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閑話 孝子の教育係は調教師?

閑話です。

孝子の教育係は誰だったのだろう?から考えてみました。

「ねえ、彰君。うちの子達も高校を出たから本格的にお手伝いするから」

「あっ、分かりました。紬さん」

「次郎はドリンク周りをやらせて平気だと思うのね。太郎は調理師学校に決まったから暫くは厨房で一緒にやって貰うから」

「そうなるでしょうね。次郎君は……国立の商学部でしたっけ?」

「そうなのよ。隣の駅のね。問題はその先なのよ。姪を預かるから彰君にお世話を頼んでもいいかしら?」

「どうして僕ですか?」

「それはね、あの子の場合は、教育係?って言う名の監視係が必要なの」

「うーん、業界でのアルバイトの経験はないって事ですね?」

「実家のお手伝いしているけど、客では何度か来ているわよ。あの子?」

紬さんは何度か来ているとは言うけれども、俺は会っている記憶はない。

「会っていますか?僕?」

「うん。最後は私の姪。孝子よ」

「孝子ちゃん?進学するんだって言っていましたよね?」

「そうよ?でもあの子をよそ様に放出できないというか、何と言うか」

「それは分かりましたけど。孝子ちゃんはどんな学校に行くんですか?」

「パティシエよ。製菓学校。調理師学校よりはまだまともかなとは思うけど。言えることは完全な初心者だからそこのところはよろしくね」

「孝子ちゃんは、紬屋さんのお嬢さんですよね?いいんですか?家業じゃなくても」

「いいんですって。兄達も本格的に家業を継ぐために、京都の呉服屋さんで二人で修行するんですって」

「紬屋さんも大変ですね。孝子ちゃん一人だと」

「そうなの。でも専門学校だからそんなに遅くならないから大丈夫よ。店の方も父達に合わせて8時には返す予定だから」

「そうなんですね。それならあちらの御主人も奥様も安心ですね」

「ええ。あの子のシフトは変則だけども、いる時にはよろしくね」

「分かりました。引き受けますよ」

「彰君だけが頼みなのよ。毅君は、止めちゃったしね」

俺の先輩の毅さんは、法科大学院を卒業して弁護士としての最初の一歩を踏み出したところだ。

今のバイトは俺と同じ大学三年生だ。俺以外は弁護士志望なのでこのまま法科大学院に進むだろう。俺が法学者になりたいので、俺は大学院に進学するつもりだ。このメンバーの中では一番シフト的に店にいる方だろう。

その後は、お客さんが来たので仕事に集中したけれども、ちょっと前に学校帰りにお友達と寄っていたあの女の子が高校を卒業していた事に時間が過ぎた事を感じるのだった。


「「今更ですが、よろしくお願いします」」

双子の勤務初日。二人が今更って言うのは当然。自由登校から本格的に仕事を始めているから。

次郎の方は2月に受験できる検定試験があるからって自由登校の後暫くは手伝う事はなかった。

「こっちこそ。よろしく。次郎君は俺達と一緒の作業でいいんだよね」

「はい。よろしくお願いします」

「こないだ受けていた資格の方は受かったのかな?」

「はい、無事に合格しました。今度は6月に挑戦してみようと思います」

「それはいいけど。今回は何を受けるの?」

「商工会議所の簿記1級です」

「それって、凄く合格倍率低いよね?って事はそれまでは高校で取れているんだ」

「はい。事務系の資格はそれなりに取れていると思いますよ」

「そうそう。これからはこの子に電票の整理とか頼むから。覚えていてね」

「分かりました」

双子達は高校生ではアルバイトが禁止の店ではあるけれどもオーナー夫婦の息子なので完全に裏方で手伝っていた。調理師志望の太郎は、調理補助をメインに、弟の次郎は皿洗いと掃除をメインにしてくれていた。

客がいなくなった時に、俺がサイフォン式のコーヒーの入れ方を教えたり、紅茶の淹れ方も教えた。

その結果、今はカウンター作業を任せる事が出来るまでになった。太郎は店の厨房と同じ服を着て、次郎は白いコットンシャツとジーンズにエプロンをしている。俺達は逆にギャルソンエプロンを付ける事が多い。

お店の人達は大抵が常連さん達で双子が働き始めるとようやくデビューかとか言いながら頭をくしゃくしゃと

撫でていた。

ランチタイムが終わると、次郎はオーナーから頼まれている翌日の発注の手配をメールとファックスを使って作業する。そして電話確認等をしてから、今度はコンデジを取り出して、店舗の写真を撮っていく。

今日は、店の窓から外を移しているようだ。けれども、なんか違うのが写真の目線。ちょっと低くないか?

