第1081話 イブキを追いかけて
かなり白のカーソルが黒く染まったイブキが、理由は全く違うけど黒く染まっていっている赤の群集支援種であるサクヤを連れ去っていき……その途中で俺らに向けて放った斬雨さんの風の斬撃を受けて墜落している状態である。何がどうしてそうなった!?
てか、アブソープ・アクアが微妙に視界の邪魔! とりあえず一旦解除だ、解除! さっきまでの乱戦では何がどう作用するか分からなかったから発動したままにしてたけど、今はイブキを視認しにくい方が問題ありだ。
<『アブソープ・アクア』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/96 → 40/106(上限値使用:5)
よし、これで視界良好! 成熟体に進化して行動値の回復速度は目に見えて早くはなったけど、それでも相当消耗してるのがキッツイな。
<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/106 → 40/109(上限値使用:2)
あ、そういえば少し前に黒の統率種のタコと戦闘の為に発動したけど、結局使わなかった魔力集中が時間切れか。もっと時間が経ってた気がするけど、あれから14分くらいしか経ってないんだな。……ついでに解除忘れの群体塊も解除しとこ。
<『群体塊Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 40/109 → 40/110(上限値使用:1)
これで余分な群体塊は消えて、ロブスターの表面にコケが広がって――
「はっ、ケイさん! あ、外れたというか……避けたのです?」
「今、群体塊があった部分に何かが通ったのって気のせい!? てか、ロブスターのコケが生えてる部分が少し削れた気がするんだけど!?」
「……狙撃された」
「解除して、ギリギリセーフなのさー!?」
「だよなー!?」
うっわ、青の群集の攻撃って怖っ!? 今のはただの偶然だったけど、群体塊を解除してなかったら強制的にロブスターと切り離されてたぞ! あの遠距離狙撃、てっきり乱戦中の方を狙ってると思ってたのに、ここで俺を狙ってくるとは……。
「ハーレさん、どっちから狙ってきたか分かるか!?」
「えっと、多分だけどここからなら南の方なのです! さっきの乱戦の方!」
「……だったら、そっちからの射線を塞いだ方がいいか」
というか、具体的に狙われて分かったけど、今のを真正面から止める弥生さんって本当にプレイヤースキルどうなってんの!?
「アル! 全員が狙われる可能性があるから、一旦ジャングルに降りるぞ!」
「降りるぞって言っても、そう簡単な場所は早々ねぇよ! てか、イブキの方はどうすんだ!? そっちに突っ込むならいけるけどよ!」
「だー! そういやそうだった! てか、そもそもイブキってどこに落ちたんだよ!」
さっきまでアブソープ・アクアの水の膜があったから、それほど遠くは見渡せなかったからその辺が把握出来てない。どうもイブキが墜落した場所には広さがある……って、おい!?
「イブキが墜落してんの、ラヴァフロウで焼き尽くしたとこじゃん!?」
後ろからの追撃に気を付けてたから、北に向かってたくらいしか把握してなかったけど、まさかピンポイントであそこに行ってたとは。てか、体感以上に結構距離は離れてたんだな。
でも、何か違和感があるぞ……? あそこで赤の群集と青の群集が衝突してると思ったのに、イブキの姿以外が見えない?
「あれ? もっと人がいると思ったのに……全然いないのです?」
「東の方に火が上がってるから、戦場が移ってるみたい?」
「あ、マジだ。よし、それならあそこに降りて――」
「……ケイ、待ったかな。本当に、見渡せる状態でよかったかな!」
「サヤ……? あ、なるほど、そういう事か」
なんで止めるのかと思ったけど、確かにこれは警戒した方がいい。イブキがなんで落ちたまま飛んでこないのか、その理由が分かった。あそこにいるには弱って倒れているサクヤとイブキだけじゃないみたいだな。
「また黒の統率種のタコか。さっきは逃げたのにどういうつもりだ?」
「分からん! 風音さん、あのタコに心当たりってないか?」
「……無所属での交流……ほとんど無かったから……分からない」
「あー、まぁそうだよなー!」
羅刹が風音さんの事を知らなかったくらいだし、人脈部分で風音さんの情報を頼るのは無理そうだ。知ってる可能性がありそうな心当たりは……今、タコに首を締め上げられてるイブキか、羅刹くらいなもの。
ウィルさん辺りでも心当たりはあるかもしれないけど、赤の群集に戻ってる今のウィルさんには遭遇したとしても聞くに聞けないか。あー、青の群集に行ったいか焼きさんも同じタコとして知ってる可能性もあるけど……それはウィルさんと同じ理由で無理。というか、今の状況で誰かに聞こうとする事自体が無理!
