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8月18日

8月18日 



 今日はメモリの増設を行った。

 簡易的ではあるが、現状、今の僕の軍資金でできる精一杯がこれだ。

 まだパソコン強化に余地を残しているとはいえ、これで以前よりも長時間の間このソフトの起動ができるようになっているはずだ。

 なので、今日はそのテストである。

 果たして、どの程度まで耐えうるのか……。


 一応、会話機能のチェックも行いたいので妹を呼ぶことにする。


「おーい。妹ー」


「なんだ、パソコンオタク」


 声の近さ的に部屋にいるな。


「確かに事実ではあるけれど、泣くぞ?」


「勝手にしろ、で、用件は?」


「その淡々とした感じ、なんか男みたい」


「あっそ」


「この前僕が作った、人の思考を読み取るソフトの事覚えてるだろ? またどこか不具合が起きたりしないか、こうして今テストしてるんだよ」


「……」


「おい、シカトかよ! せめて何か発言してくれないとテストできないんだけど」


「じゃあ、ジュース買ってきて。炭酸じゃないのがいい」


「……」


「オイ。聞こえなかったのか? 会話しないとテストにならないんじゃなかったっけ?」


 クッ、コイツ。世紀の大発明者を前に、こき使おうというのか……。


「今?」


「今」


「ナウ?」


「ナウ」


「キンケドゥ?」


「シーブック」


「素直じゃねえなぁ……」


「はやく」


「……分かったよ」


 くそ、今日はメモリ増設からの動作不良チェックで一日いっぱい使おうと思っていたのに、余計な時間ができてしまった。


 はやく行くと言っても、着替えなくちゃならん。


 なにせ、出かけるつもりはなかったので、パジャマ姿である。寝癖もついてるみたいだが、まあコンビニいくだけなら許容範囲だろう。


 あー。立ち上がるのだるい。


 てか、今日天気良すぎでしょ。これ絶対外暑いやつだ。


 ズボンこれでいいか。シャツもこれでいいや。


 さっさと買いに行って、作業の続きだ。


 ダンダンダンダン。


「あら、よしたか。おでかけ?」


「ああ。ジュース買いにコンビニ行ってくる」


「そう。気を付けてね」


「はいはい」


 うちの母といい、妹といい……。


 どうしてウチの女勢は寝転がりスタイルなんだよ。

 どういうわけか二人とも肥満体質ではないが、いずれすごいことになるぞ、きっと。


 ……んなことはどうでもいいんだ。さっさとコンビニだ、コンビニ。


 ガチャ。


 扉を開けた先から早速熱風がやってきた。


 ああ……行きたくない。


 といっても、歩いて5分程度のところだ。少し我慢すればすぐに涼しくなる。


 道路が熱され過ぎて陽炎ができてる……。


 風もあまり吹いてないな。


 そういや夏休みっていつまでだったっけな?


 来週くらいまでだったのは確かなんだが。


 それまでにはなんとかソフトをある程度の段階まで仕上げたいところだ。


 と言っても、しばらくはこのバグの修正に時間を費やすことになるだろう。自分で作っておいてなんだが、かなりのプログラム量だから、チェックだけでかなりの時間がかかっている。


 まあ、やるしかないんだけどな……。


 ――よし、そんなこんなで着いたぞ。


 ピコピコピコーン。


 コンビニの入店音だ。果たしてパソコンではこの音をちゃんと拾っているだろうか。


 さて、妹のやつには何の飲み物を買って行こうか。


 ……炭酸じゃないやつと言っていたな。……水でいいか?


 いや、水なら水道水でも飲める。多分、水を買って行ったら殺されるだろうな。


 っていうか、炭酸じゃないやつのバリエーション多くないか?


 あいつ普段何飲んでるっけ?


 だめだ、分からん。とりあえずおいしそうなやつ選んで買おう……。


 こういう時、相手の思考が読めれば苦労しないんだが……。


 そう、いうなれば今僕がつけているこの改造ヘッドホンを他人につけることができれば、あとはパソコンでその人の思考を読み取って、最善の飲み物を提供することができる。


 ……っていうか、人の思考を覗けるって何気恐ろしくないか?


 改めて思う。俺はとんでもないものを作ってしまったみたいだ。


 さて、あまり店内でぶらぶらしているのも時間の無駄だ。


 さっさと買う物を決めて帰るとしよう。


 よし、妹にはこの紙パックのカルピスでいいだろう。


 とっさに目に入ったから選んだ。文句は受け付けない。


 僕は……コーヒー牛乳でいいかな。


 ん?


 カウンターに人がいないじゃないか。


 まあ、行けば誰かしら出てきてくれるだろう。


「いらっしゃいませー」


 ほらきた。……あれ、こんな人いたっけ? 最近入った人かな。

 口の右下のホクロが印象的だ。


 ピッ。ピッ。


「ポイントカードはありますか」


「ありません」


 普段あまりコンビニは利用しないので持っていない。便利さに溺れてはいけないという戒めの意味も込めている。


 いや、これはウソ。単にあまり利用してないからカードを作る機会がなかっただけだ。


 とはいえ、ありません。と言うのも、なんだかそのコンビニが嫌いですと言っているような気がして、なんかちょっと申し訳ない感じがする。……これは俺だけか?


「2点で314円になります」


 よかった、ちょうど持ってた。あまりお釣りを出させるという手間をかけたくない。


「ちょうど頂戴します。ありがとうございました」


 よし、任務完了。

 あとは帰るだけだな。


 うう、あの自動ドアを開きたくない……。


 ピコピコピコーン。


 やっぱり暑い。


 いつか今度絶対あいつにも買いに行かせてやる……。


 暑い。暑い。暑い。暑い。暑い……。


 せっかくだから、いろんな暑いの言い方でも試してみるか。

 もしかしたら何か言語変換に何らかの誤作動が生じるかも

 しれないし。


 暑い。あ・つ・い。あつーい、暑い。あっつーっつー。


 …………。


 そういえば、同じ発音の単語の場合、ちゃんと漢字に変換するだろうか。このあたりの調整はかなり苦労した記憶がある。なにせ人が思ったことを言語化しなくてはならないので、その曖昧さを正確なパソコンにデータとして落とさなくてはならないのだから、その大変さは計り知れない。

 まあ、そんなこと言っても誰も共感してくれる人はいないんだけど。


 本が暑い。暑い男。暑い夏。


 ……ちゃんと変換できてるといいけど。


 そんなこんなで家に到着。


 暑い思いをするのは今回で終わりにしよう、うん。


「おい、妹。ジュース買ってきたぞ」


「じゃあ、こっちまで持ってきてー」


 ……。暑くなるな、僕。僕はあいつの兄だ。


 まあいい。さっさと妹にジュースを放り投げ、作業の続きを行うとしよう。時間は有限だからな。


 ダンダンダンダン。


 階段を登り切ったらこっちのものだ。


「ほらよ」


「カルピスか。まあ悪くないな」


「悪くないんだったら、素直に喜べよ」


「調子に乗るな。悪ふざけで水でも買ってくるんじゃないかと思っていただけだ」


「まさか! お金払ってまで水買ってくるかよ」


 ……水買ってこなくてよかった。


 さて、これで果たすべき責務は完了した。作業に戻るとしよう。

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