第1話 佐々木仁の高校生活の始まり
久しぶりにこっちも書きます。
自慢じゃないが、俺、佐々木仁はドラムが得意だ(自慢)。ロックの曲とかでドラムセットをジャカジャカに叩いている、あれである。
中学生始めのころに軽音部に入り、その時に初めてドラムは触ったのだが、それから3年間、ひたすらにドラムの経験を磨いて、今ではツインドラムとかも出来るようにはなった。小学生のころは全然音楽などに興味はなく今振り返ってみれば何に夢中になっていたかすら覚えていない。むしろ小学生時代なんて何もやっていないし、下手したら中学生時代にも何もやっていない間であるのだ(前言撤回)。そんな俺がドラムなんてものにはまってしまった。したがってドラムは世界で一番楽しいものなのでありみんなもドラムやろうよっていう宣伝を結果的にしたしだいであります。
ともあれ、なんでいきなりこんな話をし始めるのかというと、中学生も終わり、晴れて高校生になった俺だが、高校初日から、いや、正しくは高校に入る前からなのだが、とにかく俺は葛藤していた。何に葛藤しているかなんて、そんなものは君たちからしてみれば些細なことすぎて聞き流して、むしろこの小説がなかったかのように消され大量の作品の中に埋もれ誰にも見られることがなくなる、小説家になろうで 誰もが経験するアレのレベルなのだが、いたってシンプルな話だ。
決まっている、部活だ。
そもそも俺がこんな遠い高校(俺の通う高校は横浜から埼玉まで行かなくてはならなく、毎日3時間は通学で睡眠時間をつぶされるぞ☆)に決めたのは、この県立明神高校が『Black Cherry』という有名かつ俺の大ファンである人気ラノベ作家が卒業した高校だからである。その人を追い、自分もライトノベル作家を目指すべく、文芸部に入り、修行を始めようと決めたのだ。それが明神高校の面接のときまでの俺の意気込みであった。
だがその学校から文芸部は廃れていた。消されていた。まあ普通その学校に志願する前に部活動何があるか調べ溶けって話ではあるよなあ…。分かってる。全部俺が悪かった。
で、文芸部がないこの学校で俺は毎日3時間かけて登校し、何をしていけばいいのか。いっそのこと帰宅部で三年間グータラして生きていくのも悪くはないと思う。むしろ三年間じゃなくて一生グータラして生きていければいいなあ。ああ、働きたくないし、大人にもなりたくないなぁ。
と、そこで軽音部がみんなで豚とか馬とか鶏とかいろんな着ぐるみを着ながら勧誘しているのが目に入った。唯先輩はもっとまじめに練習してください!!
軽音部か。ドラムが叩けるならそれはそれで悪くはないな、と安易な気持ちで入ってはいけないのがこの部活だ。なんとコレ、ライブしょっちゅうやるしそのたびに準備がだるい。ほんとなんでライブの準備あんなにだるいの。なんであんなに先輩ってうざいの。唯先輩のほうがまだマシですっ!!
その上、仕事をさぼると先輩も顧問もうるさいのである。しかも給料ももらえないのである(当たり前)。何このブラック!
それらの理由もあるが、もう一つ引っかかることがある。それが昼休み、資料室で文芸部が一体どこに消えてしまったのか探している時のことであった。
「6年前に生徒がスニーカー文庫大賞及び電撃文庫大賞最優秀賞授与から報告がねえな。この後部員不足で部活が消えちまったのか。」
そもそもスニーカー文庫大賞と電撃文庫大賞の、しかも最優秀賞を同時に取るとか天才すぎだろ。しかもこの方は昨年に電撃文庫大賞で佳作を取っていらっしゃる。むしろなんでこんなすごい人がいるのにもかかわらず、廃部しましたも書かずに勝手になくなったことになっているのか。ていうかもうこれ廃部って書いてないし実はありました的な展開にどうにかもってけないかな……。
「そんなことじゃ生徒会は通らないよ。」
「なんだ黒山先生ですか。いたなら言ってくださいよ。」
「なんだってなんだよ。君に救いの手を与えに来た救世主がこの私だというのに。」
「ははは。おもしろいですね。何をしてくれるんですか俺の彼女になってくれるんですか。」
「なっ…!?ま、まさか……私に恋心を…?」
「残念ですね、先生と俺がここで付き合ったら風紀的にアレなのでたぶん無理です。」
「ってそんなことはどうでもよくてっ!!」
黒山先生はこの学校の数学の先生であり、俺のいる1年2組の副担任である。それにしても副担任とかめっちゃ微妙な立場だな。
「俺の中での黒山先生という存在が微妙な立場まであるからな。」
「微妙言うな!本題に入れないんですけど、はいっていいかい!?」
「はい、本題?てっきり昼休みに来る場所と言ったらここしかないでしょみたいな感じでここに来たものだと思ってました。ほんとすみません。」
「こいつ私のことなんだと思ってるわけ……。」
まあしょうがないね大抵数学Iの先生っていうのはなかなか覚えられないものだからね。ほんとしょうがないしょうがない。
「文芸部どうしてもやりたいんだったら、方法はないわけではないよ。」
「なんで俺がBlack Cherryに憧れて文芸部に入るためにこの学校に来たってこと知ってるの?こわ。」
「………え?Black Cherry……?」
「?」
「…なんでもないわ。それより面接の時私が面接官だったでしょうが。ていうか君さっきから独りごとで散々ああだこうだ言ってたし。よほどそっちのほうが怖いわ。」
「新しく作るのも考えてないわけではないんだけどね……。」
「先生の話は最後まで聞こうか!!」
この先生の雑談(適当)は置いといて、つまり黒山先生はもう一度文芸部を作りなおせと言いたいそうだ。
その手は考えなかったわけではないし一番最初に考えた案でもあるので、いまさら黒山先生が名案だぜみたいな顔で紹介されてもそれには全く意味はないわけである。マジで何のために来たのこの人……。
「作っちゃえば、毎年部費を収めるだけでパソコン使い放題だよ。いざ入るってなったら私が顧問になってあげるし。」
「そうですか。…それは普通にありがたいですけど、そううまくもいかないんですよ世の中っていうのは。」
「知ってるけど?」
「聞いて驚け、俺はこの高校に一人も友達がいないんだ。
「知ってるけど?」
「知ってるっておかしくない?このこと明神高校に入って初めて話すことのはずなんだけど。」
俺は横浜からこの高校に来ていると先ほども話したが、つまり、この高校には知り合いが一人もいない。それに加え、クラスではもうカーストができ始めており俺のいる立場はほとんどなくなりつつある。やっぱり僕の友達は少なかった。ていうかいなかった。
「最初はみんなそんなもんだろ。それに、君の事情は私も把握している。辛いかも知れないけど、なにしろ大事なのは最初だ。そこで間違えれば何もかもが台無しになる。だから間違っても入学初日に犬を助けるためにリムジンに引かれるなんてことをしてはいけないよ。」
「八幡になりそうなのでやめてください。」
「ぼやかして言ってたんだからはっきり固有名詞だすなよ。ヒキタニ君がかわいそうだろ?」
「先生も名前だしちゃってるし、名前間違えてるし。」
「しまった……。……と、とにかく、君はまだあきらめるべきではない。」
「―――――――――。」
「君は優秀なライトノベル作家にきっとなれるはずなんだから、ここで夢を終わらせちゃうなんて、すごくもったいないよ。」
その言葉が俺の耳に残ってはなれなかった。