第1107話 準決勝、第2回戦 前編
ひとまず準決勝の1戦目が終わって、少しの休憩タイム。紅焔さんが負けたのは残念だったけど、灰の群集にはまだまだ強い人がいるのが分かった。
富岳さんの戦い方を見てて思ったけど、多分さっき紅焔さんを倒した戦法は手段の1つに過ぎないはず。あの戦法が上手く決まるのは、結構条件的に厳しいとこはあるもんな。決まれば相当強いけど。
とりあえず今は風音さんとボーリングさんの準備中なので、少し休憩中。いやー、流石に戦闘の水準が高い! 予想外だったのは、魔法戦というよりは物理攻撃での戦闘がメインになってた事か。
「てか、ハーレさん。岩の操作が実は土の操作だって気付いてただろ?」
「ふっふっふ、気付いてましたとも! 操作をした瞬間、3つに離れてたもんね!」
「あ、それは私も思ったかな! それにハーレは岩の操作とも土の操作とも言ってなかったよね?」
「え、そうだったの?」
「サヤ、正解なのです! そこは私が言うべき事じゃないと思ったので、断定しない形で言っておいたのさー!」
「相変わらず、よく見てるなー」
「あの時点だと違和感はあったが、完全にフェイクとまでは気付いてなかったんだがな……」
あ、地味にアルもそこは気付いてなかったんだ。こうして観戦をしてるだけでも気付けないのに、戦闘中の紅焔さんにあれを気付けというのは無茶な話か。
富岳さん、俺らの知らないところで結構活躍してるのかもね。あ、でも情報共有板によくいるカンガルーの人なんだから、その辺は不思議でもなんでもないか。
「そういや、みんなはボーリングさんってどんな人か知ってる?」
「ううん、知らないかな?」
「俺も知らねぇな。だが、多分荒野エリアの人だろ。その辺りから予想は出来ないか?」
「荒野エリアの人で、ボーリングかー。……名前は関係ない気がする」
「あはは、まぁ名前と種族が噛み合ってる人もいるけど、無関係な人もいるもんね。2ndや3rdの事も考えたら、本当に当てにならないよ」
「確かにそうなのさー!」
むしろ、噛み合ってる人よりも噛み合って無い人がネタに走ってるよね。招き猫さんがネコとか、マムシさんが大蛇とかは分かるけど、タコなのにいか焼きって名前は完全に狙ってる。
「あ、準備が終わったみたいなのさー! それじゃ実況を再開していきます!」
「「「「おー!」」」」
という事で、少しの休憩タイムはこれにて終了! さて、準決勝の2回戦はどういう戦いになるかな? 贔屓になるから表立っては応援出来ないけど、風音さん頑張れ!
「間もなく準決勝、第2試合が開幕です! ここで改めて出場者のご紹介しましょう! まずは森林深部ブロックを勝ち抜いてきた風音選手ー! そしてそれに対するのは荒野エリアで勝ち抜いてきたボーリング選手ー! 果たしてどのような戦いを見せてくれるのか!? そろそろ対戦エリアへの転送となりますね!」
今の時点ではトーナメント表しか出てないから、まだボーリングさんがどういう種族なのかは分からない。まぁ俺らが風音さんの事を知ってるように、ボーリングさんの事を知ってる人は知ってるんだろうけどね。
「さぁ、対戦エリアへの転送が開始されました! 風音選手は黒い西洋系のドラゴンに緑色のトカゲがくっついています! 対するボーリング選手は……これはアルマジロだー!」
なるほど、アルマジロでボーリングか。なんか転がってピンを倒すボウリングを連想するけど、その辺って関係あったりする? このトーナメント戦、別に魔法オンリーではないからバランス型で転がって体当たり攻撃とかあり得るしなー。
「種族についてはどう見ますか!? 解説のケイさん、ゲストのアルマースさん!」
「風音さんは個人的に色々と知ってるけど、贔屓が入ったらいけないからその情報は控えめで解説するぞー。その上で、ドラゴンは今回の魔法の取得狙いには向いてる種族だな」
「それに対してアルマジロのボーリングさんは……色が属性によるものなのか、素の色なのかが判別しにくいな。特筆して白い模様も見当たらないから、魔法型だとは思うが……」
「風音選手もボーリング選手も、共に白い模様は見当たりませんからねー! これは魔法型同士の戦いとなるのかもしれません!」
