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第十話 紬さんの秘密のお仕事 10

今回は、居酒屋とうてつとBar黒猫に立ち寄っています。

お二人には許可を頂いています。

7月に入ると商店街の馴染みの皆さんの所に配達に行くようになっていく。

最初に配達に行ったのは、とうてつさん。籐子さんの小袖と徹也さん達の浴衣とかだ。かなりの量になっているので、紙袋も二つに分けて持っている。

ランチが終わって、仕込みの時間帯にお店にお邪魔した。小上がりで出来上がりを見て貰うと、籐子さん達皆がとても喜んでくれる。そういう顔を見るとこっちも嬉しくなる。

「孝子ちゃん、辛い時は辛いっていうのよ」

「籐子さん、ちゃんと言っていますよ。元気そのものです」

「そう、御苦労さま」

籐子さん……もしかして気が付いているのかな?って思ったけど、いつもの様にごましかしている。

一度店に戻ってから黒猫に向かう事にした。そこからは大輔君が一緒だ。

「ごめんね、忙しいんじゃない?」

「平気ですよ。パソコンとフロッピーディスクさえあればレポートはどこでもできますから」

便利ですよねって言って私の方からかけていた紙袋を取りあげてしまう。

「大輔君」

「綺麗な着物を着ているんだから、荷物持ちは俺の仕事。さあ行きましょう」

黒猫の方では、ユキ君と小野君が準備をしているところだった。

私の和服姿が珍しいみたいで、澄ママも杜さんもいつも以上に可愛いと褒めてくれた。

褒められているのが着物であっても嬉しいものは素直に嬉しい。

「女の子もいいわね。着飾らせてみたいわ」

「でも、支度に時間かかりますからね……私だって普段は着ませんよ」

「あらっ、着る時はあるの?」

「今は定期的じゃないですけど、華道のお稽古の時位ですかね」

一応、華道は高校を出るまで続けた。今は新作のアイデアを得るために個人レッスンって形でお願いしている。

「孝子ちゃんって、和風のお稽古はそれなりに出来るわよね。着付けとお花とお習字と……」

「書道は次郎が一番ですよ。私は筆より硬筆ですね」

「綺麗な字を書けるのだから素敵よ。それだけでも十分な財産よ」

「実感はありませんね、今の生活だと」

「そういう事は、もっと大人になると分かるものだから。」

暫く私達の普段は人に言わない特技の話になった。書道と珠算は三人とも有段者だ。この能力に秀でているのがじろちゃんだけだったのだ。たろちゃんは華道のセンスがいい。今でも週に一度はお稽古を続けている。一番中途半端なのは私なのかもしれない。

黒猫で少し雑談をしてから、私達は、紬屋に戻ってからトムトムに再び戻った。


本当なら、いつもの様にお針子のお仕事をしないといけないのだけど、今日は紬さんもしっているので、私も新しいスイーツを作ったりしてずっと厨房に籠っている。最近は全部勝手口から入っている。

何よりも、大ちゃんがお伴に着いてくるようになってしまったのもちゃんとした訳がある。

お店の方で、ちょっとしつこいお客様がいる。あまりにもしつこくて私が困っているのを見かねた大ちゃんが警察署に緊急性はないけど付きまとわれていると電話をしてくれて、結果的に交番のお巡りさんを呼んでしまったのだ。更にお巡りさんが来る前に毅さんに連絡を入れてしまったのだ。

