ピナカの笛
レンタルで『日本〇ばなし』を見たら、童話が書きたくなったので書きました。
市原〇子さんと、常田〇士男さんの声が、いいんだよなぁ。
ヨハンは、猟師だというのに弓が苦手だった。
獲物が十歩以上離れたところにいると、まるで当てられない。
だから、ほかの猟師たちに比べて、ヨハンの稼ぎは半分にもならなかった。
幸いにも(というはのおかしな表現だが)彼の両親はすでにいなかったし、妻もいない独り身だったので、ヨハンは自分が生きていけるだけの稼ぎさえあれば良かった。
それでも、ヨハンの暮らしは決して楽なものではなかった。
ある日、ヨハンが森の中で獲物を探していると、どこからか笛の音が聞こえてきた。
その音に誘われるように歩いていくと、木々の開けたところに出た。
するとそこには、切り株に腰掛けて笛を吹く、少年の姿があった。
それだけではない。
少年の周りには、森のありとあらゆる動物たちが集まっていた。
動物たちはじっと耳を澄ませ、少年の笛の音に聞き入っているようだった。
少年は、森の妖精ピナカだった。
ピナカは動物たちの守り神みたいな存在で、ピナカに出くわした猟師は、その日から三日間、一匹の獲物にも出会えないと言い伝えられていた。
狩りを生業としている者たちにとっては、非常に厄介な存在だ。
ヨハンも、すぐにその場から離れようとした。
ただでさえ猟が下手で馬鹿にされているのに、三日も獲物を獲れなかったら、他の猟師たちに何を言われるか分からない。
もと来た道を引き返そうとして、しかしヨハンは足を止めた。
ある考えが、頭をよぎったのだ。
ピナカの笛は、動物を呼び寄せることができる魔法の笛だ。
もしあの笛を手に入れることができたら、もう獲物を探して森を歩く必要もなくなる。
どうしてもピナカの笛が欲しくなったヨハンは、こっそりとピナカの後ろに回り込んだ。
そしてゆっくりと近づくと、持っていた縄で、あっと今にピナカを縛り上げてしまった。
「縄をほどいてほしかったら、その笛をよこすんだ」
ヨハンはピナカを脅しつけた。
するとピナカは意外にも「いいよ」と言って、素直に笛を渡してくれた。
ヨハンが不思議そうな顔をしていると、ピナカは笑いながら、
「でも、その笛を吹いたところで、獲物は手に入らないと思うけどね」
そう言って、ヨハンの前から風のように消えてしまった。
動物が呼び寄せられるのに、獲物が手に入らないというのは、どういうことなのか。
ヨハンはそう思いながら、笛を吹き始めた。
弓が下手くそなヨハンの、唯一の特技が笛を吹くことなのだ。
優しい曲を奏でていると、茂みの方からガサガサと音がして、一匹のウサギが姿を現した。
次にはキツネが現れ、リスや野ネズミも集まってきた。
あっという間に、ヨハンの周りは動物たちで埋め尽くされる。
(今日は大猟だ。これで、他の猟師たちに馬鹿にされずにすむぞ)
そう思い、ヨハンは弓を持つために笛から手を離した。
すると、動物たちははっとした顔になって、一目散に逃げ去ってしまった。
(しまった。演奏をやめるのが早すぎたか)
ヨハンはもう一度笛を吹き始めた。
今度は物悲しい雰囲気の曲だ。
また、次々に動物たちが集まってくる。
シカが現れ、タヌキが現れ、鳥たちが舞い降りてきた。
ヨハンは動物たちが十分に近づくのを待って、素早く弓に手を伸ばした。
しかし、矢をつがえてみると、もう動物たちは一匹も残っていなかった。
(そういうことか)
ヨハンは、ピナカの言った言葉の意味が、ようやく理解できた。
ピナカの笛は動物たちを呼び寄せるが、その効果は笛を吹いている間しか続かない。
吹くのをやめた途端、動物たちは我に返り、あっというまに逃げ去ってしまう。
弓を構えている暇なんてないのだ。
だが、ヨハンは諦めきれなかった。
もう他の猟師たちに馬鹿にされるのは嫌なのだ。
ヨハンは何度も笛を吹き、何度も動物たちを呼び寄せた。
