第1章 第1話 チュートリアルは必須
美しく慈愛に満ちた女神!授けられし特殊能力!自由と剣と魔法の世界!その地に降り立つ異世界からの旅人!
ーー元来コレという物が異世界モノの普通と言うか、当たり前に有るであろうチュートリアルというか、セオリーと言う物だろう?百歩譲って、チュートリアルと言うのは我々微温湯に浸かっている者にとっては必須だ。そしてチュートリアルとは万人に易しく解りやすくなくてはならない。
故に、故にだ。初手で死んだり詰んだりするゲームは説明不足である。
そしてもし仮に、そんなゲームの攻略を知人にせがまれ、しかし十分な説明もされずに放り投げられた結果、初手から全く進まないという状態に陥ったとしても、其れは知人に全ての責があってだな。ええと、詰まりは一体何が言いたいかと言うとだな…、
「俺は悪くねええええええええぇぇぇぇっ!!!」
無機質な牢に、異世界転生において初手の盤面にも至っていないという状態でぶち込まれると言う最速のワールドレコードを叩き出しちまった哀れな俺の叫びが、せめて某右京ナンチャラさんの如く真実を最後までとことん突き詰め、且つある程度のお偉いさんの耳に届く事を期待したが、結局俺のシャウトが聞こえた人物は唯一人だけの様で、
「五月蝿いわね!今何でワタシの女神の権能が全部なくなったか上に問い詰めようと瞑想してるんだから邪魔しないで頂戴!」
ーーと、残響が壁に染み入る前に劈くような金切り声で、空間を支配していた声を上書きする。
因みにこの金切り声の主にして俺の向かいの牢で明後日の方向に拝み倒して居る風態ーーー本人曰く瞑想って言ってたがーーーの女は…、説明は端折るが俺がこんな所に居る事の元凶で全ての諸悪の根源でこの世のどの女神よりも徳のランクが低いであろう鬼畜な駄女神、とでも言っておこう。まだ死神に魅入られた方が幾許かマシなレベルでな。纏めると最悪にて災厄の権化だ。
「女神の権能なんぞ知ったこっちゃないから罪を全部被って欲しいところだね。そうすれば俺はメデタく無罪放免、俺をこんな地獄に引きずり込んだ駄女神は極刑。俺はこんな事に巻き込んだキミが亡くなって少しは心が晴れる、あんたは女神として人を救える、win-winの関係じゃないか。さぁ今すぐに証言しろ。そうすりゃ少しはアンタの事を女神としてコレぐらいは認めてやってもいい」
親指と人差し指を数ミリほど離して程度を表し、この駄女神の説得に走る。
一応もう一度言っておくが、俺は全くもって悪くない。100%この女が悪いわけであって詰まりはこの提案も女神ならば喜んで乗るべきで有るのだが、事もあろうにこの女、
「嫌よ!私はね、ただ上に言われたからやってただけなのよ!だから私は悪くない!そもそもアンタがグダグダしてたから悪いんじゃない!」
ーーーと、塩水を砂糖水で洗う全く意味の無い口論へと発展しちまった。口論て言っても此奴がギャーギャー騒いでるだけだが。
そも、何でこんな羽目になったのか、事の発端となる出来事が起こったのは僅かに5時間前。