第110話 情報の検証
「おい、まだ追いかけて来てるか……?」
「……いや、もう引き離したっぽい。もう姿は見えないぞ」
「そっか。それじゃ一旦止まるね」
「おう、サヤ、アルお疲れさん」
とりあえずアルに乗って全力で逃げたら、なんとかザリガニから逃げ切れたようだ。途中で追いつかれそうになったのをヨッシさんが毒魔法、ハーレさんが投擲でそれぞれ牽制してくれたおかげでなんとか逃げ切れた。いや、思った以上に足が早かったんだよ、あのザリガニ。普通に遠距離砲撃してくるし……。
「……あのザリガニって、未成体だったよね?」
「うん! 間違いなくそうだね!」
「ここのボスは次の進化しなきゃ倒せないってか……?」
「かもな。……そもそもザリガニって大きさじゃなかったが」
それにしても思った以上に早くから未成体が登場したもんだな。あ、でもそういや進化誘発用のが既に一応登場はしてたっけ。
……よく考えたらそれほど早いってほどでもないのか? 進化階位が上がればLvは1から上げ直しだけど、上限Lvも上がっていくから進化すれば進化するほど次の進化まで時間がかかるしな。だからまだ低い方の進化階位の未成体なら不思議でもない。そもそもキャラ枠も3枠まであるんだし、この辺の進化階位はサクサク行く方が良いのかも。
だけどそうなってくると相手のLvが知りたいな。オフライン版だと未成体はLv30までだったし、それを基準に考えたら未成体でもLv1〜30の幅がある。その差でも大きく強さが違ってくるだろう。Lv1の未成体がボスという可能性もある訳だ。識別のLvが上がれば相手のLvも分かるようになるかな?
……その辺は要検証かな。識別を使いまくって熟練度上げておかないと。さて、時間も時間だし逃げ切ったところで今日は終わりにした方が良いんだろうけど、その前に少しだけ情報収集と情報提供をしておこう。夜中もやる人はいるだろうしね。
「折角使えるようになったし、『競争クエスト情報板』にザリガニの事を書き込んどくかな」
「そだねー! 他にも何か情報あるかもしれないし!」
「俺もちょっと見てくるか」
「それじゃ私とサヤで周辺警戒しとくね」
「情報収集はお願いね」
ということで俺、アル、ハーレさんの3人で競争クエスト情報板へと書き込んでみることにした。サヤとヨッシさんが周辺警戒。大体こういう役割分担に固定されてきたね。これが一段落した今日は終わりかな。
ケイ : ちょっとお試しに書き込みっと。
紅焔 : お、ケイさんか。登録出来たんだな。
ケイ : おう。てか、こっちは種族名じゃなくてプレイヤー名なんだな?
ライル : そうでないと協力しにくいですからね。
アルマース : 種族は必要があれば自己申告って感じか?
招き猫 : ま、そんなとこだね。
ケイ : なるほどね。んで、ちょっと厄介そうなの見つけたんだけどさ?
招き猫 : どんなもんを見つけたの?
ケイ : 未成体のデカいザリガニ。
ハーレ : あれはヤバかったよねー!
紅焔 : あーケイさん達も遭遇したか……。それ、エリア内をあちこち徘徊してるんだよ。
招き猫 : あのザリガニはヤバいね。でもなんか一定箇所には留まってないから、なんとなくボスじゃなさそうな気がするんだよね。
ケイ : あーもう既に発見済みだったんだ? そういや黒の暴走種の発見は共有化されなくなってたっけ。
アルマース : ボスじゃないってのはどういう事だ?
招き猫 : 今回のクエストって浄化の要所を見つける訳じゃん? 守ってるボスが徘徊しててどうするよ?って感じで推測中。
紅焔 : そういう事だな。まぁ大体が森の中でばったり遭遇ってのが多いし、倒す為じゃなくて妨害用のモンスターじゃないかって話になってる。
アルマース : あー確かに徘徊しているなら、そうなるのか……? いや、でもな……?
