第1113話 ジャングルの先には
マサキが相変わらずのアイテムの争奪戦になりそうな事と、風音さんが持っていなかった『瘴気の凝晶』と『浄化の輝晶』の両方を手に入れられた。いやー、占有エリアって良いですなー。
それはともかく、とりあえずこの混雑してる場所から移動しないとね。
「で、どこに移動する? 希望があれば、そっちに向かうぞ?」
「はい! 北の端から他のエリアに行けたりはしませんか!?」
「あー、そういう選択肢もあったか。すっかり失念してたな」
「そういやそうか!?」
俺らは川の手前……まぁ今いる位置辺りまでしか来てないもんな。ここより北の範囲ってマップを見た限りでは狭いけど、その先に他のエリアがあるかどうかは確認してなかったっけ。全然考えてなかったけど、それはあり!
「ハーレさんの希望通り、北に行ってみるか? 俺も少し気になってきた」
「北の先はどうなってるか、全然情報は無かったもんね」
「どんなエリアなのかな?」
「……気になる」
それぞれの群集の安全圏の先に、新たなエリアが広がっているのは確定事項。だけど、北側についてはどうなってるかは全然知らない。おそらく情報自体は上がってるとは思うけど、ここまで来てるんだから自分達の目で確認しておきたいな!
「みんな気になってるみたいだし、ハーレさんの案を採用で!」
「やったー! アルさん、移動をお願いします!」
「あー、移動はゆっくりでいいか? まだ15時半ってとこだし、余裕はあるだろ」
「そんなに距離もないし、そうするかー。移動しながら、風音さんの火魔法をLv10にしていくか!」
「……うん、そうする。……とりあえず『小型化』」
「それじゃ出発するぞ」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
風音さんが小さくなってアルのクジラの背に乗ってから、群雄の密林の北端に向かって移動開始! そういえばここの川って、どういう風に流れてるんだろ? 上流は東側で、下流が西側っぽいけど、どっちの先も不明? うーん、とりあえず今はそこはいいか。
「……それじゃ早速使うね。……うん、火魔法はLv10になって……アブソーブ・ファイアが手に入ったよ」
「おめでとうなのです!」
「風音さん、おめでとうかな!」
「おめでとう、風音さん。ところで、なんで火属性にしたの?」
「……ジェイのコケを……焼き尽くす!」
「そういう理由かい!」
予想外のとこから、火魔法のLvを上げた理由が出てきたよ! あ、でも風音さんは検証の邪魔をした青の群集に対して怒って灰の群集に入ってる部分もあるから、それほど予想外でもないのか?
「……ボスの最後の横取りは……許さない!」
「あー、なるほど。そっちもあったかー」
あれに関しては俺はサヤに叱責されるまで呆然と戦意喪失してしまってたけど、風音さんはキレてたっけ。……思い出したら、なんかイラッとしてきた。
よし、他の競争クエストの対戦エリアのボスの仕様がどうなってるかはまだ分からないけど、どこかでやり返してやろうじゃん! 乱入だろうが、奇襲だろうが、横取りだろうが、なんでもありな競争クエストだけど、それが適応されるのは青の群集だけじゃない。やったからにはやり返される覚悟はしてもらおうか!
「ケイさんの物騒な独り言が、いつも以上に漏れまくってるのです!?」
「でも、それでこそケイかな!」
「あはは、確かにそうだよね」
「あれには完全にしてやられたからな。ケイ、やる時は全力でやり返すぞ」
「……みんなで……青の群集を叩き潰す!」
「おうよ!」
意趣返しのつもり……だけじゃないんだろうな。今考えると、俺らの戦意喪失も狙っていた可能性はある気がする。
それこそサヤがすぐに叱責をしてくれなければ、あそこで瓦解してたかもしれない。勝てる状況は揃ってたのに、危うくそれを台無しにするところだった。そこはあの時に総指揮をしてた身としては反省しないといけないな。
でもやり返すといっても、単純に横取りし返すのもなー。それでも良いんだけど、それ以上に完封勝利の方が勝った気になれそうだよね。
ボスのトドメの横取りを実行に移したのは斬雨さんだけど、作戦立案をしたのは間違いなくジェイさんだし、俺からも何か反撃してやる! 今から覚悟しとけ、ジェイさん!
「ケイ、風音さん、とりあえず殺気は一旦抑えろよ。今から気を張ってても疲れるだけで意味ねぇぞ」
「ほいよっと」
「……分かった」
そこはアルの言う事がもっともだから、今はリラックスだなー。おー、さっきの刻印石の収集PTメンバーが揃ったみたいで出発していって……すぐに戦闘になってるね。そういや、ここの適正Lvっていくつくらいになるんだろ?