実はアルマジロの見えにくい爪周りが白いという可能性もない訳じゃないけど、それは今の時点では確認出来ない。まぁ魔法特化同士の戦いになっても、別に不思議じゃないけど。
どっちかというと、さっきの紅焔さんと富岳さんの戦闘が物理に寄り過ぎた決着になっただけだしさ。でも、共生進化や支配進化の相手を隠しているという可能性もある。
「そして今回の戦場は、夜の森林エリア! 天候は雨となっております! これは黒い体色の風音選手が有利かー!?」
「晴れだったらそうかもしれないけど、雨だと微妙。視界が塞がるほどの土砂降りじゃないし、どこを飛んでるかが浮き彫りになるしな」
「だな。むしろ、ボーリングさんの方が隠れる場所が多くて有利かもしれん。まぁ風音さんもボーリングさんも、動き方次第か」
「なるほど、確かにそうかもしれませんね! 上手く地形を利用して立ち回るのか、それとも強引に押し切るのか、その辺りも見所でしょう!」
なんというか、ハーレさんもそのくらいの地形や天候での有利不利は把握してるだろうけど、あえて俺らに解説を振ってるな? 実況が全部喋って解説の役目を奪っても駄目だから、そういう調整をしてるっぽい気がする。
まぁ本当にハーレさん自身では把握し切れてないものもあるみたいだから、わざと振ってくるのも、本当に解説が必要なのも、どっちもしっかりとやっていきますか。
「おっ、カーソルに白い線が入ってるって事は新入りさんか! って、あれ? 黒いドラゴンで新入りって……ジャングルで『ビックリ情報箱』と一緒に動いてたって人か!」
「……『ビックリ情報箱』? ……誰の事?」
「ん? あれ、別人? あー、そうか! 新入りさんなら、この呼び方を知らないだけか! えーと、正式な共同体名はなんだっけ? あ、思い出した! 『グリーズ・リベルテ』だ!」
「……それなら……そうだよ?」
「なるほどなー! おっし、それじゃ全力でお手合わせお願いします! あ、開始地点は初期位置からでいい?」
「……うん、問題ない」
まだその呼び名は出ているのか、忌々しい呼び名め! 最近はあんまり聞かなくなってきてたと思ったのに、根絶し切れてなかったとは……。
「えー、ここで注釈を付け加えておきましょう! 『ビックリ情報箱』いう呼び名は私達『グリーズ・リベルテ』を示すものではなく、解説のケイさん個人を示すものとなっています! その辺りは誤解がないように、よろしくお願い申し上げます!」
「これは大事な内容だからな。誤解は解消しておかないといけないものだ」
「って、おいこら!? ハーレさんもアルも、地味に俺1人に押し付けんな!? 不本意な呼び名だけど、俺1人へのものじゃないぞ!」
「「……っ! ……ふっ……っ!」」
「サヤもヨッシさんも、他人事みたいに笑いを堪えてるんじゃない!」
って、中継を見に来てる人達からも笑われてるし!? ドサクサに紛れて、本当に何をやってくれてんの、ハーレさん!? そういう事をするならVR機器をハーレさんに売る額、倍くらいに引き上げてやろうか!
「えー、後が怖いので訂正しておきます! 私達『グリーズ・リベルテ』としましては、『ビックリ情報箱』という呼び名は許容しておりません! ケイさんだけでなく、これはメンバー全員の総意なので、その辺をご理解頂けると助かります!」
「総意じゃなかったら、そりゃ俺1人に押し付ける理由がないもんなぁー!?」
「今のはついうっかりなのさー!?」
「うっかりでやる事か!」
「ケイ、それ以上は……ふっふふ……脱線し過ぎ……ふふっ……」
「笑いを堪えながら止めようとしても説得力ないけどなー!?」
いや、本当に! って、大真面目に実況の最中なんだから脱線のし過ぎなのは間違いないか。くっそ、もう開始のカウントダウンが始まってるし、とりあえずハーレさんが訂正はしたから、これ以上は今は無し!
「ハーレさん、もう追求しないから、とりあえず実況の続き!」
「はーい! それでは改めて実況を行っていきたいと思います! もう間もなく開始ですね! それではカウントダウンをしていきましょう! 5……4……3……2……1……試合開始!」
ふぅ、変な脱線はあったけど、なんとか開始までには間に合った。さて、それじゃ風音さんとボーリングさんの一戦を見ていきますか!
