第1101話 これからどうするか
ちょっと思いついてる瘴気と浄化を同時に持つ方法だけど、詳しい内容は他の群集に聞かれないようにという事で手早くミズキの森林の湖の付近まで戻ってきた。
そういや今更だけど、今って肉食獣さんはいないんだな。心なしかモンスターズ・サバイバルの面々も普段に比べると少ないような? まぁ紅焔さんと風音さんが参戦しに行ってる魔法限定のトーナメント戦に行ってるのかもしれないね。
「さて、ケイ。詳細を話せ」
うわぁ、アルの声に合わせてみんなからの無言の視線が集まってるー!? まぁ瘴気と浄化を合わせて使おうなんて、今まで考えた事なかったもんな。根本的に浄化属性は瘴気属性への特効だし、正直ただの思いつきだから上手くいくかは全く不明だけど。
「いや、シンプルと言えばシンプルな内容だぞ? 瘴気汚染・重度の状態で纏浄をしたらどうなるのかって疑問に思っただけだし」
「……シンプル過ぎて、その発想は無かったな。マサキの浄化と瘴気は調和させるものって発言が気にはなってたが、そういう手があったか」
「ん? アルも気になってたんだ?」
「まぁな。纏浄と纏瘴を同時に使う方法でもあるのかと思ってたが……」
「あのマサキの言葉はヒントになってたのかな?」
「どうなんだろ? 瘴気汚染を治療して終わりって可能性もありそうな気はするよ?」
「属性としてどっちも持ってる訳じゃないもんね!」
「……実際にやってみないと、なんとも言えないか」
「だなー」
だからこそ模擬戦で可能そうかどうかを聞いてみたんだけど、使用制限がかからないなら試せそうではある。でも、今から模擬戦で検証かー。
んー、検証続きってのもあれだし、魔法をLv10に上げるのを目的としたトーナメント戦も見たい。刻印石も手に入ってるから刻印系スキルの取得もしたいし、さっきのシュウさん達との検証の報告もあるんだよな。
「……言い出した張本人の割に、あんまり乗り気じゃねぇな?」
「いやー、色々とやりたい事が他にもあるもんで。さっきの報告も上げといた方がいいしさ」
「はい! それなら、手分けをしてやるのはどうですか!? 纏瘴も纏浄も、ケイさんとアルさんだけに任せる必要はないのです!」
「あ、そっか。私もハーレもサヤも、今は昇華魔法は使えるもんね」
「え、でもアブソーブで吸収しないと意味ないんじゃないかな? そうじゃないと瘴気汚染・重度や過剰浄化・重度に纏浄や纏瘴は重ねられないよね?」
「「あっ」」
「最低でも俺は確定かー」
「……俺らだけでやるなら、属性を合わせる必要もあるから俺も確定だな」
アブソーブ系のスキルの使用が必須な以上は、俺がやらないっていう選択肢は無かった。くっ、他に灰の群集でアブソーブ系のスキル持ちはいないのか!? って、それを増やす為のトーナメント戦の真っ最中だよ!
「あの、皆さん。それでしたら、検証案件として上げておいてアブソーブ系のスキルを手に入れた人が増えてからでも遅くはないのでは? 内容的には気になりますけど、そこまで急ぐものでもないですよね?」
「エレインさん、ナイスアイデア! よし、そうしよう!」
「……地味に今日は検証に飽きてるな、ケイ?」
「飽きたっていうか、他の事をしたいだけだー! 今の時点で、今日はもうかなり検証してるしな!」
午前中はLv10まで上げた水魔法とその際に手に入れたアブソープ・アクアの検証を長々とやって、さっき刻瘴石と刻浄石の検証を終えたばかり。その間に大々的に競争クエストでも動いてた上に総指揮までしたんだから、他の事をしてもバチは当たらないはず!
「ま、気持ちは分からんでもないな。それなら、少しのんびりとトーナメント戦でも見に行くか?」
「俺はそれで賛成! みんなはどうだ?」
「紅焔さんと風音さんがどうなってるかが気になるのさー!」
「お互いのこだわりで、ちょっと喧嘩になってたもんね。うん、確かに気になる」
「私も気になるし、今日はまたもう1戦あってもおかしくないから、今はのんびりするのは賛成かな!」
「おし、それじゃ決定!」
「なら、桜花さんのとこに行くか。風音さんは桜花さんが中継するブロックに出るって言ってたしな」
「よし、それでいこう!」
そういえば、今回のトーナメント戦って何人規模でのトーナメントなんだろ? あんまり大規模にし過ぎたら時間がかかるはず。その辺の調整はしてるとは思うけど、具体的な情報が分からないね。
「アル、何人規模のトーナメント戦か分かる?」
「いや、それは知らないな。エレインさん、その辺は知らないか?」
「それなら知ってますよ。灰のサファリ同盟主催のものは海エリアを除く4つの初期エリアで4ブロックに分けて、1ブロック8人でやってますね。海エリアは別枠で、2ブロックで1ブロック16人でやっていますよ。どこも参加に必要な情報ポイントは上限の200です。開催回数を増やせるように、スキル強化の種が手に入る最小限の規模にしてる感じですね」
「あー、そんな感じか!」
確かスキル強化の種は、勝ち抜いた時の賞品で情報ポイント4000だったはず。1ブロック8人で4ブロックなら32人で、集まる情報ポイントは6400。スキル強化の種を手に入れられるのは、勝ち抜いた1人だけか。
まぁ時間の都合はどうしてもあるから、下手に参加人数を増やせば良いってものじゃ……って、ちょっと待った。今、灰のサファリ同盟主催のものって言った?
