弥生さんだもんな。その後の共同の検証を持ちかけてきたのはシュウさんだし、シュウさんをリーダーだと思っても不思議じゃないよね。まぁよく見たら弥生さんの方にリーダーって表記はあるんだけど、注意深く見ないと表示されない情報だし、仕方ないか。
「ケイ、とりあえずどうすんだ? 参戦してない赤のサファリ同盟の人達なら、会ったところで問題ないだろうが……」
「そこそこ距離があるし、別に無理に話をする必要も……って、ちょっと待った!? 急激に近付いてくるのが1人いるんだけど!?」
「……なるほど、ルストさんか」
向こうも俺らに気付いて……って、空を飛んでるクジラなんだからバレバレですよねー。そしてそういう事をしそうな人にも心当たりはある。
これ、アルも言ってるけど高確率でルストさんだろ。えーと、フレンドリストで位置を確認……あぁ、やっぱりこのエリアにいたね。海の方に行ってたと聞いてたけど、もうそっちは終わりにしたのかな?
「……迎撃する?」
「あー、倒さなくていいけど、飛びかかってきたらブラックホールで足止めを頼んでいい?」
「……任せて」
いつものパターンで考えるなら、突っ込んできて根で捕獲されるまでがある! その前に今回は察知出来たし、折角だから風音さんに任せよう。
ジャングルの木々の合間を縫うように、凄い勢いで赤い矢印が近付いてきてるなー。ルストさんのあのサイズの木で、よくこんな速度が出せるな? って、姿が見え……はい!?
「皆さん、こちらにやってきていたのですね!」
「……『並列制御』『ブラックホール』『ブラックホール』」
「おや? 『移動操作制御』『根の操作』!」
「……っ!?」
ちょ、ルストさんが無茶苦茶な事になってるし!? ブラックホールに吸い込まれる前に、その影響下から生成した石に根を巻きつけて即座に離れて、そのままの勢いでクジラの上まで飛んできた!?
いや、今の挙動も無茶苦茶なんだけど……なんで小さな盆栽サイズの蜜柑の木になってんの!?
「お久しぶりです、皆さん! 競争クエストの話は、弥生さんとシュウさんから聞きましたよ! 青の群集には少しやられたようですが、勝てたようで何よりです!」
「それはいいんだけど……普通に登場出来ない?」
「……躱……された? ……今のタイミングで?」
なんか風音さんがショックを受けてるんだけど……相変わらずルストさんのこういう時の挙動は無茶苦茶だな!? えーと、大真面目にこのサイズであの速度はどうやって出してたんだ?
「久しぶりでしたので、つい……。私は競争クエストには参戦はしませんし、少し挨拶だけでもと思いまして」
「あー、そうか! 前に会ったの、俺らがテスト期間に入る前だったもんな!」
「えぇ、そうなりますね。あと、相当楽しかったようで上機嫌な弥生さんを見れましたし、そのお礼をと思いまして。お陰でお昼には良いお肉を食べさせていただきました」
「良いお肉……じゅるり……」
「はい、ハーレはそこでストップね」
「はーい!」
良いお肉って言葉だけでも相当な反応を示すね、ハーレさん!? というか、外食に行くみたいな事を言ってたけど肉を食べに行ってたのか。ルストさん的には棚からぼた餅な感じだよなー。
「ところでルストさん、なんで小さいのかな?」
「これはただの小型化ですよ? 森の中だと、この方が移動しやすいものでして。あぁ、そうだ、アルマースさん! そのマングローブのような根はなんでしょう!? スクショを撮らせていただいてもよろしいでしょうか!?」
「ちょ、待て待て待て!? スクショは公表しないって条件なら良いが、流石にこうなった条件までは教えられんぞ!?」
「……流石にそこは仕方ないですか。スクショに関してはそれで了解です! ヨッシさんも何やら不思議な部位が増えていますね? それはイカの触手でしょうか? スクショを撮っても構いませんか!?」
「わっ! 見ただけでよく分かったね? スクショなら別に良いよ」
「ありがとうございます! そちらの風音さんは……初対面ですね。黒いドラゴンに緑色のトカゲのセット! スクショを撮らせていただいてもよろしいでしょうか!?」
「……え?」
「駄目なら駄目で仕方ないですが、情報の流出を目的としない事は誓いますよ!」
「……え?」
あ、ルストさんの強引過ぎるマイペースで風音さんが完全に混乱してる。風音さんの魔法好きの様子でルストさんを連想したりもしたけど、こうして見てみるとルストさんの方が強烈だなー。
というか、今の間の動きでルストさんがどうやって移動してたかが何となく分かった。あれだ、ジャングルの中を蔦で『あーああー!』って言いながら移動するやつ! あれを空中の石に根を巻き付ける事でやってる感じ。振り子の要領でいいのか?
