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第十話 紬さんの秘密のお仕事 11

店を出て山の方に歩いて行く。やがて美容室まめはるが見えてきた。今日は千春さんがお店にいる日なのだろうか?夏祭りの前にはカットしたいなあと思って私は大輔さんに聞く事にした。

「ごめんなさい。千春さんの店に寄ってもいいですか?」

「いいですよ。今日は千春さんのお店……確かに営業しているみたいですね」

「こんにちは。千春さんいますか?」

お店のドアを開けると明るい店内だけども、営業をしている様には見えなかった」

「はーい、あら、孝子ちゃん久しぶり。お茶の会以来かしら?」

「そうですね。夏祭り前にカットして貰いたいんですけど……」

「いいですよ。日付はこっちで決めていいのかしら?」

「それで大丈夫です。お願いしますね」

「孝子ちゃん、着付けは自分でするの?」

「紬屋の孫娘ですから。どうかしたんですか?」

千春さんは私の髪をジッと見ている。うーんと首を捻ってからドアを開いて大輔さんを店内に入れた。

「ごめんね。ちょっとヘアースタイル直してもいい?今日は雑誌に仕事だったのだけど、余った素材が使えそうだからサービスで直してあげるわ」

「いいんですか?」

「すぐに終わるから任せなさい。癖のない髪だから下ろしたいけど、今日は暑いものね」

そう言うと千春さんはサイドを編み込んでからクルクルと纏めて行く。私が刺していたかんざしを挿し直して、カウンターに置いてあった髪飾りを編み込みの間に差し込んでいく。

