第1084話 サクヤの向かう場所
再び動き出したサクヤにアルが根を巻きつかせ、周囲の邪魔なジャングルの木々は合流したオオカミ組が斬り払ってくれている。ここまでで相当ジャングルを破壊したけど、これでも荒らすモノの称号は手に入らないって事は、今は取得出来ないようになってる可能性は高そうか。まぁ正直、そこの称号は今は取れない方がありがたい。それはともかく、今の状況に集中しよう。
「アル、その状態は負担は大丈夫か?」
「正直……かなりキツイな。クジラの泳ぐ速度を少しでも緩めると、根が引きちぎられそうだ」
「そんなにかよ!? ちょ、流石にそれは何かで補佐を――」
「いや、まだそれはいらねぇよ。本気でヤバくなった時は、水流を頼むぜ?」
「……ほいよっと。でも周囲の警戒くらいはしとくぞ!」
「おう、任せるぞ!」
アルが大丈夫だというのであれば、とりあえずはそうしよう。多分、この先に何があるかが分からないから、温存させようとはしてるんだろうけど……。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 99/104(上限値使用:7)
飛行鎧を展開したままだけど、状況次第では使う可能性もあるからこのまま継続使用にしておこう。えーと、獲物察知の反応は……前方の北方向には灰の群集の反応が多数あり。あ、黒く染まりつつある灰色の矢印も見えるから、これはマサキの反応っぽい。
他には……北東の方に、黒く染まりつつある青い矢印がある。これは偽物なのか、それとも青の群集の群集支援種なのか、どっちだ? うーん、これだけだと判別が出来ない。他の群集の反応は……近くにはないけど、今回の競争クエストでは何度も妨害されてきてるし、決して油断は出来ないか。
気になるのは貰ってきたジャングルのマップでは埋まり切ってなかった、川らしきものがあった北部の様子か。明らかにサクヤは北に向かってるし、その辺の情報が知りたいところ。
「蒼弦さん、この先のマップの北部には何がある? 川があるっぽいくらいの情報しか持ってないんだよ」
「そうなのか? あー、そりゃ更新しに戻る余裕もねぇか。この先には川があるので間違いねぇ。ワニやアナコンダやピラニアとかが出てくるってのが特徴か」
「やっぱりその手のパターンの敵が出てくるんだな」
予想の範囲内ではあるけど、ジャングルの川って言えばその手の種族が出てくるよなー! だけど、それがサクヤの狙いとは思えない。北部に川があって、そこを目指している異形へと進化した群集拠点種がいる。これをただの偶然で片付けるのは……いくらなんでも楽観的過ぎだ。
「他に何か気になる事はなかったかな?」
「そうだな、確か川には中州があったはずだぞ」
「中州か……」
中州って言うとあれだな。川の中で陸地が形成されてる部分。具体的にどの程度の中州なのかは分からないけど、サクヤが向かっている先にそういう地形があるのは気になるね。
ただ川に中州があるだけじゃ気にも留めないけど、今の状況を考えれば何かある可能性は高そうだ。何もないと考える方が無茶がある。
「露骨に怪しそうなのさー!?」
「……確かに怪しい」
「何かありそうだよね」
「悪い、ケイ! 水流を頼んだ!」
「ほいよっと!」
アルが慌て出したから、ここは大急ぎで準備だ! 思考操作で急げー!
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 102/104(上限値使用:7): 魔力値 279/282
<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』を発動します> 行動値 83/104(上限値使用:7)
アルのクジラの下に水流を用意して、その直後にアルがサクヤに巻きつけていた根が千切れ飛んだ。……どんな馬鹿げた力をしてるんだよ、この異形のキツネ! ともかく距離が離れないうちに、アルのクジラを水流に流して一気に加速させて追いつかせる!
「ナイスだ、ケイ! 今度は二重でいく! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「おし、再度捕獲完了!」
「水流の操作はもう切って、行動値の回復に回しとけ!」
「ほいよっと!」
どうやらアルとしては、再度根で巻きつき直す以外は俺にスキルを使った状態にはさせたくないっぽいね。……アルの行動値が回復出来てないから心配ではあるんだけど、他にサクヤに着いていく手段が無いからどうしようもないか。
段々とオオカミ組の人達も追いつけなくなって、引き離されてる人が増えてきてるもんな。異常な程にこの異形のキツネの移動速度が速過ぎる。蒼弦さんだけは氷を生成してその上を走るのと滑るのを織り交ぜて、かなりの高速移動をしてるけど。この速度、特定のPTだけでまともに追いかけられる前提にはされてない?
