第101話 進出の準備完了
アルは変異進化で移動拠点種になり、全員分のリスポーン位置の設定も出来た。これで行ける幅が広がったと考えてもいいか。とりあえず、次の目的地を決めていこう。
「とりあえず、候補地は3つ。湿地帯、高原、森林だな。行きたいとこある人ー?」
「私は森林行きたい! 色んな果物を採取したい!」
「ハーレ、それ自分が食べたいだけでしょ?」
「そだよ! あと単純に私の初期エリアだった森林はあんまり見れなかったから、違うエリアだけどもう少し森林エリアも見てみたいかなって思ってね!」
「そうか、ハーレさんは『仲間の呼び声』で別エリアから来てたんだよな」
ふむふむ、ハーレさんは森林エリア希望か。みんなで1度は赤の群集の森林エリアには行ったけど、それだけでも森林深部エリアとは随分と雰囲気が違ったからな。あの時はちょっと通過しただけだし、本格的に冒険はしていない。うん、選択肢としては充分ありだな。
「希望って訳じゃないが、俺はちょっと高原エリアは避けたいな。明らかに途中から気候が木には向いてない感じだし、その先は雪山っぽいからな。行きたくない訳じゃないが、もっと余裕が出てからにしたい」
「確かに雪山はキツそうなのは俺も同じか……」
コケは寒さにも強いらしいとはいえ、流石に雪山は駄目だろう。実際行ってみないと分からないけどもコケが生えているかも怪しい。高原エリア自体は行くのも良いけど、その先が見えているのなら考えておいても損はないか。かといって既にその先まで考えるというのもな……。
「植物系は寒いエリアは厳しいかな? でも少し気が早い気もするよ?」
「まぁサヤの言う通りでもあるよな。更に先のエリアまで心配するのも早いか……」
それを言い出したら他の2エリアの先に何があるのかの情報もまだない。そもそもどのくらいの広さでどんなものがあるのかさえ、まだろくに分かっていないしな。
「……他のエリアの先の情報とかってあるのかね?」
「流石にまだ無いんじゃないかな?」
「多分、高原エリアの先は山だから見えてるだけだろうしな」
「雪山も行ってみたいけどねー!」
「繋がってるのが雪山だけとも限らない気もするけど、その辺りはどうするの?」
「あー繋がってるのが1ヶ所とも限らないか。まぁその辺は別に他の人の情報を待ってからでも良いんじゃないかと思うぜ? どうせ自分達だけで全エリアを一気に同時に攻略出来る訳でもないしな」
確かにそうだ。俺達がどのエリアに向かっても、他のエリアに向かうプレイヤーもいるだろうからそっちから情報は手に入るだろう。そもそも出発しても多分状況によってはアルに進んだ先にリスポーン位置設定をしてもらって、『帰還の実』でここに帰ってくるという手段もある。
「まぁ途中から目的地を変えても問題はないから、気楽に決めるか」
「それもそうだね。なら、ハーレの希望の森林にしとく?」
「俺は良いぜ」
「私も良いかな」
「俺も賛成。森林エリアでも試したい事は出来そうだし」
「やったー! 希望が通ったよ!」
「という事はこれから不動桜の討伐をしないとだな」
「まぁ残滓だし、楽勝だろうけどな」
「不動桜を討伐してから新エリアへ出発だー!」
という事で行き先は、森林深部エリアから西側になる、どこの群集エリアにもなっていない森林エリアに決定した。という事で、移動時間の短縮と行きますか。
「よし、それじゃサヤ、アル、移動よろしく!」
「……まぁそれが手っ取り早いか。ケイ、皮の準備よろしく」
「おうよ! ……あ、皮使い切ってる……。誰か持ってない?」
「仕方ないね。はい、これどうぞ」
「お、サンキュー、サヤ」
あんまり鹿の皮は数を持っていなかったから在庫が尽きていた。後で一般生物の鹿を仕留めて補充しておかないとな。それにしても黒の暴走種が増えても一般生物は普通にいるんだよな。流石はゲーム。肉やら皮やらは一般生物からしか落ちないみたいだし、何気に重要。経験値的にはあんまり意味は無くなってきてるけど、素材としては重要なんだろうな。どっかで補充しておかないと。
とりあえずサヤからもらった鹿の皮をコケでコーティングして、滑る為の車輪代わりを用意した。後はアルに渡して、サヤにアルを牽引してもらえば出発可能だ。アルも皮を設置し終えて、サヤへと根を伸ばしている。
「そういや、聞きそびれてたんだがよ?」
「ん? 何か他にあったっけ?」
「いや、そこの目の前の掘り起こされてる岩とか土は何なんだ……?」
そういやアルにはまだ説明してなかったっけ。確かにあれを見ただけだと何がなんだか分からなくても仕方ないよな。ただ埋まってる岩を掘り起こしてるだけだし、池の姿にはまだまだ遠い。
「ハーレさんの土の操作と、俺の岩の操作の特訓をしててな」
「あーなるほど、そういうーー」
「それで、そこに池を作るんだよ!」
「おい、納得しかけたのに一気に分からなくなったんだが!?」
ハーレさん、説明が足りてないぞ。アルが混乱し始めたじゃないか。まぁそこだけ聞けば意味不明。今の説明だと俺も多分困惑するよ。説明はきちんとしないとな。
「単に穴を掘るだけじゃ面白みもないから、池でも作ってみるかって事にしただけだぞ」
「……池って作れるのか? 技術的にもゲームのシステム的にも……?」