カイン : ちなみにあれはこのエリアの洗礼って事で敢えて遭遇情報を出していない人が多いみたいだぜ? 神出鬼没だしな。
ケイ : あー、まぁ聞いたところでまだ勝てないからか。
カイン : ま、そういう事。あれは実際見ないとヤバさが実感し辛いし。
新発見かと思ったら既に発見済みだったらしい。黒の暴走種の発見情報は共有化されなくなったから、残滓以外はこういう事も起きるんだな。情報ポイントを集める事を選んで自力で情報を集めるか、エンから公開済みの情報を貰う事を優先して情報ポイントは諦めるかの二者択一になる訳だ。後者は色々情報の出揃った後発プレイヤー向けかな?
そしてあのザリガニは森を徘徊していると。このエリアは動き回るやつが多いな?
紅焔 : まー、あのザリガニはまだよく分からん。
ライル : そもそものクリア条件がまだはっきりしませんからね。
カイン : 浄化の要所って何処やねん!? いやまだ1割も踏破出来てないから、見つからないのも仕方ないんだけどな?
紅焔 : こっちもまだ南端に辿り着かん。やっぱり広いぜ、このエリア。
ハーレ : ねー! 気になったんだけど、あのザリガニが湖の中にいたのは知ってる人いる?
ライル : ……湖ですか? いえ、湖での目撃情報は特には……。
紅焔 : ザリガニなんだから湖にいても不思議じゃないが、むしろ森にいるのが不自然か…?
カイン : そもそも現時点で水中進出の出来るやつがまだいない……。
ケイ : 俺は水中行けるぜー! てかザリガニ見つけたのも湖の中だし。
ライル : そうなのですか。それは少し気になる情報ですね。
紅焔 : 何か湖にありそうな気もするが、まだ何とも言えないか。
アルマース : まだ情報不足って訳か……。
ケイ : ……まさか黒の暴走種とも競争とかってないよな……?
カイン : いや、まさかそれはない……よな……?
紅焔 : ……いや、浄化の地へと向かわないように妨害していたのが特殊ボスだからその可能性は否定できないのか……? 今回は浄化の要所を探せって話だし、先にザリガニが見つけたら黒の暴走種に乗っ取られる……?
ライル : どちらにしても今は勝ち目がありませんし、とにかく遭遇したら逃げて行くしかないのでは? その間に私達も強化して未成体への進化を目指しましょう。
招き猫 : 現状では倒せないから結局そうなるんだよね。どっちみち邪魔なのには変わりないし、赤の群集に押し付けちゃう?
紅焔 : あーそういう手段もあるか。逆に押し付けられる可能性もあるから気を付けろよ。
ケイ : こっちがやる事はやられる可能性があるって考えた方が良さそうだな。
アルマース : あぁ、そうだ。『往路の実』と『復路の実』に関する情報はなんかない?
招き猫 : んーヤナギから聞ける事とアイテム詳細に書いてる以上の事は特にないかな? まだヤナギが見つかって間もないからまだ試せてないんだよね。
ハーレ : そっか! 1日1個だし、今ここにいる人は使うだけ損になっちゃうんだね!
カイン : そうなるな。使うとしたらログアウト前か。
アルマース : 確かにそうなるな。往復手段があるのなら、拠点に戻った方が一応は安心か。ログインして目の前に赤の群集がいたとかは勘弁願いたいところだし。
紅焔 : あーそうか。木の移動種は破壊不能オブジェクトとしてその場に残るからな……。一時的なログアウトならまだしも、長期間は流石にクエストエリアでは放置したくないか。
アルマース : まぁそういう事だな。
カイン : アルマースさんって、木の移動種なのか?
アルマース : そうだぜ。蜜柑の木だ。
カイン : お!? 蜜柑ってマジか!? もし会ったら蜜柑を採集させて貰ってもいいかね? 対価はなんか用意するからよ?