「……『白の刻印:守護』『ゲイルスラッシュ』」
「ちょ、いきなり!? 『自己強化』!」
「先手必勝とばかりに、開始早々に上空へと飛び上がった風音選手のトカゲが白光と六角形のバリアのようなマークを刻みながら、風を凝縮させていくー! 対するボーリング選手は、即座に離れる事を選択したようだー!」
「おー、いきなり大技か。白の刻印:守護でキャンセルを防ぎつつ、暴風魔法で一気に攻める気だな。アル、暴風魔法の内容って分かる?」
「一応、チェックはしておいた。暴風魔法のゲイルスラッシュは、収束させた部分を中心にして広範囲に風の斬撃を放つ応用魔法スキルだ。邪魔な木々を一気に排除するつもりだろうな」
「風音選手は、まずはボーリング選手が隠れられる場所を無くそうという狙いなのですねー! さぁ、ボーリング選手はこれをどう凌ぐのかー!?」
風音さんが先手からキャンセルを防ぐようにした事は、ここでこれを確実に発動したいからなんだろうね。てか、今の風音さんはトカゲの方でログイン中で、何気に刻印系スキルも設定してるんだ。てっきりドラゴンの方かと思ってたけど、どっちも魔法型なんだしステータスは大差ないのかも?
でも、風音さんは最近まで共生進化はさせてなかったから『簡略指示』はまだ使えないはず。あれが使えれば凶悪になりそうだけど、成熟体であれを手に入れるにはどうしたら良いんだろう?
「キャンセルが出来ないなら、これで! 『硬化』『移動操作制御』『並列制御』『ウィンドボム』『転がる』!」
「……やるね」
「おーっと、ボーリング選手が移動操作制御で岩のジャンプ台を生成し、爆風を推進力に変えて転がっていくー! そして、空を飛ぶ風音選手に向かって盛大にジャンプしたー!?」
おー、ボーリングさんはそういう使い方をするのか。岩の操作を使ったら行動値の消耗が激しいから、あえてここは移動操作制御で発動した……おっ、ジャンプした瞬間に即座に岩のジャンプ台を消したね。へぇ、そういう使い方か。
「『ウィンドボム』『ウィンドボム』! 『移動操作制御』『サンドショット』!」
「……むぅ」
「ボーリング選手が更に上空へと自身を打ち上げていくー! そして、一度解除した移動操作制御で自身を岩で覆い、砂岩魔法で砂の凝縮を始めたー!」
「おっ、これは上手い!」
「ケイさん、それはどういう事でしょうか!?」
「これで風音さんは、ゲイルスラッシュの攻撃先を森にするか、ボーリングさんにするかの2択を迫られた事になるからな。ボーリングさんの隠れる場所を減らすのが目的だったんだろうけど、自分より上を取られたのは誤算のはず」
「空で戦う手段は色々あるが、今のボーリングさんのやり方は上手いもんだ。それに、この状況だと風音さんの白の刻印は無駄撃ちになってるしな」
「確かに発動はボーリング選手のサンドショットの方が後になりますし、牽制以上の効果は無かったようですね! さぁ、風音選手はここからどういう選択をするのかー!?」
だけど、応用魔法スキルの溜めでは移動は自由に出来るからなー。これは、どっちが上を取るかが重要になってくる気がする。
「……それなら……移動操作制御の……岩を砕いて落とすまで」
「させるかって!」
「風音選手がボーリング選手へと距離を詰めようと飛び立つが、ボーリング選手も負けじと距離を詰められないようにと岩で空を飛んでいくー! 両者の移動速度に大差はないが、これはどうなるのかー!?」
「あー、これは風音さんが不利か。ボーリングさんが普通に岩の操作で発動してたらそうでもなかったけど、移動操作制御で発動してるのが上手い」
「あれならどんな無茶な加速をしても、操作時間は減らないからな。風音さんがゲイルスラッシュの溜めをしてる状態じゃなけりゃ、些細な攻撃で強制解除が狙えるんだが……」
「先手で攻めようとした風音さんの戦法が仇になっているという事ですね!」
「簡単に言えばそうなるなー」
これはちょっと風音さんが焦り過ぎたか? そろそろゲイルスラッシュの溜めが終わりそうだけど、ボーリングさんに有効打を与えられるかは怪しい状況になってきた。
「……仕方ない」
「ここで風音選手、ボーリング選手を追いかけるのをやめて森へと降りていく! 方針の変更かー!?」
「まぁ無理に追いかけても、有効打にはなりそうにないもんな。それなら手段を変えて、別の攻撃手段を模索した方がいい」
「問題は、具体的にどういう手段を取るかだな」
「失敗が見えている作戦は破棄して、切り替えろという事ですね! さぁ、森へと降りた風音選手は一体何をするのかー!?」
まだまだ始まったばかりのこの準決勝の第2回戦。ここから風音さんがどう動いていくのか、そしてボーリングさんがそれにどう対処していくかが見所だな。
森に降りた風音さんがどうする気なのかが気になるところ。とりあえずゲイルスラッシュを撃つのは間違いないだろうけど、その後に何をやるかだね。