「あー、もしかして灰のサファリ同盟以外にも、同じようなトーナメント戦を主催してる共同体がある?」
「あります……というか、モンスターズ・サバイバルも開催中ですよ。肉食獣はそちらに行ってて、私がここの留守を預かってる感じですし」
「あー、そういう状態か!」
肉食獣さんがいなかったり、人数が少ない気はしてたけど、そういう理由か! まぁ開催出来るだけの共同体の規模なら、灰のサファリ同盟だけに頼る必要もないよなー!?
「まぁモンスターズ・サバイバルの方は連盟機能は使っていないのでブロック分けが出来ていないんですけどね。なので、1ブロック32名参加の長期戦にはなっています」
「そういやブロック分けを使うのには、連盟機能の使用が必須だったな」
「えぇ、それで少し部門分けして分割しようかという話も出てますね」
「おー!? そうなんだー!?」
なるほどなー。同じ共同体でも、あえて分割して連盟機能でまとめた方が利点があるって事か。1PTの人数にも満たない、小規模な共同体の俺らグリーズ・リベルテとは大きく違う部分だな。
「エレインさん、他にそういうトーナメント戦をしてるところってどこがあるの?」
「そうですね、有名な共同体ですとオオカミ組がやっていますよ。あそこは連盟機能で部門分けしているので、灰のサファリ同盟と同様の形で開催していますね」
「あ、そうなんだ。これ、思った以上にスキル強化の種を手に入れる人が出るんじゃない?」
「……他の群集も、同じような事はしてそうかな?」
「してないと思う方が危険だよなー」
今回の競争クエストで主戦力になってくるスキルは新たな応用スキルだと思ってたけど、意外とLv10に到達したスキルも侮れない内容だもんな。それはどこの群集も把握してるはずだし、スキル強化の種を手に入れる手段があるんだからそれをしない訳がない。
とはいえ、あんまりそっちに人を割き過ぎれば今度は競争クエストの戦力が少なくなるから、その辺の塩梅が中々に難しいところ。ある意味、赤の群集と青の群集が戦ってる最中のはずの今頃が俺らにとってはチャンスなのかも。
「あ、すみません。オオカミ組の開催のトーナメント戦については言い忘れがありました」
「言い忘れ?」
「はい。オオカミ組の方は、獲得したスキル強化の種の用途には制限はかけてないんです。魔法だけに警戒していたら駄目だという理由ですね」
「あー、そりゃ確かにそうだ!」
スキルとしては1番弱い部類の爪撃だって、Lv10まで上げたら驚異的な性能に変わるのは分かってるんだしね。魔法も重要だけど、それ以外も重要だって事は間違いない。オオカミ組には物理型の人も結構いたし、その辺の意見から設定したんだろうね。
「……みんな、いた!」
「ん? あ、風音さんか! 慌ててどうした?」
「……決勝ブロックに……残った! ……検証は?」
「残念だけど、もう終わったかな」
「……うぅ、間に合わなかった!」
風音さんが黒い龍で悔しそうに、地面に拳を打ち付けてるよ。検証は見に来れたら見に来るって言ってたけど、流石にタイミングが合わなかったんだな。
「……結果だけでも……教えて?」
「情報共有板に報告を上げるし、その際に一緒にでいい? てか、決勝ブロックの時間は大丈夫なのか?」
「……問題ない! ……荒野が長引いてるのと……森林深部は早かった」
「なるほどなー」
まぁブロック分けしてて、全てのブロックが同時に終わるって事もないか。てか、森林深部で勝ち抜いたのは風音さんになるんだ。移籍早々に大活躍だね。
「風音さん、紅焔さんはー!?」
「……森林で出場。……今、そのブロックの決勝戦」
「おぉ、紅焔さんも頑張ってるのさー!」
「紅焔さん、風音さんと決勝ブロックで戦うつもりで森林の方から出場してそうかな?」
「多分、そうだろうね」
「……負けたら……許さない!」
おー、風音さんが思いっきりライバル意識に燃えている! 決勝ブロックに出てくるのは4人になるけど、誰が出てくるかが楽しみだね。紅焔さんはまだ勝ちが決まってる段階じゃないみたいだし、確定とは扱えないもんな。
<群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》・群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)の強化が規定値に達しました>
<『未開の峡谷』への転移経路が確立されました>
<『闘争の荒野』から群集支援種カンナと群集支援種ミズチが『未開の峡谷』で安全地帯を確保しました>
<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の峡谷』が発生します>
ちょ、このタイミングで群集クエストが進んで……『未開の峡谷』って、羅刹がいるとこじゃん!? って、羅刹からフレンドコールが来た!?
