第1019話 競争クエストと増援クエスト
2回目の競争クエストが始まって早々に無所属の羅刹からの接触があり、色々あってミズキの森林で直接話し合う事になった。ミズキから少し西に移動して、ベスタと俺らグリーズ・リベルテと肉食獣さんをモンスターズ・サバイバルの人達が4人ほど集まっている。
とりあえず羅刹の到着を待ってる間に、俺が羅刹から聞いた範囲の内容はベスタに伝えておいた。ここからの交渉はベスタがメインになりそうだしね。
おっと、そうしてる間にも羅刹のティラノの姿が……うわー、一段とデカいティラノになってるって事は、成熟体に進化済みなんだな。
「おう、待たせたな。ベスタ、グリーズ・リベルテ。後はモンスターズ・サバイバルもいるのか」
「モンスターズ・サバイバルには、羅刹がここへの立ち入りをしても攻撃しないように通達してもらっていたからな」
「そりゃありがてぇ話だな。サンキューな、肉食獣」
「なに、知らん仲でもないからな」
あれ? なんか肉食獣さんと羅刹がフレンドリーな感じだけど、お互いに結構認識し合ってる感じがする。
「……アル、羅刹と肉食獣さんって面識あるのか?」
「いや、ケイ、普通に考えろよ? 今の無所属、特に羅刹がいるのはどこだ?」
「え? そりゃ発火草の群生地……って、各群集とアイテムのトレードをしてるんだし、生産もしてる肉食獣さんと面識があっても不思議じゃない!?」
「ま、そういう事だ」
うん、少し考えたら分かるようなしょうもない内容を聞いてしまった。あー、そういう事ならモンスターズ・サバイバルのメンバーにも知り合いは多いだろうし、交渉場所としてはミズキの森林は最適なのか。少し西側に移動したのは、ミズキのすぐ側だと転移してきた人が慌てるからだろうしね。
「さて、俺の出番はここまでだ。リーダー、俺らの方でミヤ・マサの森林の整理に行ってくるから後は任せたぜ」
「あぁ、任せておけ。肉食獣、そっちは頼んだぞ」
「おうよ! 行くぞ、野郎ども!」
「「「「おう!」」」」
そうしてモンスターズ・サバイバルの人達はミズキの方へと移動していった。なんだかんだで武闘派という事で灰のサファリ同盟から分かれて結成された共同体だから、まとめ役としても頼りになるはず!
「さて、羅刹。まずは俺らに接触した理由を聞こうか。傭兵として灰の群集に付かなくとも、無所属を率いて乱入という手段も、赤の群集や青の群集に付くという選択肢もあったはずだが?」
「なに、簡単な話だ。1番狙われてるところに加勢して、準備をしてた連中を返り討ちにするのが楽しそうだと思っただけだ。ついでに乱入する気になってるイブキを真っ正面からぶっ潰すチャンスだしな」
「……ついでの方が主な目的な気もするが、そこはまぁいい」
何気にサラッと言ったついでの内容だけど、俺としてもそこが理由の比重として大きい気がする。てか、イブキは乱入する気満々かい! クエストのルール的に大暴れしても問題ない大義名分が手に入ったから、思う存分暴れるつもりか!
「理由についてはそれで納得しよう。それで無所属は群集の傭兵として参戦した場合はどんな利点がある? 何もないという事はないだろう?」
「あぁ、それは確かにあるぞ。傭兵として参加した群集がエリアを占拠した場合にはレアアイテムの報酬が出る。それこそ空白の称号やらスキル強化の種やらもだが、俺が欲しいのは占拠した新エリアへの転移権だ」
「……転移権だと? なんだ、それは?」
「おそらく無所属固有のもので、傭兵として参加した群集が占拠したエリアへ転移が認められるアイテムが群集拠点種から発行されるらしい」
ほほう、味方として戦った無所属の人への報酬的なアイテムな訳か。確かにそんなアイテムが手に入るのであれば、どこかの群集に傭兵として参戦して転移出来るようにしたいという気持ちは分かる。成熟体からの育成をするには必須と言っても良いかもしれない。
「あ、羅刹、ちょっと質問していいか?」
「おう、いいぞ、ケイさん」
「それを手に入れなきゃ、無所属だと新エリアには行けないのか?」
「いや、そうでもない。まだ実物は見つけてはいないし、どこにあるかも分からんが、通る度に黒く染まる転移の入り口が出来たらしい。乱入勢は黒の統率種になって、敵を従えて襲いかかる可能性がある」
「そんなのがあるんかい!」
「……中々に厄介な代物だな。羅刹、確認なんだが……無所属が競争クエストのエリアを占拠する可能性はあるのか?」
「新エリアに限ってだが、その可能性はある。ついでに言えば、新エリアの方はおそらく全群集入り混じっての争奪戦だぜ?」
「5ヶ所でどういう組み合わせの対戦にするのかと思っていたが、やはりそうきたか」
まさかの新エリアの占有権の奪い合いは、無所属も含めた全群集での奪い合い!? 転移先に最低限の安全圏は確保されてるという話だし、占拠されたら出入りは危険になるから、競争クエストの対象エリア以外にも新エリアはあるとは思う。
思うけど、その先で占拠出来る拠点を確保出来るかどうかは凄い重要になってくるよな!? そもそも新エリアって競争クエストの対象エリアの5ヶ所だけではないはず。……あぁ、その辺も含めて実際に行ってみて確認が必要なのか!
