第1014話 灰の群集の油断
情報共有板で色々見ているけど、色々試している状況ではあるみたい。そして気になるのは、競争クエストにおける無所属の扱い。俺が気にするまでもなく、他のみんなも気になってる案件だったようである。
うーん、この辺って何かがあるとすれば赤の群集も青の群集も、無所属の人達に対して接触する可能性が高い。かといって、群集クエストが進んで転移地点を確立しないとそもそも意味がない。……何があるか分からない状況で、無所属の人達に協力の確約なんて求められないしなー。
「ケイさん、ちょっといい?」
「お、ヨッシさん、ハンバーグは出来た?」
「うん、それもなんだけど、サヤがちょっと危なそうな雰囲気でね?」
「あ、マジだ。サヤ、それは強引に地面に叩きつけるか、操作を解除出来るか?」
「その……余裕は、ない、かな!?」
「今にも暴走しそうなのです!?」
「そうっぽいなー」
今のサヤは必死で抑え込む為に集中して制御を戻そうとしているけど、もう暴走寸前になっていた。解除するのが一番早いんだけど、解除に意識を割く時に変な方向に吹っ飛んでいくのはあるもんなー。サヤがこれまで特訓するので何度か見た。
ハーレさんの風の操作をぶつけてもらうのでもいいんだろうけど、まぁここは俺が抑え込むのが確実だな。ハーレさんの操作は下手という訳じゃないけど、どこに飛んでいくか分からないのを抑える必要がある今の状態には向いてない。
さてと、いつ暴走してもおかしくないから、サクッと抑え込もう。周囲に余波を出さないようにするには、魔法で生成した電気を破壊するか、そのまま暴走させて操作時間を切らせばいい。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 85/86(上限値使用:1): 魔力値 231/234
<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します> 行動値 82/86(上限値使用:1)
サヤの生成していた電気の球自体はそれほど大きくもないので、グルッと全体を覆うようにして隔離。これでどこに向かって飛んでいっても問題なし。
「サヤ、もう操作を緩めていいぞ」
「わ、分かったかな!」
サヤがそう答えた瞬間、生成した土に衝撃ありか。竈がある方向の部分に衝撃があったから、抑え込んでないと台無しになってたかもしれない。うん、今のは覆う形で抑え込むので正解だったね。さて、それじゃ土の操作は解除っと。
「……今のは焦ったかな」
「結構上達してたと思ってたんだけどな……。盛大に制御が狂ってたけど、何かあった?」
「……あれに気を取られたかな」
ん? サヤがヨッシさんが調理してた方を指差してるけど、そっちの方で何か進展でもあった……って、ちょっと待った!
「ハンバーグが焼き上がってるのはいいけど、なんでソースがかかってんの!?」
「……あはは、なんか焼き上がったら勝手にかかっちゃった?」
「急にソースが出てきて、びっくりなのさー!」
「ソース込みでの試食用の料理データになったみたいだぜ。しかもこれは魔力値の固定値で、100回復だ」
「魔力値100の固定回復!?」
「え、回復量もそんなにあるのかな!?」
「……あはは、そんな効果になってるんだ」
てか、カインさん以外のみんなも効果で驚くんかい! あ、でも効果量の話は聞こえてなかったし、単純にまだ話してなかっただけ? そしてこのハンバーグは俺の魔力値でも250もないのに固定で100も回復するのか。
料理によって効果が全然違うとかそういうパターンな気がしてきた。でも、正直なところ、このハンバーグは食べにくそう。いや、種族によって違う気もするけどさ。植物系とか、どうするんだろ? 養分吸収辺りで吸収かな? まぁそれはアルにでも試してもらうとして……。
「とりあえず、サヤが驚いた理由はよく分かった。これは仕方ないな」
「分かってくれてよかったかな」
いくらなんでもハンバーグが焼き上がった瞬間にどこからか勝手にソースがかかるとか想像もしないもんな。その光景を見て、驚くなという方が無茶だよね。
「でも、こうなるとウナギが蒲焼きにならなかったのが不思議なのです!?」
「うーん、もっと上手く捌いたらいけるのかも?」
「俺もその意見に同意だな。作る料理によって、それぞれ条件が変わってくるんじゃねぇか?」
「あー、確かにそれはありそう。とりあえず情報共有板で報告してみるわ」
「おう、任せたぜ、ケイさん! さて、ヨッシさん、次は何を試してみるよ? 塩釜焼きをやってみるか?」
「時間的にギリギリにはなりそうだけど、やるだけやってみよっか」
どうやら次は塩釜焼きを試していくようである。うん、大真面目にどんなのが出来るのかが気になるところだね。
「ハーレ、今度は普通に的当てでもいいかな? さっきの今じゃ、ちょっと留める操作は不安かな」
「さっきのは本当にびっくりしたもんねー! それでも良いのです!」
「それじゃそれでいくかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
「ふっふっふ、負けないのさー! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
サヤがさっきの暴走しかけた事を気にしているみたいで、ハーレさんとの的当てでの勝負形式に切り替えたか。まぁ初めから向きを意識していれば、狙いが外れたとしても極端に変な方向に飛んでいく事も少ないもんな。
今回の料理絡みは冗談抜きで何が出てくるかが想像出来ないから、集中力が必要な留めるのは操作系スキルが苦手なサヤは避けておいた方が良いだろうね。さて、それじゃ俺は情報共有板に報告してこようっと。
カンガルー : ちょ!? これ、知ってたけど出してなかった人が多かったのか!?