勉さんもこれ以上絡んでくるようなら出入り禁止にしてもいいけど……どうする?って聞いてきた。

ここは厨房の奥の休憩エリアなのでお客さんは入って来ない。

「それを逆恨みされるのも困っちゃうなあ……」

「だったらさ、念書作っちゃおうよ」

あっけらかんと言うのは、毅さんの従弟な大輔君。通称大ちゃんだ。

「毅さんに頼むの?毅さんの専門って民事だったっけ?」

「出来なくないよ。聞いてみようか?」

スマホで毅さんの所に電話をしてくれる。暫くして通話が終わった。

「毅君が言うには、とりあえず状況説明しろって。店が閉まってからこっちに来るって言っていますけど」

「いいよ。毅君が来たらクローズにしよう。大輔君は毅君と一緒に帰るんだろう?」

「車で来るって言っているので、一緒に帰ります」

「特別に夕飯用意しようか。毅君に食べたいものを用意して上げるよってメールしておいて」

「はーい」

「じゃあ、私。紬屋の配達があるから出かけてくるね」

「それさ……念のために、仕事上がりのバイトと途中まででもいいから着いて来て貰ったら?」

「大丈夫。今日は、とうてつさんと黒猫さんだから大丈夫」

「じゃあ、僕は黒猫で待っていましょうか?」

「大ちゃん、バイトのシフトは?」

「僕……今日はこれで終わりだから、平気だよ」

にっこりとほほ笑んで大輔君はご飯食べちゃって着替えるから待っていてねって急いで食べ始めた。

そうして、配達のお仕事を終えて着替え終わってからトムトムに戻る。丁度遅番の子達がやってくるタイミングだったようだ。大ちゃんのお陰で怖い思いをしないで配達を済ます事が出来たは良かったと思うのだが、お客さんの時に感じた様な視線よりも更に鋭い視線を感じていたのだ。


「あれ?大ちゃん今日は朝だろ?」

「うん。毅さんが夜に来るからここで待ってる事にしたんだ」

「そっか。忙しくなったらこき使ってやるからな」

「どうしてそうなるんですか?」

厨房の奥で、作業をしている私にも気が付いたみたいだ。

「孝子ちゃんはどうしているの?」

「気分転換に新製品作ってみようかなって」

「ふうん」

私の言葉を半分本音と取っているみたいだ。これだから法学部の学生さんって侮れないよね。

「今日の賄いは……いつもよりちょっとだけリッチになるからな」

勉さんがバイト達にニンジンをチラ見せしている。

「今日のご飯って……なんですか?」

「その時まで教えな~い。お前達皆食べて帰るだろう?頑張って仕事しろな。そうそう。庭の草むしり誰か頼むな」

皆が文句を言い出したら勉さんがそれなら飯いらないな……なんてしまって更に厨房は五月蠅くなってしまって、店から智之さんが覗きに来たりしてちょっと大変になってしまったのだ。

夜になって毅さんが来てくれた。私は今までの事を日記に書いていたからそれを見せる事にした。

「成程。これだけあれば十分だけど。後を付けているのが同一人物なのか別人なのかで変わってくるな」

「そうなの。なるべく外出は控えているんだけども……いつまでもそうは行かないでしょう?」

私が本音を告げると、勉さん達が頷いた。

「つけまわしているのは、俺の知り合いの興信所を入れて調べてもいいですか?」

「ここまで姪がされているのなら、やらない訳にはいかないな」

「それと、誰か……男と一緒にいて欲しいんだが。誰が最適だろう?」

「双子」

「あいつ等は孝子と顔が似ているからダメだ。第三者の男がいい。相手が男ならばその方が好都合だ」

「困りましたね。そうなると……」

「彰さんでいいじゃん。一番最適だよ」

「そうかもな。で、彰は今どこ?」

「大学の先生のお伴でお泊まりしていると思うよ」

「ふうん、なら俺が直接連絡する。大輔も支えてやれよ」

「うん。分かった」

とりあえず、暫くの所は皆の力を借りる事にしたのだった。


私のお客さんに付きまとわれていた件は、毅さんに立ち会って貰って今後私が不快に感じる事があったら出入り禁止ということで穏便(っていうのかな)に解決する事ができた。

展示会の後からバイト達をお目当てのお客さんもまた増えているので、いつまでも厨房に籠る訳にもいかないからカウンターでカップを洗ったり、紬さんの代わりにレジ作業をしたりしている。

店内で作業をしていると、アルバイトの募集は無いのか?と問い合わせが来るけれども、店では女子の採用は原則的にしていないのでお断りをしていると、女の子の目が一気に釣り上がるのよね。

「あなたはアルバイトじゃないの?」

「いいえ、私はアルバイトじゃなくて、スタッフです。オーナーから直接お話を聞きますか?」

そう言って、勉さんを呼び出して対処して貰う事にしている。

勉さんの方も、商店街が安心な街だとは言っても、クローズ後に女の子を返すのはちょっと無防備で、経営者としては無責任だからアルバイトには女の子は採用しないと説明をする。それでも彼女達は私の存在が矛盾していると行ってくる。そうだよね。店内での作業はアルバイトとほとんど変わらないからね。