「蒼弦さん、オオカミ組のみんなが離されてるけど大丈夫ですか!?」
「……想定以上の速度だが、問題ねぇ! これだけ派手な破壊の痕跡を残してんだ、あいつらには後方からの他の群集への対処を任せるからな! いいな、お前ら!」
「了解っす!」
「ボスは着いていけてるんだから、すげぇもんだ」
「流石に何度もボスの解任要求を出されても、実力で死守してるだけはあるな!」
「今は余計な事は言わなくて良いんだよ!」
えーと、相変わらずその辺の事は今でもやってるんだな、オオカミ組。死守する蒼弦さんは凄いんだろうけど、ちょっと解任要求を出され過ぎじゃない? あー、でも力試しとかを兼ねて、不満でなくても解任要求を出されてるとかもありそう。
「って、既にここまで来たのか!? グリーズ・リベルテ、川に出るぞ!」
「え、もう!?」
うわっ、マップを見てみたけど、凄まじい勢いでかなりの距離を移動してた!? あ、サクヤがジャングルを抜けて……立ち止まったー!? やばっ、予想してなかった急停止のせいで、アルごと弧を描くように川へと投げ出された!?
「この程度で吹っ飛ばされてたまるか! 『旋回』『突撃』!」
「ちょ、無茶な挙動!? みんな、アルの根に掴まれ!」
あ、慌ててみんなに言ったけど、既に移動中から掴まってたよ。かなり強引な旋回で川の流れに沿った向きに変えて、突撃する事で姿勢を安定させてなんとか着水。アル、かなり無茶な事をするなー。でも、ナイス!
「おーい! 大丈夫か!?」
「おう、なんとか大丈夫だぞ、蒼弦さん」
「そりゃ良かったけど、無茶な事をするもんだな、アルマースさん」
「一か八かだったけどな。……それで、そこのがさっき言ってた中州か」
「あぁ、そうだ。見た目はただの土だけの中州なんだが……これが本当に関係あるのかどうか……」
ふー、蒼弦さんの方は川の手前で立ち止まっていたみたいだね。パッと見た感じでは、アルのクジラのサイズと同じくらいの中州があるだけ。土になんかちょいちょい穴が空いてるけど、カニの巣か何かっぽい?
獲物察知が地味に川の中にあちこちに敵がいるのは示してるけど、そこは今考えるとところじゃない。って、そうでもないか。
「アル、思った以上に川の中に敵が多い! 水面にいたら狙われるかもしれないから、少し浮いといてくれ!」
「おうよ!」
さて、これで川の中からの奇襲は防ぎやすくなる。とはいえ、空中を飛んでくる魚もいるし、魔法をぶっ放してくるのもいるだろうから絶対に安全だとも言えないけど――
『グァアアァァァァァアアアァァ!』
って、急にサクヤが叫び出したけど、今度は何だ!? これはやっぱり、ここに何かあるのか。でも、一体ここに何が――
「ボス、緊急連絡っす!」
「どうした!?」
「青の群集のジェイさんと斬雨さんが、弥生さんにわざと負けて戻ったという情報が入ったっす! リーダーから簡潔な連絡があったそうっす!」
「リーダーが簡潔な連絡って事は、まだ弥生さん達とは戦闘中って考えて良さそうだな。今すぐオオカミ組はこの周囲に警戒網を張れ! 同時に、競争クエスト情報板へも伝達! マサキの事を察知されるかもしれんから、そっちの警戒も怠るな!」
「了解っす!」
うげっ!? このタイミングでジェイさんと斬雨さんがわざと安全圏に戻ったってなんか嫌な予感がする情報なんだけど!? それにしてもベスタ達と弥生さん達はまだ戦闘の真っ最中なのか。……それなりに時間は経ってるはずなのに、まだ戦っているというのが凄まじい!
「あっ!? 今はそれどころじゃなさそうなのです!?」
「サクヤの瘴気が、一気に膨れ上がったのかな!?」
「これはなんかヤバそうだね?」
「って、狙いはこっちじゃん!? アル、前に進んで回避!」
「おうよ! 『高速遊泳』!」
キツネの爪に大量の瘴気を纏って、サクヤが今にもこっちに飛びかかろうとしてきてるもんな!? このタイミングで俺らに向かって攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったけど、アル、回避を急いでくれー!
ふぅ、なんとかサクヤの攻撃は避けられて、瘴気を大量に纏った爪は中州の土に突き刺さってる。今のは本気で危なかったー!?
「回避は出来たか……」
「なんとか……って、違う!? サクヤの狙いは俺達じゃねぇぞ!」
「わわっ!? 何かジャングルの木が揺れ始めたのです!?」
「……地震!?」
「違う! これ、中州の土が崩れてるよ!」
「……何かが中州の中から出てきたかな!?」
うわっ、マジか!? 中州の土の中に何かが埋まっていて、それをサクヤが攻撃した? それに反応して、今まさに中州を崩して出てこようとしている何かがいたって事か!
ちょっとずつ中州の土が崩れて、その姿が見えるようになってきた。なんだかゴツゴツした岩みたいな表面で、所々に何か穴が空いている。その穴が気になるけど、そもそもこれは何だ? って、岩みたいなとこの中から顔と手足が出てきた!?