「次郎?何をしているんだ?」

「うーん、トラちゃんが外を見ていたらどう見えるのかなって思って」

トラちゃんは店の看板猫。去年、店の前に捨てられていた子猫だ。双子が自宅に連れ帰って面倒を見たり、店の開店時間には店に連れて来るようになって次郎が自宅に戻るまではお留守番をしている。

常連さん達にも懐いていて、悪戯もしないからそのまま店の中で過ごすことになっている。

「おもしろいなあ。それブログにしたら楽しいだろうな」

「今はいいですよ。それより。孝子が来るんでしょう?誰が調教するの?」

「お前……調教ってあんまりじゃないか?」

「嫌……あいつの場合は調教だから」

「猛獣?珍獣?奥さんからは面倒見てくれって言われたのは俺だな」

「ふうん、彰さんか。いいんじゃない?武人さんでもいいと思ったけど」

「何だよ。次郎。詳しくお兄さんに教えてくれないかな?」

「嫌です。あいつが来れば分かります」

次郎が俺を見てからニヤリと笑った意味が分からないのだが。あれはどういう意味なんだろう?


「結城孝子です。よろしくお願いします」

「久しぶり。孝子ちゃん。暫くはこっちでお店に慣れてくれよ」

「はい、頑張ります」

「はい。まずは掃除から。孝子掃除」

卒業式の翌日。今日から孝子ちゃんが合流した。次郎が最初に言い渡したのは外の掃除だった。

「ジロちゃん、何をするの?」

「ゴミを拾って、花壇に水をまいて、雑草を抜く。入口の窓を拭く。以上」

「以上って。事務的なんだけども?」

「それでいいだろ?ビジネスパートナー。あっ、今は予定だろ?」

「ジロちゃんは何をするの?」

「俺はトイレ掃除。その後は、カウンター周りの仕事があるの。遊んでいるわけないだろう?」

次郎はそう言うと、さっさと自分の作業を開始する。

今朝の早番は大輔君と俺。大輔君は見た目がおっとりとして朗らかな人だから孝子に強くは言えない。

孝子ちゃんは次郎に言われた通りに外の掃除を始めた。まずは窓から拭いているようだ。

流石は呉服屋の孫娘。何を優先すべきか良く分かっている。俺はカウンターで開店の準備をしている。

開店の時間にはトイレ周りの掃除が終わって、俺は次郎君と入れ違いにカウンターを出た。


「開店です。今日もよろしくお願いします」

紬さんがドアのプレートを外して今日もいつも通りに開店していく。

「おはようございます。いらっしゃいませ」

入口にいた孝子ちゃんは、礼儀正しくお辞儀をしている。そう言った所作の良さは呉服屋さん仕込みだろう。

「孝子ちゃんは、彰君に教えて貰ってね。彰君よろしくね」

紬さんはそう言うと、いつもの様に厨房に帰って行った。

「さあ、お盆にお水を入れて渡してこようか?」

「はい」

俺が促すと孝子ちゃんは、素直に客さんにお水を入ったグラスを音を立てずに置いた。

「ご注文はお決まりですか?」

「モーニングセットで。ブレンドを先に」

「畏まりました。お待ち下さいませ」

丁重に頭を下げてから僕の元に戻って来た。

「モーニングセットでブレンドコーヒーを食前に欲しいそうです」

「最初にしては上出来。次郎。それではコーヒーお願い」

僕は伝票の書き方を教えて、シルバーの置き場も教えてからモーニングセットのサラダをとシルバーを入れたケースを持たせてお客様の元に行くように指示した。

「君、新しいアルバイト?」

「いえ。そう言う訳じゃないんですが……今は勉強中なので」

「ふうん、そう」

「しっ、失礼します」

顔を青くしながら孝子ちゃんは、戻って来た。


「彰さん、あれはなんですか?」

「うーん、口説かれた感想は?」

「そんなの……いりません。こんなのがバレたら、おばあちゃんの所に戻されちゃう」