「風音さん、ルストさんは害は無いから大丈夫なのさー!」
「おや、困惑させてしまいましたか! これは失礼しました!」
「……うん。……それだけの動きが出来て……対人戦はしないの?」
「私は対人戦には興味ありませんからね! 弥生さんやシュウさんに『参戦しろ』と言われれば断れませんが、そういう事はまず無いので!」
「……そうなの? ……あの2人とどういう関係?」
「シュウさんは私の実の兄ですね。弥生さんは義理の姉になりますよ」
「……あの2人、夫婦?」
「えぇ、そうなりますね。おっと、これ以上は置いていかれそうなので、この辺で失礼します! それではまた!」
おー、思いっきりアルのクジラの上から飛び降りて、ジャングルの木々の中へと落下したら、また凄い勢いで他の赤い矢印が固まってるところに向けて移動していった。
えーと、結局ちょっと挨拶をして、気になった様子のスクショを撮っていっただけ? いやまぁルストさんらしい行動だけどさ。
「……なんだか嵐のような人だった。……あんな実力者がいたんだ」
「ウィルさんが引っ張り出した人……というか、赤のサファリ同盟が引っ張り出された実力者集団だからなー。まぁ対人戦はパスって人が多いらしいけど」
「……その例外が……あのネコの夫婦?」
「タカのガストさんも、赤のサファリ同盟なのさー!」
「……ガスト?」
「乱戦になった時、ルアーさんと一緒にいた人かな」
「……あぁ、あの時の! ……あの人も強そう」
風音さんはそういう他のプレイヤーに関する情報にはかなり疎いっぽいなー。まぁ殆ど関わらずに無所属でソロをやってたんだから、その辺は仕方ないか。こうやって一緒にやってる時にその辺の情報は伝えていけばいい。
「さて、予定外にルストさんが来たけど、ここからどうする? 川の方に確認に行ってみるか?」
「それもそうだなー。あ、そういや風音さんってまだアンデッド系の敵の討伐称号は得てないんだよな?」
「……うん」
「もし見つけたら、火の纏属進化をして炎魔法を……って、ダメか!?」
「……火魔法Lv8にした段階で、炎魔法は手に入った」
「あー、やっぱり……」
もし途中で異形の進化個体がいれば一時的に得た火属性で炎魔法の取得をやるのはどうかと思ったけど、それは駄目だったか。別経路で条件を満たしちゃってるもんな。
うーん、他の属性の進化の軌跡があれば良いんだけど……水の昇華魔法を使ってくる敵とか出てこないかな? そうすれば、俺がアブソーブ・アクアで水の結晶を生成出来るし、それなら風音さんのトカゲの方で清水魔法の取得も狙えるはず。
「……というか、誰が何を取りたいかの整理が出来てないな。川の方を見に行くなら急いだ方がいいと思うけど……」
「まだ時間はあるし、とりあえずそっちを優先でもいいんじゃないかな?」
「状況次第では空白の称号を使う必要もあるし、今はそっちを優先なのさー!」
「まぁすぐに焦る必要もないけどね」
「俺もそれで良いと思うぜ。まだ何を手に入れるかも決めかねてるしな」
「……同じく。……アンデッド系がいても……今は無理に倒さなくてもいい」
「ほいよっと」
まだみんなは具体的な方向性を決めかねてるっぽいし、何かあからさまに異変があった川の方へ行くのを優先するのでいいか。まだこのエリアに人が少ない理由がよく分からないし、その辺を調べながら進んでいくのもいいだろう。
「おし、それじゃ叫び声が聞こえた川に向かって移動って事で! アンデッド系をもし見つけても今回はスルーで、それ以外も移動優先で戦闘は控えめで!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
という事で、移動再開! 刻印石も手に入れたいとこだけど、あんまり変に時間をかけ過ぎると叫び声の元が辿れなくなるからね。ルストさんの急な出現で、もう既に少し出遅れてるからなー。
多分、襲われた人の救援には間に合わないけど、まぁゲームなんだし、死んでも問題はないだろ。でも、何がいるのかは気になるから確認には行かないとね。