「わっ!? 群集クエストが進んだのさー!」
「荒野エリアからの経路の確立かな!」
「そういえば、他の経路の状態って確認してなかったよね。どうなってるんだろ?」
群集クエストの進み具合の確認はしてないからヨッシさんの言う事は気になるけど、流石に今はそれどころじゃない! 後で確認はするけど、まずは羅刹からのフレンドコールに出ないとな。
「みんな、悪い! 羅刹からフレンドコールだから、少し話してくる」
「お、マジか。まぁ動きがあったなら、そりゃ連絡もしてくるか」
「それじゃ少し待ってるねー!」
「ほいよっと!」
って事で、みんなに言ってからフレンドコールに出る! さて、羅刹の方は一体どうなってるんだろ?
「お、ケイさん、繋がったな。今は大丈夫か?」
「おう、大丈夫だぞ。このタイミングでフレンドコールをしてきたって事は、そっちにも何かアナウンスが出た?」
「あぁ、まぁな。荒野エリアから経路が確立されたのと、ここの競争クエスト情報板が解禁されたとこだ」
「やっぱりそういう感じのが出るんだな。って事は、まだ峡谷にいるままか?」
「あぁ、そうなる。瘴気の渦を見つければ、行き来は出来るようだがな」
「……それなら、午前中にイブキがジャングルに出てくるのを見たよ。それも俺らの目の前に……」
「どういう確率だよ、それ」
「……それは俺も聞きたい」
どう考えても、2度もイブキが目の前に出現してくるとか低確率だよねー!? って、それはまぁいいよ。確率が低いだけであって、別に重要な事ではないしさ。
「そういやジャングルの方は勝ったそうだな。掲示板で結果は見たぞ」
「色々と危ういところはあったけど、なんとかなー。あ、そうだ。羅刹、黒の統率種のタコについて何か知らないか? なんか俺らを攻撃せずに、群集支援種の進化を誘発だけして逃げたのを見たんだけど……」
「タコの黒の統率種か? いか焼き……じゃねぇな。あいつは青の群集に移籍したし……悪い、他に無所属のタコには心当たりはねぇ。俺だって無所属の全員を把握してる訳じゃねぇしな。ただ、黒の統率種については少し気になる部分ならあるぞ。そっちが関係してるかもしれん」
「え、マジで!?」
「あぁ、マジだ。ただ、まだ確証を得られてる訳じゃないって事を念頭に置いておいてくれ」
「それは了解。それで、その気になる部分ってのは?」
「峡谷で潜みながら、飛ばされてきた無所属の動向を見てたりしたんだがな。あの瘴気の渦を通る度に、どんどん黒く染まっている様子だ。おそらく、行き来を繰り返すだけで黒の統率種に進化する可能性がある」
「マジか!? それ、重要情報だ!」
確かにイブキも少し黒く染まってたような気もするし、あれを繰り返せば黒の統率種になる可能性があるのか。そうなってくると、無所属が死んだら他のエリアに飛ばされる仕様は、人数が少ない代わりに戦力を増強させる時間を確保する為か? 黒の統率種に進化するのが想定されている?
「まぁ待て、重要なのはここから先だ。おそらく、傭兵も同じようになる可能性がある」
「……はい?」
「いたんだよ、黒く染まりかけてる赤の群集の傭兵になってる奴がな」
「マジで!? え、そんな事ってあるのか!?」
「あくまで可能性だけだ、確証は得られてないと言っただろう。だが、さっき言ってたタコは……場合によっては、灰の群集の傭兵の可能性もあるぞ?」
「あ、そうか! それならそういう可能性はあるのか!」
完全に黒に染まって、黒の統率種になってしまえば所属は判別出来ない。だから勝手に乱入してきた無所属だと思ってたけど、それが意思疎通が出来なくなってる味方の傭兵なのだとしたら……大きく話は変わってくる。それなら俺らへ一切攻撃をしてこなかった理由の説明にもなるもんな。
それでもイブキを仕留めた理由や、赤の群集の群集支援種のサクヤの進化を誘発させた理由とか、気になる点はある。……もしかすると、黒の統率種になったら開示される情報があったりする? その可能性は十分あり得るかも。
「あと、もう青の群集はこっちに来始めてるぜ。まぁそう多くはないけどな」
「なるほど、青の群集がかー」
赤の群集との対戦の最中の可能性は高いけど、青の群集としては新エリアのどこも勝ち取れていないもんな。少数でも先行偵察部隊を送り込んでるってとこか。
流石にまだ大規模な衝突にはならないと思うから、まだ焦る必要はない。でも、検証の報告ついでに、その辺はみんなに伝えておいた方がいい情報ではある。
「おっと、近くに誰かが来たな。悪いがフレンドコールは切るぜ」
「ほいよっと! って、もう切れてた」
状況が状況だったみたいだから、俺の反応を待たずに切ったみたいだな。羅刹から色々と気になる情報は聞けたのはありがたい! さて、この辺の状況をみんなに伝えて……って、アルが誰かと話してるっぽい。アルの方にも誰かからフレンドコールがきてたのかな?