「……これは大急ぎで回復した方がいいね。ケイさん、スキルまでは必要ないから砕いてもらえる?」
「……塩釜焼き?」
「おし、任せろ!」
塩釜焼きは、PT全員で食べ切ったら全員のHPが50%回復するアイテムだったはず。俺や風音さんは魔力値を優先して回復してたけど、まだみんなもHPは全快してないし、ここが使い時か。
という事で、ロブスターのハサミで塩釜焼きの塩を叩き割って食べられるようにして、一口分を食べておく。うん、美味い! 美味いけど、呑気に味わって食ってる場合じゃないな。
「……これ、どうすればいい?」
「HP回復の効果はPTメンバーが全員食べれば出てくるから、少しでいいから風音さんも食べておいて」
「はーい! 風音さん、2キャラ同時運用は個別にHPの回復が必要だから注意なのです!」
「……分かった」
「慌てず、それでいて急いでかな!」
「アルさん、最後をまとめて一気に食べてもらっていい?」
「おう、任せとけ! 『根の操作』!」
そんな感じで慌ただしく、みんなが塩釜焼きを一口ずつ食べて、最後にアルが残ったのをクジラで丸呑みにして食べ終えた。おし、なんとか全員HP全快まではいけたか。……てか、木は根を突き刺すので良いんだなー。
それにしても、あのタコは俺らに気付いてない? 何かイブキが暴れまくってるけど……あ、力が抜けて身動きが取れなくなったっぽいな。……タコが、イブキに麻痺毒か神経毒を使ったか?
「……凄い回復量!」
「気軽には使えないんだけどね。ケイさん、風音さん、魔力値は大丈夫?」
「そっちはなんとかなー。ただ、行動値に余裕があるとは言えないのがキツいけど……そうも言ってられなさそうだ!」
今、あのタコと目が合った気がするけど、そしたら急激にタコが巨大化してイブキをぶん投げてきやがった! なんかわざわざ俺らの回復を待ってたような気がするんだけど、そこは今は考えてもどうしようもない!
「イブキは俺がどうにかする! みんなはタコの対処をしつつ、サクヤを確保!」
「ぎゃー!? ちょ、待って!?」
ともかく投げられてきたイブキを受け止め……いや、ここは叩き落とすまで!
細かい指示をしてる暇はないから簡潔に! イブキは投げられたまま体勢を立て直せてなくて慌ててるけど、そこは知らん!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 42/110 → 42/104(上限値使用:7)
アルに移動は任せるから、俺は飛行鎧で飛ぶのみ! そして、吹っ飛ばすならこの手段! 魔力集中はないけど、吹っ飛ばす目的ならそれでも十分!
<行動値を10消費して『双打連破Lv1』を発動します> 行動値 32/104(上限値使用:7)
とにかく俺はイブキを吹っ飛ばす! ドサクサに紛れて、サクヤを連れ去った報いはここで受けてもらおうか! どうせ瘴気の渦が発生したら戻ってこれるっぽいし、ここで殺したところで問題なし!
「ケイさん、待った、待った、待ったー!?」
「生き残ってたら話は聞いてやるから、とりあえず吹っ飛んどけ! ドサクサ紛れのイブキが!」
「ぐふっ!? がはっ!?」
同時に2発叩き込んで……一気に飛行鎧で加速して、もう2発! よし、魔力集中の効果はないし、最大まで強化にもなってないからそれほど大したダメージでもない。イブキが吹っ飛んできてる状態はこれでなんとか――
「あっ!? 小さく戻ったかな!?」
「ちっ、このタコ、サクヤを盾にしやがった!?」
「……これじゃ……攻撃が出来ない」
「あぅ……サクヤはどうすればいいのー!? 倒していいの!? 倒しちゃダメなの!?」
「そこが分からないと、どうしようもないよ……」
あのタコ、そんな状態にしてるのかよ! くっそ、このタコの狙いは一体何だ!? 赤の群集の群集支援種を、黒の統率種が捕まえて何になる? あ、タコに動きがあって、瘴気が集まり出した? これ、瘴気収束か!
サクヤを倒しても問題ないのならこのままタコごと昇華魔法でぶっ殺すけど……そのリスクが全く予想出来ない。倒すべきか、倒さずこのまま推移を見守るか、どっちが正解だ?
「ホホウ! こ、これは何事なので!?」
「もしかして黒の統率種か!? 灰の暴走種もいるじゃねぇか!?」
うげっ!? ここでスリムさんとマムシさんまで来たんだけど、とことんややこしい状態になってくるな、おい! って、瘴気収束が進んで瘴気の渦が形成されたんだけど、これってマズいよな。どうする、どうする、どうする!?