「ふむ、大体の概要と、羅刹の目的は分かった。最後に質問だが、再戦になるエリアの方では何かあるか?」
「いや、そっちはこれといって何もねぇな。ただ、普通に入って来れるから隣接エリア以外の群集や無所属が来ないという保証は出来ないぜ」
「……だろうな。とりあえず情報には感謝するが、傭兵になる条件はなんだ?」
「それなら群集所属のプレイヤーから最低6人以上に承認される事だな。問題があれば即座に破棄は出来るみたいだから、承認してもらえねぇか? ちなみに俺の方からの破棄は出来ねぇ」
「俺は良いが……ケイ達はどうだ? 丁度6人はいるから、構わないのであれば承認するぞ?」
「少し待ってるから、ケイさん達は相談してくれ! 駄目なら駄目でも良いからよ」
「あー、それならちょっと相談してくる!」
羅刹なら別に俺は良いと思うけど、みんながどう思うかは分からないしね。うーん、流石に喋ると内容が筒抜けになりそうだから、ここは共同体のチャットを使うか。
ケイ : という事で、どうする?
アルマース : 羅刹は元々問題を起こしてる訳でもねぇし、別に良いんじゃねぇか? 戦力としても、群集外からの情報源としても貴重だろう。
ハーレ : 私も賛成なのさー! 多分駄目だと言ったら、赤の群集か青の群集に行きそうな気もするのです!
サヤ : その可能性は高そうかな! それに場合によっては、羅刹さん経由で他の無所属の人を引き入れるのもありかな?
ヨッシ : それは確かにありだね。イブキさんなら警戒も必要だったけど、羅刹さんなら問題ないよね。
ケイ : 俺としてもありだとは思うから、みんなも良いっぽいし承認って事で!
それにしてもヨッシさんは結構バッサリといったなー。まぁイブキに関しては同感だし、実際今回は敵として動いてくるみたいだしね。……無所属だとウィルさんの伝手で赤の群集に協力しそうな人もいそうだし、ここで羅刹の要望を断ればむしろ不利になる可能性も高い。
こういう仕様なら他の群集や大暴れする気の無所属に繋がってるスパイが入り込むという可能性はあるけど、そこまで警戒すると無所属の人は問答無用で弾き出すしかなくなるからなー。羅刹はそういう真似はしないと思うけど、そういう人がいる可能性は考えとかないとね。
「羅刹、俺らは全員承認していいぞ!」
「これで俺も含めたら、灰の群集6人分の承認は可能か。羅刹、先に言っておくが変な真似をしたら覚悟しておけよ?」
「それは忠告として受け取っておく。さて、それじゃ承認を……と言いたいとこだが」
ん? そこで言葉を切って俺らをじっと見回してきてるけど……何か気になる事でもあった? あ、もしかして俺らがまだ未成体な事を気にしてる?
「アルマースさんとは何度か話して不在だとは聞いていたが、ケイさん達は進化はまだか? いくらなんでも今回のは未成体のままで参戦は無謀だろう?」
「あー、やっぱりそこか。進化については全員が希望の条件を満たしたとこだから、これからやろうとしてたとこだけど……」
「それなら転生進化で進化する奴はいるか? いるなら、承認の礼も兼ねて今のうちに俺が倒すぞ?」
「おぉ、それは出来たら頼もうかと思ってたので助かるのです!」
「私とハーレが1stと2nd、両方が転生進化かな!」
「よし、ならその進化を手伝おう」
「ありがとうなのさー!」
「助かるかな!」
「よかったね、2人とも」
ふー、こっちから話を切り出す前の羅刹の方から言ってくるとは思わなかったけど、これならサヤとハーレさんの転生進化が圧倒的にやりやすくなる。環境への不適応で死ぬのは簡単に出来るようになってるけど多少の時間はかかるし、無防備に倒される方が遥かに早いしね。
「羅刹、今の段階で俺が先に承認するのは大丈夫か? ケイ達には悪いが、出来るだけ早く移動したいんだが……」
「あー、やってみないと分からんが6人分の承認が得られるまでは大丈夫な筈だ」
「……もし駄目なら一度破棄するか」
「俺はそれで構わないぞ。それじゃベスタ、申請を送るぜ」
「あぁ、了解だ」
え、ベスタと羅刹は一体何の話を……って、よく考えてみたら、羅刹が灰の群集の傭兵として動くならダメージ判定が無所属のままだとマズいじゃん! これ、承認が得られたら、灰の群集からダメージを受けなくなるみたいな判定があるやつか! でも、そうなったら転生進化で殺してもらうのが難しくなる……。
「ふむ、特に表示に変化は無しか」
「そうみたいだな。俺の方もまだ増援クエストの開始にはなってねぇ」
「えーと、ベスタさんが先に羅刹さんの承認をしたって事で良いのかな?」