オオカミ : どうやら最初の一件の報告を待っていた感じだな。まぁ無理強いする事でもないし、情報が出始めたのならありがたい。
川魚 : ん? 何事?
ネズミ2 : 少し手間のかかった料理が試食用の料理データになって、結構高品質の回復アイテムになるのが発覚。
草花 : その報告が出てから、なんか一気にまとめへの匿名報告が増えてきたの!
川魚 : あぁ、あれか。てか、まだ情報出てなかったんだ?
カンガルー : なんか知ってるっぽい人がいたー!?
ヘビ : 川魚の人、その辺の詳細を詳しく!
ちょい待った。え、まとめに料理関係の情報が一気に出てきてる? てか、知ってる人が結構いた感じ!? うーん、この状況って報告し辛いなー。
というか、それならハンバーグならもうまとめの報告欄に上がってる可能性もあるんじゃ……? ちょっとまとめの報告欄を見て……あー、うん、ハンバーグは普通にあった。塩釜焼きもあるし、ローストビーフとかもある。
って、オリーブオイルの作り方とかも出てるんだけど!? ちょい待った、え、マジで? これ、どういうとこから出てきてる情報!? なんか情報の質がおかしいぞ!
川魚 : あー、あの人達は目立つのは嫌がってたっけ。詳細の詮索なしにしてくれるなら、言える範囲で説明するぞー。
オオカミ : それで構わない。教えてもらえるか?
クジラ : 集団っぽい!?
クジラ2 : 詮索はなしだよー。
クジラ : そういえばそうだった……。
カンガルー : でも、どういう流れでこうなったかは知りたいとこだな。
川魚 : ぶっちゃけ簡単に言えば、それほど強くはないけど色々やってる物好き集団! 確か今は操作系スキルを活用して、どこまでの物が作れるかやってるはず。少し前までどこまで味付けが再現されるのかを試してた。
予想以上の物好き集団だったっぽいし、やってる事が灰のサファリ同盟とかモンスターズ・サバイバルとかに近い気もする!? でも、集団としての性質が違いそう?
カンガルー : 詮索って訳じゃないが、その人達はこっちには顔は出さないのか?
川魚 : 俺もちょっとある場所で会っただけで、そこまで詳しく知ってる訳じゃないんだよ。リアル繋がりの集団とは聞いたけど、それ以上詳しい事は知らない。
オオカミ : なるほど、リアル繋がりの集団か。
ヘビ : 内輪で完結してるタイプの集団みたいだなー。
ワニ : お、地味に俺らの事が話題になってんじゃん。ま、ヘビの人の言う通り、基本的に内輪で楽しんでるだけだぜ!
オオカミ : ほう? それがこのタイミングで発言というのも気になるところだな。
ワニ : あー、まぁそう警戒しなさんな! あいつら、基本身内でしか話さない連中だから、対外的に動くのは俺だけなんだよ。
川魚 : そこについては俺が保証する! 俺が保証になるかは知らんけど!
カンガルー : えーと、そうなると匿名でのまとめへの情報提供はワニの人がやったのか?
ワニ : そういう事になるなー! あ、俺もそこまで目立ちたい訳じゃないから、匿名で勘弁してくれよ! 匿名かつ信憑性を維持する為に、ここに他から初報が出るのを待ってたんだしよ!