「ケイ、この状況はどうすんだ!?」
「……一か八かだ! タコごとサクヤを仕留め――」
「あっ、サクヤが瘴気の中に放り込まれたかな!?」
「くっそ、遅かったか!」
タコが作り出した瘴気の渦の中にサクヤが放り込まれ、骨の鎧みたいになっている部分がその瘴気を吸い尽くしていく。
『グァァアァァアァァァッ!』
今まで何も声を発さずにいたサクヤの苦しそうな叫びと共に、その骨が今までの鎧ではなくサクヤの身体へと突き刺さって……一体化していってる。赤色が残っていたカーソルも完全に真っ黒に塗り潰されていて、完全な異形へと姿を変えた。これ、成熟体へと進化したのか……?
って、呆けてる場合か! もし今ので進化したのなら、識別情報に変化もあるはず! 何もかもがさっぱり分からないんだ、少しでも情報を得ないと!
「ホホウ!? マムシ、ここはどう動くので!?」
「進化する可能性は考察してたんだ。その実例が現れたなら、識別情報を持って帰るぞ!」
「風音さん、ハーレさん、ヨッシさん! 3人でスリムさんとマムシさんの妨害! 視界を塞いで識別情報は持ち帰らせるな!」
「……『並列制御』『アースウォール』『アースウォール』!」
「ハーレ、ブリザードをいくよ! 『アイスクリエイト』!」
「了解なのさー! 『共生指示:登録1』!」
「ホホウ!? これは!?」
「ちっ、土の防壁とブリザードでの視界妨害だと! くっ、動きが鈍って……」
「マムシ!?」
よし、大蛇のマムシさんには氷属性の分だけ動きも鈍らせれたか! ブリザードは妨害向けの昇華魔法だからダメージはそれほど期待出来ないけど、狙いとしてはこれで十分!
「サヤ、アル! タコを任せた!」
「任せて……って、あっ!?」
「なっ!? また逃げる気か!?」
「どういうつもりだよ、このタコ!?」
くっそ、また瘴気収束を使って瘴気の渦を作り出して消えていったぞ! 一体何がしたいんだ、あの黒の統率種のタコは!?
「イブキ! あのタコはなんなんだ!?」
「あんな強いタコ、俺は知らねぇよ! どこにいやがった、あんなやつ!」
イブキがあのタコの事を全然知らない? いや、風音さんみたいに他のプレイヤーと接点が少ない人もいるだろうし、そういう事もあっても不思議じゃないか。でも、それだと余計に狙いが分からなくて厄介過ぎる。
「くっそ! なんで移動してきたら、すぐに襲われてばっかなんだよ! 全然思ったように暴れられねぇじゃねぇか!? ケイさん、遭遇率高すぎねぇ!?」
「いや、そう言われても……」
むしろ、それは俺が言いたいとこなんだけど……。なんで瘴気の渦から出てくる無所属との遭遇がイブキだけなんだよ。まぁそもそも、無所属との遭遇頻度自体がそう高くはない気もするけどさ。
「だー! こうなりゃヤケだ! ここで大暴れしてやる! 『脱皮』! 『並列制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリ――」
「……暴れるのなら、今すぐ消えろ。無所属のイブキ」
「なっ!? ぐふっ!」
え、誰かが空中から降ってきてイブキを地面に叩きつけた? 昇華魔法を使おうとしてたっぽいイブキはあっさりと仕留められてポリゴンとなって砕け散っていったけど、一体誰が……。
いや、今の声には聞き覚えはあるし、その姿にも見覚えがあるぞ。ははっ、まさか競争クエストに参加してたのか! しかも、海じゃなくてこっちのジャングルへ!
「……状況がよく分からんが、手助けは必要か? グリーズ・リベルテ……と、誰だ?」
「……それはこっちの台詞」
「「「十六夜さん!?」」」
「おっ、十六夜さんも参戦してたのか」
「手助けは思いっきり助かるぞ、十六夜さん! 任せていいんだな!?」
「……あぁ、任せておけ」
「ホホウ!? ここで増援なので!?」
「ちっ、こっちの増援はまだかよ!」
ここで十六夜さんが手助けに来てくれるとは思わなかったけど、これは強力な助っ人の登場だ! 今回はヤドカリの方で動いてるみたいだけど、風音さんとは面識は……そりゃないよなー。
今のこのジャングルは、どこから誰がどういう形で仕掛けてくるかが全く分からないし、明確に強いと分かってる十六夜さんの協力があるのは素直にありがたい!