「そういえば、ここってまだ敵は出るのかな?」
「ん? 普通に戦ってる人もいるぞ?」
別に占有エリアになったからって、今までのどこのエリアも敵が出てこなくなる訳じゃなかったしなー。ミズキの森林とかは俺らの方が進化して敵が近寄らなくはなってるけども、ここはまだそんな段階じゃないし。
「ごめん、言葉が全然足りてなかった。あの異形な敵は出てくるのかな?」
「サヤ、それは1番重要なとこが抜けてるぞ!? あー、でもそれはどうなんだ?」
「あはは、ごめんかな。でも、どうなってるのか気になってね」
「そこは分かりません!」
「その辺、どうなってるんだろ?」
ここの瘴気はマサキが進化すると同時に消えてるもんな。瘴気の渦が発生して初めて誕生していたあの異形の骨の敵はどうなってるかは不明? あ、そういやゾンビもいたっけ。
「そもそもまだ種族名すら不明というか無いんだし、今考えても仕方ねぇんじゃねぇか? あれ、多分どこかのタイミングで名付ける演出があるだろ」
「あ、確かにそれはそうかな?」
「それ、弥生さんも言ってたなー。まぁ確かめてみるとしたら、ここで瘴気収束を使って瘴気の渦が作れるかどうかだとは思うけど……誰か、やってみる? 俺は無理だけど」
「そだね。でも、そのくらいの情報ならもう既にありそう?」
「……まとめを見てみたら……新着にあった。……瘴気の渦の生成自体が……出来ないって」
「あー、やっぱりそんなとこか」
競争クエストが終わって占有エリアになってしまえば、あの異形の敵の登場はあり得ないんだな。まぁあんなのがホイホイと占有エリアの中にいても困るか。
もうここでは瘴気の渦が生成出来ないのなら、無所属がやってくる心配もいらなさそう。……あれ? そうなると競争クエストの対象エリアが少なくなればなるほど、無所属は1つのエリアに集まっていくようになってない?
「ちょっと疑問に思ったんだけど、新エリアの方の競争クエストって最後の1ヶ所になったら無所属の人を倒した時のエリア移動はどうなるんだ?」
「……そうか、仕様的に飛ばせる他のエリアが無くなるのか」
「ランダムリスポーンになるのかな?」
「どうなんだろ? 対戦エリア外に追い出しって可能性もあるよね」
「今の時点じゃ分からないのさー!」
「……時期尚早?」
「まぁそうなるよなー。この辺は実際にその時が来ないと分からないか……」
対戦エリアが1ヶ所だけになるのはまだ先の話だし、対戦エリア内でのランダムリスポーンも対戦エリア外への追い出しも、可能性としてはどっちもあり得る。断定する手段がないから、この辺は気に留めとく程度にしておくべき内容か。よし、この話題での脱線はここまで!
「さっきの話に戻すけど、骨やゾンビって競争クエストの対象エリア以外で出てくると思う?」
「あー、それか。刻瘴石なんてものが存在してるんだし、競争クエストの対象エリアだけって事は無いだろ。この先でその辺を探索してみるか?」
「エリア次第だけど、それもありかもなー」
分からない事は調べてみればいい。さっきの無所属の件とは違って、こっちは確認する事は出来るんだしね。まぁ見つかるかどうかは、実際に探してみないと分からないけど。
「はい! それなら、エリアの移動が完了したら瘴気の渦が作れるか試してみるのはどうですか!?」
「それはありっちゃありだけど、Lv30の未成体の残滓を見つけたらなー。今日、まだ纏瘴も纏浄も使う可能性はある訳だし」
「はっ!? それはケイさんの言う通りなのです!?」
「その辺は見つけた時に考えよ? サヤ、ハーレ、見つけるのを期待してるからね」
「任せてなのさー!」
「任せてかな!」
もしLv30の未成体の残滓がいれば、あの異形への進化が発生する条件が整う可能性はある。まぁシュウさん達と共同の検証をしてた時に、未成体の残滓は弥生さんが見つけたみたいな事は言ってたような気もするけどね。その辺は自分達で確認しておこう!
「そろそろエリアの北の端だな。こっち方面へは、妨害のボスはいるのか……?」
「それは行ってみれば分かる!」
もし通れないなら、無限ループに入って突破出来ないはず! 多分だけど安全圏に発生した妨害ボスを突破した先のエリアから、この先のエリアに回り込める気はする。
ただ、それだと赤の群集や青の群集から近くて、灰の群集からは遠い位置になるから条件的に不公平になる。だから、あの城塞ガメが解放条件では無いはず。そうじゃないと安全圏に妨害ボスが発生したタイミングがおかしい。
多分だけど、競争クエストが終わった段階で無限ループが解除な気がするんだよなー。まぁまとめを見れば書いてそうだけど、この先のエリアについても書いてるだろうからその確認は後回しで!