<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
「ちょ!? こいつ、デカいカメか!」
「どうやらそうみたいだな! 近過ぎるから、少し距離を取るぞ!」
「アル、頼んだ!」
このカメ、アルのクジラくらいあるから相当デカいぞ! 中州が出来ていたのって、このカメがいた所に土砂が溜まってそのまま陸地になってたっぽいな。
そしてサクヤは、この巨大なカメを狙いにここまで来ていた訳か。ははっ、なるほど、群集支援種はここへの案内役か! ここまで来て、ようやく倒すべき相手が見えてきた! このカメ、どう見ても他の敵とは違う要素があるもんな。なんだよ、そのフィールドボスにあった王冠マークの代わりみたいな旗のマークは!?
「蒼弦さん、みんなに連絡! 多分だけど、群集支援種はここまで誘導するのが役割だ! それで、倒すべき相手はこのカメ! でも、群集支援種を下手に進化させたら手がつけられないから、マサキを支配しようとしてる骨はもう倒すべき!」
「概ね同意だし、その辺の報告はオオカミ組の方で引き受けた! てか、これって連結PT程度で倒せる相手か?」
「多分無理な気がするから、それは増援要請! それと、この場所に他の群集を近付けさせないように手配も頼む!」
「了解だ! 報告は俺の方でやるから、お前らはケイさんの指揮に従ってあのカメを少しでも弱らせる事を考えろ! ケイさんは俺らの事を把握し切れてないだろうから、湯豆腐は指揮の補佐をやってくれ!」
「了解っす! やるっすよ、みんな!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
さて、これで俺たちはこの出現したばかりの巨大なカメに専念出来るな。オオカミ組の人は誰が何を使えるかは全然把握出来てないけど、その辺は連携が取れてる共同体だから大雑把な指示で問題ないはず。
サクヤは、俺らには一切興味を示さずにカメへと攻撃を仕掛けている。こうして考えてみると、結果的には赤の群集の群集支援種が進化してくれて良かったのかもね。多分だけど、群集支援種を元に戻すって手順も必要になりそうな予感がするし、それを気にしなくて済むのは助かる。まだ確定ではないけど、他の群集の群集支援種は倒さないのが正解だったのかも。
「とりあえず今はサクヤは無視でいく! オオカミ組は川沿いのジャングルを切り拓いてくれ! まずはこのデカいカメを川から地上に移動させていく!」
「了解っす! まずはジャングルを切り拓く……いや、エクスプロードで一気に焼き尽くすっすよ!」
「おっしゃ、それじゃ俺らの出番だな! いくぜ! 『ファイアクリエイト』!」
「おうとも! 『ファイアクリエイト』!」
ここでいきなり一気に昇華魔法でジャングルを吹き飛ばすのか! やる事がとんでもない……って、人の事は言えないな。だけど、これなら手っ取り早く巨大なカメを移す場所の確保が出来る。結構な川幅があるし、中州は消えたし、今のままじゃ近接の人が戦いにくい!
「土の昇華を持ってる人で足場を用意するっす! 突撃持ちのメンバーで、その足場から同時にカメを吹っ飛ばすっすよ!」
「足場の作成、やるぞ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「「「『アースクリエイト』『岩の操作』!」」」
「それじゃ残りは突撃行くっすよ! 『魔力集中』『激突衝頭撃』!」
「「「『魔力集中』『激突衝頭撃』!」」」
あ、結構みんな同じスキルはもってるんだ。オオカミ組って属性がバラバラで色とりどりだけど、持ってるスキルは意外と近い? あ、でも銀光の強弱に違いがあるから、一律同じって訳でもないのか。
「ケイさん、私達はどうしますか!?」
「とりあえずアルは行動値の回復を最優先。ハーレさんと風音さんで、アルの護衛を頼む」
「おい、ケイ! 俺はまだ――」
「どれだけ倒すのに手間がかかるか分からないから、ここは交代しながらだ。アルだけ無茶すんなよ」
「……分かったよ」
「しばらくの間、アルさんは私と風音さんで守るのです!」
「……任せて!」
よし、これでとりあえず相当消耗したままのアルの回復は出来るはず。流石にアルだけ回復がろくに出来てないままだったんだから、そのままではやらせられないしね。
「ヨッシさんは効く状態異常があるかを確認してくれ。サヤはカメの様子で気になる点がないか観察を頼む。露骨にボスっぽい旗マークもあるし、何か弱点的な特殊な行動パターンがあるかもしれないからな」
「了解!」
「分かったかな! それで、ケイは?」
「とりあえず識別してから、その後の動きは考える!」
「確かにそれは大事かな!」
「あはは、確かにそうだね」
ひとまずの各自の役割は決めたし、オオカミ組のカメを陸地に吹き飛ばす作戦も進んでいる。さーて、まずは怪しい旗マーク持ちの巨大なカメの識別をしていきますか!




