上野の上から目線はどこまで
ダイダロス健二は、朝食を食べていた。片手にホットコーヒー、ミルク多め、砂糖多めらしい。もう片手にケッチャプ多め、マスタード少なめのホットドッグを持っている。そのホットドッグをいっきに口に放り込み、いっきにコーヒーで流し込む。ホットコーヒーなのに熱くないのかと思う。朝食を食べ終わったダイダロス健二は、歯を磨き、スーツに着替える。今日のスーツは、紺色のストライプに決めた。ダイダロス健二は、店でスタンバイするようにした。なぜなら次の面接の日にちが今日だからである。「こんにちは、面接希望した者ですが」と扉越しに声が聞こえた。ダイダロス健二は振り向いた後に「どうぞー、入ってください」と言った。「はい、お邪魔します」と言って入って来たのは、見た目は上から説明すると、頭はハゲ散らかしていて、体型は痩せているようにも思えるが、お腹がポッコリ出ている。筋肉は全くなさそうだ。ダイダロス健二の初見の感想は「不健康そう」とぼそっと言う。「何か言いはりました」とダイダロス健二に問いただす。「いや、何も、面接始めようか」とダイダロス健二は笑って誤魔化した。そもそも、お邪魔しますじゃなくて、失礼しますだろと思うダイダロス健二だった。「じゃあ、まず履歴書出してください」と言う。しかし返事が返ってこない。「どうしましたか」と言う。すると、「履歴書忘れました、というか履歴書いるとか考えてませんでした」と返答が返ってきた。ダイダロス健二は呆れ顔で数秒ぽかーんとしていたが、「あー、じゃあまあ、今回は履歴書無しでかまいませんので、気を取り直して面接、始めましょうか」と言う。「はい」と返事は良いみたいだ。「あー、じゃあ、まずは名前からいいですか」とダイダロス健二がきく。「はい、いいですよ、名前はですね、上野花郎と言います。「上野さんですね」と言いながら、どこか上から目線なやつだと思ってきたダイダロス健二だった。「じゃあ次は経歴を教えていただきますか」と言うと、上野が「経歴ですか、あー、じゃあ最終の職場、前職だけでもいいですか」と言った。ダイダロス健二は仕方なさそうに首を縦に振った。上野は大手のメディア関係の仕事をしていたそうだ。上野は、そこの会社では、優秀だったらしい、しかも出世するのにそう時間はかからなかったらしい。やはりどこか上から目線な気がするダイダロス健二であったが、「あー、そうなんですね、優秀なんですね」と話を流すと、「聞いてくださいよ」と上野が言った。ダイダロス健二は、ドキッとしたが「どうしたんですか、聞きますけど」と答える。上野が語り出した。「出世も早く、世間からは順風満帆に見られていたかもしれませんが、やっぱり大変だったんですよ、超過勤務なんて、もう日常茶飯事なことで、早朝出社して、通常勤務して残業して、毎日がそれの繰り返しで、しかも、しかもですよ、休日出勤もざらにありましたよ」と泣きそうな顔で少し怒った感じで言ってきた。ダイダロス健二は、「うーん、それでうちに応募してきたんだね」と言った。上野は「はい、募集を見て、おっさんの天下り先と書いてたのを見て、このまま会社にいたら過労死してしまう、それで面接に来ました」と言った。ダイダロス健二は、上野のことを、よく喋るやつだと思った。「会社はじゃあ、その理由で辞めたんだね」と聞くと、上野は、「いや、まだ辞めてはないです」と答えた。ダイダロス健二は、また数秒ポカーンとしてから「でも、やめるんだね、辞めるんだよね」と聞いてみる。上野は大きな声で答えた「はい」と答えた。返事はやっぱり良いようだ。ダイダロス健二は、上野の上から目線なところと、外見はあまり気に入らなかったが、どこか期待していた。「ということで、じゃあ次の質問にうつってもいいかな」と上野にきく。上野は頷く。「自分の性格はどう思ってますか」と上野に質問してみる。上野は数秒考えてから、「んー、そうですね、上から目線気味に話してしまうところと、考えて自分で決めたら決めつけちゃって、人の話に耳を傾けないような性格ですかね」と答える。ダイダロス健二は、なんだわかってるじゃないかと思いながら、「なんかネガティヴな感じのことだけだったけど、ポジティヴなことはありますか」と聞いてみる。すると上野は、「無いです」と答える。ダイダロス健二は、苦笑いしながら「そうですか、じゃあ次で最後の質問にします」と上野に言う。「最後の質問ですが、我が社に勤務したらどんなことをしたいですか」ときく。上野は、「まだ何もわかりません、入ってから決めます」と答えた。ダイダロス健二は、度肝を抜かれた感じだった。「ありがとうございました、以上になりますが、質問ありますか」と上野にきく。「まだ、入ってませんから質問はありません」と答える。そして上野は立ち上がり、「では、お邪魔しましたまた」と言って去って行った。ツッコミどころは満載だが期待するダイダロス健二であった。ダイダロス健二の携帯に着信が入っていた。サイレントのマナーモードにしていたので気づかなかった。次の面接の予定がまた決まった。そうまたまたおっさんである。いやおっさんしか雇わないポリシーを貫くダイダロス健二であった。ダイダロス健二がストライプの柄にしていたのは、ストライプの縦柄は、相手の首を縦に振らすのに良いのだとか。つまり交渉しやすい服装を選んだのだが、今回はあまり関係なかったと悔やむダイダロス健二だった。