「おっしゃ! アル、突っ込めー!」
「おうよ!」
まだまだ色々とやる事はあるけども、まずはこの先のエリアの確認から! 無限ループにはなってませんように!
<『群雄の密林』から『名も無き未開の河口域』に移動しました>
おし、無限ループには入らずにエリア移動は出来たん……って、河口域? おぉ、そう来たか!? うっわ、飛んでるから結構遠いけど海の様子が見えるぞ! アルも見える範囲を見渡す為に、移動は止めてくれたね。
「わっ!? 海が見えるかな!」
「川が西から東に蛇行して、海に流れていってるみたいだね」
「河口の近くの木、マングローブなのさー!」
「本家のマングローブが出てきたぞ、アル!」
「どうせ俺は紛い物だっての!」
「……ジャングルの延長ではあるけど……これはこれで良い雰囲気」
まさか西に流れていってた川が、盛大に蛇行して東へと向きを変えてるとは思わなかったな。ははっ、でもこれはジャングルやこれまで行った河口とは違った雰囲気で良いもんだ。マングローブの生えてる位置は遠いけど、それでも明確に違っているってのがよく分かる。
「この海って、海の新しいエリアに繋がってるのかな?」
「あー、可能性としてはありそうだな」
「だが、近いとも限らんぞ?」
「途中で強い敵とかがいそうな気もするのです!?」
「海の方に行ってみる?」
「……行ってみたい。……でも……海中は適応してない」
うーん、風音さんは海中がダメなのか。まぁソロで動いてて、トカゲと龍なら海に行く機会もそう無いだろうしなー。生存圏は大して変わらないから『共生適応』は使ってないだろうし、そもそも使ってても海中は無理か。
戻って準備をして進んでいくという手段もあるにはあるけど、その辺はどうしよう?
「海の上を飛んでいくか……?」
「ケイ、それは確実に死ぬぞ? 海面にいたら、攻撃が苛烈になるのは分かってるよな?」
「分かってるって。今のは言ってみただけ」
「……そういう事があるの?」
「海は海中を通れって事みたいでなー。俺かアルが水の膜で覆って、進むって手もあるけど……まぁ多分格上の敵は出てくるか」
「……なら、今はいい。……倒せる範囲で……進む」
風音さんとしては行ってみたいという気持ちはあるけど、死亡前提で突っ込んでいく気まではないみたいだね。まぁそういうのも楽しそうではあるんだけど、他にも色々とやる事があるもんな。優先順位はしっかりと決めていきますか。
「死亡前提で行くのは、またの機会?」
「ヨッシ、今はそれで良いのです! サヤ、Lv30の未成体の残滓を探すのさー!」
「うん、そうしようかな! ケイ、獲物察知もお願い!」
「ほいよっと」
残滓は薄い黒の矢印になるから、獲物察知でも探しやすい。俺の獲物察知の情報と、サヤとハーレさんの目視での確認で探していきますか!
「ところで、異形の敵への進化が成功したとして……何か旨みがあるのか?」
「「「「あっ」」」」
「……特にないの?」
既に俺らは討伐称号を持ってるから、倒す事にこれといったメリットは無かったー!? いやいや、それでも異形の敵の進化が、競争クエストの対象エリア以外で実行出来るという情報自体は役に立つはず! って、それはもう既に情報が上がってる可能性があるよなー!?
えぇい、既に判明済みの情報を調べても仕方ないし、ここはまとめ情報の確認! もしまだその辺の情報が無いのであれば試してみる価値はある……って、既に情報はあったー!?
「あー、うん。まとめを見たけど、誕生はさせられるっぽい。成熟体からの新スキル向けの討伐称号の一例として上がってたよ」
「空白の称号を使って、新しく上位の応用スキル取得を狙ってみるのはどうかな?」
「なるほど、確かにそれはありかもな。俺も海水魔法や樹木魔法の応用魔法スキルや、クジラの応用連携スキルは欲しかったりするしな」
「あ、それなら氷か雷の応用魔法スキルは取りたいかも?」
「……意外と……旨みはありそう? ……その討伐称号……持ってないから……応用魔法スキルの取得……狙いたい」
「誰が何を取りたいか、整理する必要がありそうなのさー!?」
「だなー」
空白の称号を使えば、十分なほどの旨みがあったよ。まぁこの辺は要相談だし、今は誰が何個空白の称号を持ってたっけ?
風音さんは分からないけど、確かみんな2個は持ってるはず? 『烏合の衆の足掻き』を消した時以外には使ってないはずだし、3rdの解放ボーナスのがあったよな。今こそ、それの使い所かもね!