「ゲームのシステム的に作れるかどうかの実験も兼ねてるんだよ。技術的なのはやってみないとわからん!」
「大雑把な作り方は見たことあるんだけどね!」
「そうそう、あの時は父さんに手伝わされたからな」
「いきなりだったもんねー!」
父さんがいきなり庭に池を作ると言い出して、半ば強制的に手伝わされたからな。初めはびっくりしたけど、最終的には俺もハーレさんも楽しんで手伝った覚えがある。いやー夏の真っ只中にいきなりだったしな。そういや作った時の夏の間はプール代わりに浸かってた覚えもあるな。流石に今は浸からないけど。
「……なぁ、サヤ、ヨッシさん。なんかケイとハーレさんが同じ光景を思い出してる風に思えるんだが、どういう事だ?」
「あの2人、実はリアル兄妹だったって判明したからだね」
「まさかの兄妹にはびっくりしたね。地味に私までケイさんと面識あったのも判明したしね」
「……え、マジか? どんな偶然だよ、それ……」
「アルが驚くのは分かるけど、驚いたのは俺らも同じだからな?」
「そうそう、私とかコケのアニキが私の兄貴だったって叫んじゃったし!」
俺達だって意図していた訳じゃないし、本当に驚いたからな。いや、普通にゲームしてて、PTメンバーが妹だとか思わないし。ヨッシさんの送ってくれたカニとか、次の土日にログイン出来ないとか、色々些細な一致が積み重なって確信した訳だしな。
ちょっとの類似だけで他のプレイヤーを身内かとか考えて、それを聞いてみて間違ってた時には俺は恥ずかし過ぎてもうそのゲームに2度とログイン出来ない自信があるぞ! 確信がなければそんな事実の確認なんか出来る訳がない。
「あーなるほどな……。そりゃ当人達も驚くか。よし、事情は分かった。やりとりを見た感じ、今まで通りで何も変えなくて良いんだな?」
「それで問題ないぞ」
「兄妹だからって特に何かが変わるわけでもないからねー」
「ま、本人達がそれでいいなら別に良いか。で、池の方に話は戻すけど、操作系の熟練度稼ぎをしつつ、地形の変化の影響範囲の確認って事でいいのか?」
「おう、その認識で良いぞ」
「それで上手く行ったら、泳ぐんだー!」
あ、やっぱり泳ぐつもりなんだ。まぁ上手く出来たとしても、何かを飼う訳でもないしプール化しても別に問題はないけども。
「それをモチベーションにして熟練度上げをする訳か。そういや草花系のプレイヤーが根で土を固めて撲殺すれば土の操作が取りやすいってのがあったな?」
「新エリアには成長体の未討伐もいるだろうし、俺もそれを狙う予定だから一緒にやろうぜ」
「……ケイがか? 根の操作はないのにどうやってだ?」
「ふふふ、それは見てのお楽しみって事で!」
「そうか。それじゃ新エリアで俺とケイは土の操作の取得狙いだな」
「うん、分かったよ! それまでは攻撃を控えれば良いんだね!」
「相手次第だけど、私のハチの出番がありそう」
「みんな、それより前に不動桜の討伐が先だから忘れないようにね! それじゃ出発するよ!」
「行くぜ、新エリア!」
「「「おー!」」」
アルをサヤが牽引して、出発する。もちろん俺は水の操作で滑りやすく調節していく。あ、そうだ。ついでだから移動しながらでもできる事を頼んでおこう。
「ハーレさん、皮が落ちそうな一般生物がいたら仕留めといて」
「この移動に使う為の皮だね! うん、狙い投げて仕留めていくよー!」
昨日は皮が無くなってるのに気付いてなかったし、散策が目的だったから一般生物は無視していた。だけども必要があるならば仕留めておくほうがいいだろう。
しばらくアルに乗り、森林深部エリアの西側に辿り着くまであと少しというところまで来た。途中で鹿の群れや狼や猪などの一般生物がいたので、ハーレさんがサクッと仕留めてくれた。近くにいた場合はヨッシさんも飛び出して一緒に狩っていたりする。移動中にもみんなで手分けできて良いものだ。まぁ、珍しいから他のプレイヤーがいる時はかなり目立ってはいたけども。
そろそろ不動桜を目視できる距離になってきた。そろそろこの移動は終わりにして各自が自分で移動するとしようか。俺も水球での移動は止めて、群体化の移動に変更する。
「そんじゃ、さっさと仕留めようか!」
「「「「おー!」」」」
先客は運良く居ない。気合十分な俺達はあっという間に不動桜を倒していた。いや、もうヒノノコとかに比べりゃ雑魚だもんよ。動かないし、俺達は魔法対策も完備してるしさ。
ちなみにヨッシさんの腐食毒で回復手段を封じられ、敵の樹木魔法はアルに相殺され、俺とハーレさんの複合魔法で幹をへし折り、サヤの爪刃乱舞によって仕留めきった。ボスとはいえ残滓じゃこんなもんか。一応『進化の軌跡・樹の欠片』が1つ手に入ったけど、俺には完全に不要物なんだよな。
あと一応毎日分の融合進化ポイントを3、道中で増強進化ポイントを1確保した。地味だけど毎日取得は重要だよね。
「呆気なかったかな?」
「まぁオリジナルのボスを倒せるくらいに強くはなってるんだから、残滓に苦戦しても困るがな」
「確かにね」
「何にしてもこれで新エリアに行けるんだよねー!」
「それじゃ行くぜ! 新エリア!」
「「「「おー!」」」」
今の俺達にとってはボスとはいえ残滓ではただの通過地点の邪魔者に過ぎない。それも排除し終えたし、目的地はもう目の前だ。これで新エリアへの本格的な進出の開始だな!