孝子ちゃんはうろたえている。彼女が本気で困っているようなので紬さんを呼ぶことにした。

「孝子?大丈夫?」

「うん、大丈夫。びっくりしたの」

「そう。あんまり嫌なら、こっちで太郎と一緒に作業してくれてもいいのよ」

「でも。お店に立たないと、どういうものがいいのか分からないもの」

「そうね。無理しないで頑張って。朝の常連さんは孝子の存在知らないものね」

「うん……大丈夫。紬さんありがとう」

少し顔色が戻った彼女は、その後もお客さんが口説いているのを必死になって交わしているのだった。


朝9時。突然、紬屋の旦那さんがやって来た。

「おはよう。次郎。悪いがアメリカン淹れてくれんかの?」

「はい、おじい様。母さん呼びますか?」

「いや、構わん。孝子はやっているか?」

「今のところはね。そのうちボロがでるさ」

「次郎は相変わらずだな。ところで試験はどうじゃった?」

「受かったよ。俺の夢が三人の中で一番時間がかかるから頑張らないと」

「そうかの?試験に受かるまではそうかも知れんが……ずっと勉強ってのは皆同じだと思うがな」

カウンターから出た次郎はアメリカンコーヒーをそっと旦那さんに渡した。

「ありがとな。お前らしい、優しい感じがするコーヒーだな」

「そうかな?気のせいじゃない?」

「いいや、水が変わったか?」

「ん、浄水器を変えたからそれじゃないかな」

「そうか。お前も店思いな子になったな」

「あっ、じいちゃんいらっしゃい」

「太郎は、なんだ?小麦粉と格闘したか?」

「ちょっと粉をふるっていたんだよ。それはそれとして。孝子を見に来たの?」

「まあ……そうじゃな。一応やっておるようだな」

ようやく孝子ちゃんが旦那さんの事に気がついたようだ。

「おじいちゃん、どうしたの?」

「ん、何、次郎がコーヒーを淹れられるようになったって聞いたからな。お前は今日からじゃろ?」

「うん。ごめんね。朝バタバタして家を出ちゃったから。おじいちゃんもお店は?」

「わしがいなくても大丈夫だ。もう少しここにいてもいいじゃろうか?」

「うん。いていいよ」

孝子ちゃんは喜んでいるようだ。今までは学校の休みの時は紬屋さんでお手伝いしていたからお客さんとのやり取りに関しては問題ないと思う。学校に通うようになったら、徐々にケーキを焼いていくと聞いているから、今はその前の段階で喫茶店の勉強だ。

そんな時に、にゃーん、とトラが俺の足元にやってくる。トラは頭を撫でたりすることは誰でも平気なのに、抱っこは限られた人にしか抱っこさせない。バイトでは俺だけだ。俺は屈んでトラを抱き上げた。

「おはよう。忘れてないよ。次郎の所に行くか?」

俺はカウンターで旦那さんと座っている次郎の膝の上にトラと置く。トラは小さくにやんと鳴いてから丸くなって喉を鳴らし始めた。

「おお、トラや。お前はいつも通りじゃの。次郎にべったりで」

そう言いながら、大きな手でゆったりとトラを撫でている。

「じいちゃん。その言い方はトラちゃんに失礼だよ。ね?トラちゃん?」

トラは座りなおしてカウンターに前足を伸ばしたが次郎にダメって軽くはたかれていた。

でも、そのやり取りを楽しんでいそうに見えるのは俺だけなのだろうか?


こうやって、モーニングもランチも忙しいけれどもトラブルなしで順調に進んでいった。

「孝子ちゃん。紅茶入れてみようか?」

「はい、お願いします」

俺はカウンターで孝子ちゃんに紅茶の淹れ方を教えることにした。

店では基本的にポットで淹れたものをちょっと大きめなティーカップに注いで提供している。

「まずはティーポットとティーカップを温めておく。次にティーポットのお湯を捨ててから、茶さじに一杯のお茶をティーポットに入れてからやかんのお湯を入れる。このお湯は熱湯だから気をつけてね」

