こんな編集は嫌だ……
第3章
〜こんな編集は嫌だ〜
俺の幼馴染、梨花と俺の妹の未来が出会ってから3日が経った日。
俺は、部屋に引きこもっていた。
何故かは後に分かる。
プルルル、プルルル。
俺の携帯が鳴る。
俺は恐る恐る電話に出る。
「はい、かずやです」
『やぁ、やぁ、かずやくん。吹雪だけど、今日が何日か分かってるかな?』
「え、え〜と…なんの日でしたっけ……」
この人は俺の担当編集の、今野 吹雪さんだ。
『忘れたとは言わせないよ?君が締切を伸ばしてほしいって言うから伸ばしてあげたのに、第2の締切すら守れそうにないんだから、電話したんだよ?わかる?』
「あ、はい……」
そう、第1の締切に間に合わず頭を下げて締切を伸ばして貰ったのだが、第2の締切にも間に合いそうもなく、部屋に引きこもっているのだ。
「今3分の2が終わったんですぐ……終わると思います……」
『なめてるの?小説の3分の2ってまだまだだよ?そのままいくと、3巻出版出来なくなるけどそれでいいのかな?それは、私的にも困るんだよね〜。だから早く原稿上げてきて。じゃないとち〇こ引っこ抜くからね』
という言葉を残して電話を一方的に切られた。
電話越しでは分からないが、実際吹雪さんが目の前にいると、目で殺されているだろう。
ただ、確かに小説の3分の2はまだまだだ。
例えば300ページの小説だとするとまだ200ページしか完成していない。
正直、絶望だ。
「やべ〜な。本格的にやばくなってきた」
すると、また携帯が鳴る。
「はい、かずーー」
俺が話すのを遮るかのように相手は、
『あ、言い忘れ。今すぐ編集部に来て?じゃよろしく』
と残して、電話を切った。
俺には、吹雪さんが言った言葉の糸がわかった。
考えるだけで寒気がする。
「お〜い、未来〜?」
「ん?なに?兄さん」
「俺今から出かけるから留守番よろしくな」
「分かりました!」
ほんとに分かってるんだろうか…
「じゃ、いってくるわ」
「行ってらっしゃい!!」
俺の家から編集部まで、それ程距離はない。
30分歩いたら着くほどの距離だ。
出版社の受け付けでカードを見せ、編集部のある7階に上がる。
「やっと来たね、かずやくん」
やっとって……これ以上早く来るなんて無理だわ。
「で、何の用なんですか?今日は」
察しはついているんだが……
「なんの用?ほんとに君はセッ〇スの事しか頭にないの?」
そんな訳ないだろ!小説の事で頭いっぱいだわ!
とは、なかなか言えない。
「あははは……」
この人には、こんな感じの返ししか出来ない。
「今日から、この部屋で原稿が完成するまでいてもらうから。あ、私と二人きりじゃないからね?」
そんな事思ってませんよ……
「ここって……」
「缶詰部屋。締切に間に合わなかった愚かな作家、イラストレーターを閉じこ…集中させる場所」
今、編集部の裏が見えかけたんだが……
「吹雪さん、ちなみに期限って……」
「原稿が完成するまでとは言ったけど、明日の昼までに完成させてね。完成しなかったら……【漆黒のエンブリヲ】は、打ち切りだから」
「…………っ?」
俺は硬直してしまった。
打ち切り。それは今後一切その小説の続編を出す事が出来なくなることだ。
吹雪さんは、俺の心情など関係なくこう告げる。
「打ち切りになると多分……私のクビも飛ぶだろうけどね」
そんなこと言われたら……
「分かりました。完成させます」
しか言えない。
「ありがと!じゃ、頑張ってね〜!あ、ちなみにクビが飛ぶのは嘘だからね!」
くっそ〜、鬼編集め〜〜〜。
時は経ち、缶詰部屋に入ってから9時間。
「やばい、この部屋集中は出来るけど、空気が悪すぎる」
「ど〜だい?原稿の方は、終わりそうかな?」
扉の向こうに吹雪さんがいる。
「あとすこしで終わりそうです。でも、この部屋空気悪すぎませんか?」
「あ〜だっていろんな人が……」
「……ん?」
吹雪さんは、言葉を詰まらせてから、
「何でもない!気にしないで頑張れ」
と言い去っていく。