「この子は、君達が食べているデザートを作るパティシェ。いなくてはならない存在だと思わない?採用するのなら、せめて製菓学校に在学中か、家政学部食物学科じゃないと採用しないよ」

「それじゃあ、事務のお仕事は?」

「それも十分足りているから。それに僕の店は学業両立だから成績表の提示をして貰うよ。成績の低下をアルバイトのせいにされたら困るからね。この子達も成績表を見せてくれているから」

えっ、勉叔父さん……そんな事はしていない……。叔父さんを見るとニヤリと嫌らしく笑っていた。

紬さん、ここにオオカミ少年……違った、オオカミおじさんがいますよ!!

「うん。僕らも学業が最優先だから、レポートで休むこともあるし」

「試験の前は皆も休んじゃうから、店のメニューもかなり絞っちゃうしね」

「女の子の服そうだけど、本当は男の娘なの?」

皆も言いたい放題いっているよ。大ちゃん、男の娘?は言い過ぎだって。

「すみません、でも贔屓はずるいです」

「ずるくないよ。この子は僕の姪。こういう店で同族経営は基本だろ?」

勉叔父さん、開き直っちゃった。ここに双子がいたらここまで言われなかったんだろうな。

今日に限って、双子が揃って店を開けているのだ。時計を見ると、そろそろお手伝いの時間だ。

「孝子ちゃん。そろそろ時間だろ」

「それじゃあ、オーナーそろそろ行ってきますね」

「ああ、いいよ。今日のデザートは?」

「ケースに入っているモノなら全部いいですよ」

「今日は暑いから急がなくてもいいから。今日の当番は誰だい?」

「あっ、僕ですね」

「そっか。大輔君か。それならよろしく頼むよ。暫くは配達の量が多いみたいだからね」

「ちゃんとうちの店アイドルですからね。エスコートしますよ」

「大輔さん、変な事言わないでください」

「その通りだろ。ここの従業員だし」

「まあ、そうですけどね。行ってきます」

私は大輔さんと一緒に今日は紬屋に向かう事になっている。

っていうのも、まだ誰かに見られている感じがあってお客さんの所から帰れなくなってしまったのだ。

その時は、偶々お巡りさんが通りかかってくれたので一緒に戻って来たのだけど、それ以来早番のバイト君の誰かが一緒に納品のお手伝いをしてくれるのだ。

「孝子ちゃんは、今日は何を着る予定?」

「湿度が高いので、夏物でも着ようかと思っています。少しだけ時間がかかりますけどいいですか?」

「構わないよ。僕は大旦那様とお茶をするのが楽しみだから」

彰さんの次位に長い大輔さんは、たまにおじいちゃんの所に顔を出しているらしい。

「そうなんですね。じゃあ、ゆっくりとお茶を飲んで下さいね」

「荷物持ちはするから心配しないで」

やがて店と自宅の境目に着く。勝手知ったる大輔さんはすたすたと店舗の中に入って行った。私は自宅の方の扉を開けて自分の部屋に向かう。

着物の管理は、おばあちゃんに任せている。今日のお昼の天気を参考に天気に合わせた着物を用意してくれる。着物の日もあれば、浴衣の日もある。朝聞いた時は着ものだったはずが、用意されていたのは紺色に白い百合が目立つ浴衣だった。ゆるくアップにしていた髪をきっちりとひっ詰めてお団子にして珊瑚のかんざしを挿した。

「大輔さんお待たせしました」

「うん、夏っぽくていいね。それではお届けに行ってきます」

荷物持ちになっている大輔さんに連れられて私は今日の配達に向かう。


警察の記載ですが、今から20年程前です。今ほどストーカーという言葉が認知はされていないと思うので、付きまといとして表現しています。

それと#9110も無かったかもしれないので、大ちゃんが警察署に電話をして緊急性は無いけれども、店の者が客に付きまとわれて困っているという表現にしました。

もう少し調べれば良かったのかもしれませんが、話の本筋はそちらではないのでそうなんだ程度に留めてもらえると助かります。


商店街のアイドルの下りも変更しました。

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