「はい」

「今入れたお茶は、3分位経ったら、マドラーでかき混ぜてから茶こしでこしながらティーカップに注ぐ。こんなところだけど分かった?」

「はい。ありがとうございます」

「で、これが僕が淹れたお茶。大輔君も飲むだろう?」

「いいんですかあ。ありがとうございます」

今日のシフトが終わって帰ろうとする大輔君を引きとめて俺が淹れたお茶を二人にふるまう。

「いつもながら彰さんのお茶は美味しいですよね」

「本当。凄く美味しいですよ」

「特に秘訣はないよ。おいしくなあれって魔法をかける位?」

「だから、彰さん真顔で言わないでください。クスクス……」

俺が答えた事が大輔君のツボにはまったみたいで暫く笑っていた。

「彰さん……私も練習してもいいですか?」

「いいよ。隣で見ていようか?」

「はい」

俺が教えた手順を忠実に再現している。抽出の時間も時間通りで淹れたお茶を孝子ちゃんは俺と大輔君に渡してくれる。

「はい。どうぞ」

「ありがとう」

「いただきます」

俺達は一口、口に含んだがどうしていいのか分からなくなった。

教えた通りに淹れたはずなのに……。なのに、どうしてこんなに渋くてマズイのだ?

「どうですか?」

「まっ、まずい。店には出せないって」

「えぇ!!教えて貰った通りなのに」

「そう。俺が教えた通りに入れていた。なのになんでこんな……うーん、渋い」

どうしてこうなったか分からないが、とにかく渋いそいつを俺は飲み干した。

「そんなに渋いかな?……うっ、まずい」

あのさ……淹れた本人がマズイはないだろう?でもどうして?

「孝子。お前はそういった事は禁止。今までだって満足に出来たことないだから、諦めろよ」

「タロちゃんもそんな事言わないでよ」

厨房との境で俺達のやり取りを見ていた太郎は頭をぽりぽりと掻いている。

「「太郎?こっちにおいで。お兄さんにこの状況を説明してくれないかな?」」

珍しく、大輔君とシンクロする。青くなった太郎は渋々と孝子の特技の事を話すのだった。

パティシエになるのは、唯一まともに作れるのがお菓子だけだという事。普通に料理をさせると大概はマズイものができあがるということ。

学校が始まったら、孝子は厨房で引きとるからそれまではここに置いて耐えてくれということだった。

「なんていう、最終兵器」

「だから、その為に次郎がカウンターに立てるだろ。あっ、今日は大学に書類を出しに行ったのか」

「そういうこと。孝子ちゃん、君はお客さんからオーダーを聞いて厨房から運ぶだけでいいよ」

「うん。営業妨害するとじいちゃんに言うからな」

「分かったわよ……もうやらないもん。パンケーキ作ってもいい?」

「暇ならいいんじゃないか?変なことするなよ?」

「してないもん。変な言い方しないでよ」

二人は言い合いをしながら厨房に入って行った。

「彰さん……凄い子がやってきましたね」

「そうだな。裕貴屋さんの孫娘……凄いものを持っているな」

俺は淹れなおした紅茶をもう一度大輔に渡す。

「はあ。これが紅茶ですよ。青汁もびっくりは紅茶は始めてで。あれを飲みほした彰さんは勇者になれます」

「おい、俺はダンジョンに行く気はないぞ。勘弁してくれ」

「クスクス。冗談ですよ。変なにおいがしませんか?」

「うん。確かに」

俺達はシフトが終わっているのでこの原因がとこなのか付きとめる為に店の外にでる。

そこから見えるのは店のダクトと繋がっている煙突から上がっている煙……というよりははるかな立派なものだった。

「煙?どうして煙?」

「煙というよりは狼煙……だな」

俺達が店に戻ると、厨房から孝子!!お前はアホか?頭に電極当てたろうか!!という太郎の罵声が聞こえてきた。もうこれ以上は知りたくはない。その原因が……孝子ちゃんだなんて。

俺と大輔君とその日の公判シフトに入っていた武人君と克幸君は顔を見合わせて笑った。

「太郎、こええ……」

「確かに。でもそのから見えたのは煙というより狼煙ですよ。狼煙」

「マジかよ。見てきてもいいっすか?」

「いいよ。見ておいでよ」

俺が言うと二人も外に出て煙突の状況を確認したようだ」

「パンケーキであの煙って……どうやったら出るんだ?」

「さあ?」

「一人前のパティシエ……無理じゃねえ?」

俺達は絶対に試作品とか言われても口にするものかと決意を新たにするのだった。


けれども、試食という名の毒見役はなぜがいつの俺の役目になり、常連さんからは孝子の調教師と呼ばれ、孝子のお茶が裏メニューになり、俺が勇者であると言われるようになったのはこれからもう暫く立ってからの事。


調教師って……言い得て妙だけど当たってるwww

この二人がどうなるかはこれから次第。

今回から完結にします。

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