「その認識で構わんぞ、サヤ。すまんが、俺はここで離れさせてもらう。羅刹、無所属の増援クエストについての説明はしても問題はないな?」
「むしろ説明しといてもらえる方が堂々と動けるから助かるな。増援クエストで傭兵化したら、その時はその特徴を改めて伝えるのでいいか? 何かしらの目印が出るだろうからな」
「分かり次第、フレンドコールをしてくれ。全体に通達する都合もあるから、その情報は最優先で受け取ろう。それじゃ俺はミヤ・マサの森林に行く」
「あぁ、それは了解した」
それだけ話し終えるとベスタはあっという間にミズキの方へと移動していった。なんというか、ベスタと羅刹での会話になると俺らが入り込む余地があまりなかったね。まぁベスタは灰の群集のリーダー的な立場で動いてるんだし、今回の競争クエストでの無所属の動向については重要度は相当高いもんな。
さて、競争クエストとか増援クエストでの目印とか色々と気になる事はあるけど、今は俺らの進化が先か。冗談抜きで今回の競争クエストは成熟体に進化しなければ勝負の土俵にも上がれない気がする。
「羅刹さん、目印ってなんですか!? 競走クエストに参加した時に攻撃してもPK判定にならなくなる目印みたいなやつですか!?」
「軽い説明しか出てなくて実物は見てないんだが、おそらくそうだろうな。その目印がある限り、俺は灰の群集のプレイヤーにはダメージが与えられなくなるし、他の群集の競争クエストの参加プレイヤーを攻撃しても黒くはならないはずだ」
「おぉ、やっぱりそういう目印なのさー!」
「その目印が出るのが、群集所属のプレイヤー6人からの承認を得た時って考えて良いの?」
「俺も何もかもを把握してる訳じゃ……ほう? このタイミングで、青の群集も1ヶ所転移地点を確立か」
「ちょ!? え、無所属ってどこの群集が転移場所を確立したか分かるのか!?」
これって、とんでもなく重要な情報なんじゃ!? っていうか、分かるからこそ俺にフレンドコールをかけてきたんだよな! 灰の群集以外の動向も分かって当然じゃん!
「あぁ、ちなみに赤の群集も既に確立済みだぜ。てか、どこも森林エリアから『未開の地:ジャングル』への経路確立で……ほう、再戦エリアのもう1ヶ所は青の群集の森林エリアと、赤の群集の森林深部エリアのとこか」
その場所って近くまでは行ったけど、中には入った事がないエリアだよなー。確かいか焼きさんが黒の統率種になってしまった時に、青の群集の人達が元に戻す為に戦ってたっていう場所。……地味にエリア名を知らないけど、まぁ行く事はないから別に良いか。
「って、それはベスタに伝えといた方が良い情報!?」
「それは後でまとめてだな。本当はさっきの流れで話しておきたかったが、青の群集は一気に3ヶ所で対応をする必要が出たから、少しくらいは大丈夫だろうよ」
「……そう言われるとそうなるのか」
極端にタイミングがズレていた訳じゃなさそうだし、青の群集も赤の群集も色々とこれからの行動を調整している真っ最中か。即座に攻めるとしても、大人数は一気には動かせないはず。
「ケイさん達はその心配の前に、まずは成熟体への進化が先だぜ? 俺もそれが終わってからじゃねぇと、承認も受けれんしな」
「あー、まぁ灰の群集の俺らにダメージを与えられるのが今しかないならそうなるか。よし、それじゃ成熟体への進化をやっていくぞ!」
「私とケイさんとアルさんはすぐに実行出来るから、ハーレとサヤが先の方がベスタさんに連絡する為にも良いよね。どっちから先にする?」
「私はどっちでもいいけど、ハーレは希望はあるかな?」
「それなら私のリスからやっても良いですか!?」
「うん、いいかな!」
「なら、ハーレさんのリス、サヤのクマ、ハーレさんのクラゲ、サヤの竜の順番でいくか。それなら俺の木からクマとリスはリスポーンもしてこれるし、クラゲと竜も位置を変えずにログインし直してくればいけるだろ」
「よし、それでいこう!」
共生進化ならログイン側が死ねば、共生進化は解除になる。この場合は……共生相手の方は多分だけど、死亡扱いではないからリスポーンにはならないはず。そうだからこそアルが提案してるんだろうしね。
「羅刹さん、私からお願いします!」
「おう、任せとけ!」
さて、ここからようやく辿り着いた成熟体への進化の始まりだ! まずはハーレさんのリスからである。羅刹の傭兵への承認とベスタへの連絡を早めにした方が良いんだろうけど、俺らの都合を優先してくれているんだからしっかりとやっていかないとな!