そして、何度も何度も逃げられた。
日が傾き始め、辺りが薄暗くなってきた頃、ヨハンはあることを思いついた。
ずっと笛を吹き続け、森中の動物を全て集めれば、一匹くらい逃げ遅れるやつがいるんじゃないか。
その作戦を実行してみることにした。
深呼吸をして息を整えると、今までで一番大きな音で笛を吹き始めた。
音が遠くまで届くように、高い音を使って陽気な曲を奏でる。
どんどん動物たちが集まってきた。
シカにキツネ、ウサギにリス、イノシシにタヌキ。
まだまだ来る。
サルにイタチ、ヘビにフクロウ、さらにはクマやオオカミまでもが集まってきた。
それでも、ヨハンの陽気な演奏は続く。
すっかり夜が更け、月が森の真上に差し掛かっても、ヨハンは笛を吹き続けた。
周りには、溢れんばかりに動物たちが集まっている。
どこから来たのか、大きなカメまで現れていた。
ヨハンは笛を吹き続けながら、周りを見た。
どの動物も、ヨハンの笛に心を奪われているようだった。
音に合わせて、頭や尻尾を揺らしている。
演奏に合わせて、歌うように鳴いている鳥もいた。
足元では、野ネズミたちが楽しそうにくるくると回っている。
ヨハンは、演奏を止めた。
しかし、弓に手を伸ばす気にもなれなかった。
動物たちは、逃げない。
黙ってヨハンが演奏の続きをするのを待っているようだった。
「射てないだろ」
いつの間に現れたのか、ピナカが横に立っていた。
「射てるわけないよな。みんな、あんたの笛の音に惹かれてやってきた、陽気なお客さんたちばかりだ」
ヨハンは頷くと、笛をピナカに差し出した。
「これは返すよ。俺は、地道に猟師を続けるさ」
すると、ピナカは笑いながらこう言った。
「あんた、向いてないよ。猟師なんてやめちまいな。もっと自分に合った仕事をすればいいじゃないか」
ヨハンは首を振る。
「俺は、確かに弓が下手だ。でも、他に出来ることなんてないんだよ。自分に合った仕事なんて、探せるわけがない」
「そんなこと無いさ。周りを見てごらんよ」
ピナカが動物たちを指さした。
森の動物たちが、木の実や果物を咥えて、次々とヨハンの前に運んでくる。
「素敵な演奏を聴かせてくれたお礼さ。オイラはいつも、こうやって演奏を聴かせてあげる代わりに、食べ物を分けてもらってるんだ。
でも、この森は広いからな。オイラ一人じゃ、みんなに演奏を聴かせてあげられない。
もう一人くらい、笛を吹けるやつがいると助かるんだけどなぁ」
ヨハンは、山のように積まれた食べ物を見て、目を丸くしていた。
朝になっても、ヨハンは帰ってこなかった。
猟師たちは、ヨハンはオオカミに食べられたんだ、とか、いや崖から落ちて死んでしまったんだ、なんて無責任な噂話をしていたが、実際のところは誰も知らなかった。
ひと月も経たないうちに、ヨハンの住んでいた小屋は物置になり、誰もヨハンのことを話さなくなった。
そして、さらにひと月が経った頃には、ヨハンのことなど、みんなすっかり忘れてしまっていた。
時折、陽気な笛の音とともに大きなピナカが目撃されたが、猟師たちはピナカを見ると一目散に逃げ去ってしまうので、誰もそのピナカの顔をはっきりと見たものはいなかった。
日本〇ばなしの、オープニングとエンディングも好きです。
ただ、エンディングの歌詞を深読みすると、なんだか悲しくなる。
♪ク〇の子見ていたかくれんぼ、お尻を出した子一等賞♪
↑
見ていた、ということは、つまりク〇の子は仲間はずれ。
ルールを知らないから、お尻を出していて最初に見つかった子が一等賞なんだと思っている。
♪いいな ~中略~ 子供の帰りを待ってるだろな♪
↑
ク〇の子は!? ク〇の子のお父さんやお母さんは、子供の帰りを待ってないの!?
その後に流れる ♪ぼくも帰ーろ ~省略~♪ を聞くと、すごく悲しい気持ちになるんです。
私だけかなぁ。