招き猫 : 回復アイテムの補充が出来る果樹系の木は貴重だもんね。森林深部の不動種のプレイヤー産の果物は便利だし。
へぇ、プレイヤー産の果物って便利なんだ。そういや前にハーレさんも言ってたな。確か自生してる果物は固定値回復で、プレイヤー産の果物は割合回復だったっけ。紅焔さんとエリア内を散策した時に会った不動種の人も何人かは果樹系で、果物と他の採集物の物々交換をしてたな。
纏樹の時のHP回復用に今度会った時にでも俺も物々交換してこようかな? って、そこは普通にアルに貰えば良いか。
とりあえずまだまだ情報不足という事が分かった。今日は最低限の探索準備が整ったという程度だろう。それでも充分だけどな。別に焦って無理に進めなくても良い訳だし、一番乗りを目指しているわけでもない。誰かに先を越されたならそれはそれでもいいだろう。ゲームは楽しむ事こそ最重要!
とはいえ今日はそろそろ時間切れということで……。
「ある程度の情報は分かったし、俺はそろそろログアウトだな」
「おう。ケイ、お疲れさん。あ、明日はみんなは予定はどうなってる?」
「明日か? いつも通りのつもりだぞ」
「私もいつも通りだよ!」
「私は少しだけログイン遅れるけど、あとはいつも通りかな?」
「私は特に何もないから、いつも通りだね」
サヤだけは少しログインが遅れるけど、ほぼいつも通りらしい。って事はアルがログインするまでの時間は池作りの続きをやるか。アルを放ったらかしでクエスト進めるのも気が引けるしな。
「って事は、夜までは4人で熟練度上げになるか?」
「そうなるねー! 池作りの続きをやるよー!」
「……そういやそういう話だったな。まぁいいけどよ。それならログアウトする時にはいつもの場所に戻っとくかな」
「あーさっきもここでログアウトは嫌とか言ってたもんな」
「まぁな。早々あるとも思えないが、ログイン直後に狙われるような真似はゴメンだからな」
「確かに、それは嫌かな……」
「ある意味では木の宿命なのかもしれないけどね」
「……とにかく俺はもうちょいやっていくけど、ログアウトの時にはいつもの所に戻っとくからな」
「おう、分かった!」
「分かったよ、アル。そろそろ私もログアウトかな」
「私もだね」
「おう、みんなお疲れさん」
アルはもう少しゲームを続けていくらしい。まぁその辺の時間の使い方は人それぞれ。おそらく俺達との熟練度の差とかをこの時間に埋めているのかもしれない。
「さてと、どっかのPTに臨時参加でもしてくるか」
「お、それいいねー! 合流出来そうなPT探そう!」
「ハーレさん、ちょっと待った」
当たり前のようにゲームを続行するつもりの……今は敢えてこう言おう、晴香。今までは特に気にしていなかったけども、妹と分かった以上はここには流石に口出しさせてもらう。本来ならば口出すつもりはないけども、流石に寝坊の常習犯で要因のゲームを一緒にやっているなら無視する訳にもいかん。カニで延命したとはいえ、次のペナルティは相当伸びてるからな。
「ん? どしたの、ケイさん?」
「寝坊の常習犯なんだから、ゲームで夜更かしは禁止だ!」
「えー!? そんなー!?」
「次、寝坊したらペナルティ1週間なのを忘れたか……?」
「うっ……大人しくログアウトしておくよ……」
「おー流石、切り札を持ってるケイさんが言うと効果抜群だね」
「まぁな。なんか知らんが俺まで同じペナルティの悪化を食らってるんだ。これくらいはしておかないと割に合わない」
そもそもこの状況で1週間ログイン不可は色々と支障というか差が出てしまう。1〜2日くらいなら何とか大丈夫な範囲だろうけど、流石に1週間はなぁ……。
「……本当にケイとハーレさんって兄妹なんだな」