「これね、生花で作ったの。夕方位までは持つからそのままお仕事が終わるまでつけて?」

「いいの?トップスタイリストの千春さんに頼んだのだから無料って訳には行かないよ」

「丁度孝子ちゃんがきたからこの子達は使えたのだから。孝子ちゃんが来なければゴミ箱だったと思うし」

「そうなのね……でも……」

「孝子ちゃん、千春さんって勇者メダルでランチ食べていませんよ」

「そっか。千春さん、今度ランチを食べに来てね。そうしたら、お店のデザート付けてあげる」

「いいの?それで」

「その位させてよ。凄いお洒落になったんだもの」

私が必死に説得する姿を見て、千春さんは今回だけねって言ってくれた。

「予約の件はメール下さいね」

「はいはい、配達行ってらっしゃい」

私達はまめはるを後にした。

まめはるの傍には根小山ビルがあって、地下の階段を下りると黒猫に着く。こないだの配達して営業時間にいらっしゃいって言われていた事を思い出した。

「黒猫に用事がありますか?」

「あるというか、暇になってからでいいから遊びにいらっしゃいって言われたの。だからすぐにどういうという用事ではないの。さあ、最初の配達を済ませましょう」

私達は最初の配達を終わらせる事にした。

配達の途中で、学校帰りの高校生達とすれ違う。女の子達は大輔さんにすれ違いながらも熱い視線を投げかけている。

「大輔さんも……女ホイホイ?」

「孝子ちゃん、言葉が悪いよ。寄ってくる女の子に僕が喜ぶと思う?」

「違うよね。大輔さんも女の子の好みがはっきりしていそう」

「そうだね。僕は自立したしっかりした女の子がいいね」

「自立?」

「うん。自分の意見がちゃんと言える子がいい。なんでもいいって言う子はあまり好きじゃない」

確かに大輔さんが私に問いかける時は、曖昧な答えをすると言い顔をしてくれない。

「半分位の女の子がふるいにかけられそうね」

「ははは、否定はしませんよ。ここって澤山さんの雑貨屋さんですよね」

「うん。紬さんがランチプレートを探していて、お店を覗いてみたいって言っていたの」

「そうなんだ。それじゃあ……配達が終わったら帰りに寄りましょうか?」

「ありがとう。大輔君」

私達はのんびりと次の目的地に向かって歩いて行った。

神神飯店の前を通りかかると、ちょうど天衣ちゃんが通りの履き掃除をしている。

「あれ?たっこちゃん?配達?」

「うん。今日はこの先に届けたら終わりなの。テンテンちゃんは掃除?」

「そうなんだ。んで、大輔さんがお伴なんだ?」

「そうなんですよ。途中で足止めされちゃうので監視役です」

「それよりも、女主人と従者って感じ?」

テンテンちゃんは、やっぱり着物に着慣れているのって羨ましいって呟く。

「私の場合は、半分お手伝いみたいなものだから」

「そっか。たっこちゃんの家は紬屋だったものね」

「そういうこと。今夜も蒸し暑いみたいだからビールが売れそうね」

「そう思う?」

「うん」

「だったら、パーパに在庫を確認して貰おうっと。またね、たっこちゃん」

「またね」

私達のやりとりを大輔さんはニコニコと笑って見ている。

「ほらっ、商店街の……浴衣コンテストに出ないの?」

「もう、私は商店街で働いているから、出ても優勝できないわよ」

「ふうん、本音はそれだけじゃないでしょう?」

「アレに出ると目立つから。ここで暮らしていたら無理なのは分かっているけど、でもね、結城孝子として暮らしてみたいなって思う事もあるんだよ」

「成程ね。土地の子は土地の子の悩みがあるんだね。この話は僕だけが聞いた事にして欲しい?それとも彰さんに話してもいい?」

「……どっちでもいい」

彰さんとはあれからあまり話をしていない。今の店に来るお客さんの半分は彰さん目当てで来ている。お客さんだから無下に出来ないのをいい事に、お客さんのマナーが悪くて一部のお客さんからどうにかならないのかと言われているのだ。

「彰先輩だけが悪い訳じゃないんだけどね。あの人無駄に優しいから」

大輔さんと彰さんは高校の先輩と後輩の関係だという。大輔さんなら彰さんの大学は知っているはず。

「彰さんの大学ってどこなの?」

「それは……直接彰先輩に聞いてあげて。僕が孝子ちゃんに教えるのはどうかと思うからね」

またはぐらかされてしまった。どうして彰さんは私に自分が通っている大学を教えてくれないんだろう。

今まで知らなくても平気だった事がどうしてか気になってしょうがなかった。


最後の配達が終わって、私達は再び璃青さんの店の前に立った。

「孝子ちゃん、寄ってみる?」

「そうだね。最終的には紬さんが決める事だけどね」

私達は璃青さんの店、Blue Mallowのドアを開けた。

「こんにちは」

「あら、孝子ちゃんと大輔さん。配達の帰り?」

「はい、紬さんが白い大きめなお皿を探しているんだけど……あるかしら?」

「トムトムさんで使えそうなものは……今は店舗にはないけれども、カタログがあるから見つけたらトムトムに届けたらいいかしら?」

「紬さんには私から伝えておきますね」

「配達は大変?」

「そんな事は無いよ。こうやって着ないと私のほうも下手になっちゃうからね」

「そうなんだ。この髪は?」

「千春さんの店に電気が付いていたから空いているのかと思ったら、スタイリストのお仕事から帰ってきたところで余った髪飾りを付けてくれたの」

「凄く似合っているよ。ねえ、写真撮ったの?」

「まだ、撮っていないけど。紬屋で撮影して貰おうと思うんだ」

璃青さんが千春さんのスタイリングを褒めてくれる。その間大輔さんは天然石をジッと見ていた。

「気になるものがあれば作りますよ」

「そう聞いていたので、見ていました。ネクタイピンを新しく新調したいのですけど……」

「どんなものがいいんですか?」

「ガーネットか、コーラルみたいな目に飛び込む色が欲しいなあと思って」

「オーダーメイドもしますよ、拘りがありそうですね?」

「できれば、飽きないデザインがいいかな。ほとんどアルバイトで来ていますから、今度ゆっくりとお邪魔します」

「大輔さん、学校の試験は?」

「僕はゼミと専門科目の単位が少しなのでそんなに根詰める事は無いんです」

「今はそう言う事にしておきましょう。大輔さんはしれっと嘘をつきますから」

「そうなのですか。これは要注意人物ですね」

「そうかもしれないです」

「僕が嘘を付くのは基本的にエイプリルフールですよ。すぐに分かる嘘に引っかかる孝子ちゃんが悪いんです」

私はついこないだまで騙されていた嘘を思い出してむうっとする。

「ちなみに今年は何に引っかかったの?」

「八日市場には妖怪市場があるんだよ。良く聞けば分かる事なのにね」

璃青さんは、ちょっと考えたみたいだけど、これに引っかかるとは……とクスクスと笑いだした。

「ほらっ、孝子ちゃんだけだって。信じ込んだの」

「そんなことないです」

「孝子ちゃん……うっ……あはは……」

「本当に愛すべきおバカさんだよね……クスクス……」

暫く二人に笑われた私は完全にへそを曲げてしまったのだ。


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