ヘビ : あー、そういう理由か。
なるほど、別に隠しておこうという意思はないけど、あくまで誰かが関連する情報を上げてから、それを補強する形で情報を出す事にしてるのか。……もしかすると、これまでの色々な再現情報とかにも知らないうちに関わってる可能性もありそうだね。
ワニ : ただ一つだけ文句はある! 学生組がいない間、新発見は少なめだよなー!? 成熟体への進化と被ってそっちの検証が多かったのも把握してるけど、生産系の発見はちょっと社会人組も頑張ろうな? 俺らの方では、料理に関しては結構前から分かってたぜ?
カンガルー : ……そこは耳が痛いな。
草花 : あはは、反論出来ないねー。
ヘビ : 生産系や色々なサポート面が、かなり灰のサファリ同盟に依存してたのが浮き彫りになったもんな……。
オオカミ : その辺りが灰の群集の弱点ではあるか……。
うーん、俺らがテスト期間で不在中では色々あったんだなー。もしかすると今まで他の群集を圧倒してた部分が多かったから、その辺の油断もあったのかもしれないね。まぁ学生組になる俺がどうこう出来る部分じゃないんだけど……。
川魚2 : なんでそんなに学生組に依存みたいになってたんだ?
クジラ : えっと、なんでだろ?
オオカミ : 灰のサファリ同盟の各部門のリーダー格に学生が多かったからだな。仕事以外でまとめ役なんかしたくないって理由で、その辺が任せっきりになってた感じになる。
カンガルー : 灰の群集、主導権を握りたがる人は少ないっぽい。
草花2 : 少ないというか、その手の人は他に移籍しちゃってるよねー。
川魚2 : ……なるほど。
あー、確かに灰の群集ってそういう部分はあるよなー。赤の群集や青の群集ではそういう主導権の奪い合いで荒れてたとこもあるけど、灰の群集ではそこまで目立った事は起こってないもんね。
多分、圧倒的に強くて周囲を抑えられるベスタや、顔が広過ぎるくらいに広いレナさんや、ベスタ以外ではまともに制御出来ない風雷コンビの存在とかも大きい気はする。その辺の人は普通にログインしてたみたいだし、その状況で灰の群集の主導権を取ろうなんて真似をしようとする人がいなかったんだろうね。
もし、その時にあのスライムがいたら……ちょっと恐ろしいな。灰のサファリ同盟を内部からメチャクチャにするとかされていたかもしれない。いや、もうその心配はいらないし、そんな事は考えなくてもいいだろ。
「……というか、報告のしようがないな」
「え、ケイ? 何かあったのかな?」
「あー、ちょっとなー」
流石にこの内容については、すぐにでもみんなに説明しといた方がいいか。塩釜焼きについても既に結果は出てる訳だしね。
「ヨッシさん、カインさん、ちょっと中断してもらっていいか? 伝えとく事がある」
「え? まだ焼き始めてないから大丈夫だけど、どうしたの?」
「……とりあえず話を聞こうか」
「サヤとハーレさんもいけるか?」
「えっと、えっと!? あ、サヤ、真上に撃ち上げていくのです! それなら聞きながらでも出来るのさー!」
「あ、その手があったかな! ケイ、この手段はどうかな?」
あー、そういや真上に向かって操作で撃ち上げるのは考えた事がなかった気がする。うん、それなら上に誰かいないかさえ気を付ければ問題はなさそうだ。
「上に誰か居ないかだけは気を付ければ、それでも問題ないと思うぞ。てか、俺もそれは思い付いてなかったな」
「ふっふっふ、私のナイスアイデアなのさー! それじゃそうやってやりながら話を聞くのです! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
「そうするかな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
「さてと、とりあえず何があったかを話していくぞ。さっき――」
という事で、簡単にではあるけどさっきまでの情報共有板で出てきたワニの人が所属している集団の話やら、学生組の不在時の状況やら、灰の群集での主導権を握りたがる人の存在やらについて伝えていった。
サヤとハーレさんはその話を聞きながら、上空へ向けて生成した風と電気を操作で飛ばして特訓中。まだ昇華にはなってないけど、早めになってほしいところ。
それにしても特訓して18時まで待つ予定だったけど、色々とあって脱線しまくってるよな。でもまぁ、不在時の情報とか、灰の群集の弱点とか、その原因とかの情報は大事だもんな。
その辺の分析が甘ければ、差が埋まっているという赤の群集や青の群集との競争クエストで負ける要因になりかねない。競争クエストで勝ちたいのなら、疎かにしては駄目な部分だよね。