濁されたら余計気になるわ。
缶詰部屋に入れられてから……何時間経っただろう……
「おわった〜〜。できもなかなかいい!これなら吹雪さんも満足してくれるだろ」
すると、扉の向こうから足音が聞こえる。
吹雪さんだろうか。
「ふぶーー」
「兄さん?」
俺が喋るのを遮るかのように話しかけてきたのは、メイド兼妹の未来だった。
「は?なんでまたお前がここにいるんだよ」
「なんでって…出かけるって言って1日返ってこないんだから心配で……」
どんだけ心配性なんだよ……
「でも、なんでここが分かったんだ?」
「妹の勘ってやつかな?」
それを言うなら女の勘だろ。
「なんでもいいから早く帰れ、こんなとこにいたら鬼編集に殺され……」
未来の後ろに鬼のような影が映る。
「鬼編集…ね」
その人物はそう言って、扉の鍵を開ける。
俺は恐ろしくて足を動かせなかった。
「やっと解放だっていうのに出てこないのかな?かずやくん」
白く輝く歯が俺の目に映る。
「はい、今すぐに」
俺は、吹雪さんの指示に従い、缶詰部屋から脱出する。
外には未来と、冷酷な目付きの吹雪さんがいた。
「かずやくん、この女の子は誰かな?」
「え〜と、この子は僕の妹です」
「妹なの?可愛いじゃない。妹ちゃん、襲われたりしてない?毎日いやらしいことされてない?」
「毎日、セッ〇ス三昧です!」
「そんな訳ないだろ!」
「毎日、一緒にお風呂入ってます」
「はいってね〜わ!犯罪で捕まるわ!」
「毎日家事をしています」
「…………」
今回はツッコまないことにした。
「私は、かずやくんの担当編集の今野 吹雪と申します。宜しくね……え〜と……」
「未来です!かずやさんの妹の未来です。よろしくお願いします」
「……?」
少し吹雪さんが疑問を感じた顔をしたが、お互いの自己紹介も終わり、本題に入る。
「かずやくん原稿はど〜なった?」
「ちゃんと完成しました。これです」
俺はそう言って、吹雪さんにUSBを渡す。
吹雪さんは、パソコンにUSBを繋ぎファイルを開き原稿をみはじめる。
「面白い」
10分ほど経って、吹雪さんが急に発する。
「これ今までで1番面白いよ! 」
「ありがとうございます」
なぜ俺に一切の喜びが無いのか、それは毎回の原稿チェックの時に吹雪さんは『これ今までで一番面白いよ』と言うからだ。
「俺これで失礼しますね。眠たいんで」
「はいは〜い!校閲が終わったら1度かずやくんの所にデータ送るね」
「はい。では失礼します」
俺は、未来を連れて出版社を出る。
「兄さん、何であんな態度なの?」
「いいんだよ、いつもこんな感じだから」
毎度、毎度のことで、俺は慣れてしまっているんだ。
「それが兄さんのダメなところだと思うな。思ったことはちゃんと言った方がいいと思うよ」
なんで俺は妹に説教されてるんだろうか……
「次からは私も小説作りに協力する」
「な、なんでそ〜なるんだよ。妹に仕事を手伝わせるなんーー」
「面白い小説書きたくないの?もっと多くの人に読んで欲しくないの?ミリオン取りたくないの?」
「……………っ」
未来の言葉は、俺の胸を抉るように鋭かった。
知り合って数日の奴に言われたくないという気持ちはあるが、未来が言ってる事は正論ーー
ーー何も言い返せない
「未来、土曜日出かけるぞ」
「分かった」
俺はこの時決意をした。いや、俺の頭がそう考えさせた。
『未来の助けは、小説を書く上で必要なのではないか』と。
第3章を読んでいただきありがとうございます。
今回は、1章で少し出てきた鬼編集の吹雪さんが登場しました。そこに妹の未来が現れる毎度の展開。
ここは私的にオススメするところです。
そして、かずやと未来のボケ、ツッコミも見どころでしたね。
4章はまた未定ですが、兄妹のお出かけがメインになるかとおもいます。
多くの方に呼んでもらえるように全力で書きます。
なかなか知名度があがらず、メンタルがって時もありますが、クヨクヨせず書いていきますのでよろしくお願いします。