「凄い偶然もあったもんだよね」
「俺とサヤとケイが会ったのも単なる偶然だったのにな。そのリア友が兄妹だとはなぁ……」
「うん、私もびっくりしたかな」
なんかしみじみとアルとサヤが会話していた。うん、それに驚いたのは俺らもだけどな。
程々に話題を切り上げて、アル以外は『復路の実』を使おうと思ったけど、今ヤナギさんは根下ろし中ではなくて使用出来なかった。そうか、こういう制限があるから便利とも言い切れないのか。まぁ無いよりはいいけども。なので『帰還の実』を使ってエンの元へと戻っていく。戻る場合はどっちでも良いのがありがたい。でも使ったからには『帰還の実』も再取得しておかないといけないな。
「さてと戻ってきました、群集拠点!」
「『往路の実』と『帰還の実』を貰ってログアウトかな?」
「そうだねー!」
「エンに呼びかけたら貰えるの?」
「多分そのはず。おーい、エン!」
『おう、どうした?』
呼びかけたらエンが反応して、返事をしてきてくれた。よし、あとは用件を伝えれば良いだけだ。
「『往路の実』と『帰還の実』をくれ!」
『あぁ、あっちに協力してくれてるんだな。ほれ、これだ』
<『帰還の実』を獲得しました>
<『往路の実:群集支援種ヤナギ・名も無き森林(限定)』を獲得しました>
<『往路の実』を使用する事で規定時間に限りにヤナギの転移が可能になります>
エンから実が目の前に落ちてきて、自動的にインベントリの中へと入っていった。一応詳細を確認しておこう。
【往路の実:群集支援種ヤナギ・名も無き森林(限定)】
競争クエスト『無支配地域を占拠せよ:名も無き森林』への参加中及び、開催中のみの限定アイテム。
使用すればヤナギの現在地への転移が可能となる。ただし、ヤナギが根下ろしをしてエンとの同期を行っている時にのみ使用可能。
使い捨てで所持制限1個。エンにて再取得が可能。(1日1個まで)
大体予想通りの内容だった。同期の時間次第の移動にはなるけど、時間が合わなきゃ自力移動してもいいしな。よし、これで明日の移動分は確保できた。そういやみんなはエンに声をかけないのか……?
「……ケイ、マップからでも取得出来たよ?」
「え、マジ?」
どうやら無理にエンに声をかけなくても、いつの間にか増えていたマップからの群集拠点種の項目で取得依頼が出来るらしい。気付かなかったぜ……。まぁいいや、これで本日は終了!
◇ ◇ ◇
そしてログアウトをすれば、やってきました。いつものいったんのいる所。今の胴体部分は『さてさてみんな頑張ってますな! 色々用意してるから楽しんでくれよ!』との事。新エリアへの移動が増えてきて、プレイヤーへの激励って感じか。
「やぁやぁ、お疲れ様〜」
「おう。新エリアって色々あるもんなんだな?」
「まぁね〜。詳しい事は言えないけど、クエスト頑張ってね!」
「そのつもりだよ。あ、そういや、魔法による地形変化は早めに直るのは分かったんだけど、魔法でない場合はどうなんの?」
「ごめんね〜。それは答えられない内容になるかな〜」
「やっぱりか。まぁダメ元だったし別にいいか。何かお知らせはある?」
「特にないよ〜」
「そっか。そんじゃお疲れ様」
「うん〜。またのログインを待ってるよ〜」
まぁ教えてもらえるとは思ってなかったけど、無理なら無理と断言しても良さそうな内容な気もする。そして湿原エリアでのクエスト内容を考えたら、不可能ではなさそうな気はしてきた。まぁこれも検証あるのみだな。
そして現実へと戻ってきた。さてと、さっさと風呂入って寝てしまおうっと。晴香の寝坊も阻止しなければならなくなったし、今までよりも特に俺自身が寝坊しないように気を付けないといけないな。