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第九話 商品開発は楽しいの♪うきうきな孝子とその周りの人々 2

無事にイベントが企画されたようですが……怪しげな空気が……。

「孝子ちゃん、イカ様クッキーを量産してくれる?」

「いいですけど、何があるんですか?」

「キーボ君達と商店街のイカ様フェア―のご案内を兼ねてクッキーを配ろうと思って」

「いいですよ。イベントは来週末位ですか?」

「そうよ。その日には安住君が帰ってくるんだって、イカ様スイーツの実践開発をしてもいいわよ」

イカなしスイーツ開発から4日後の事。母さんがいきなりイカクッキーの量産を指示してきた。

「とりあえず、外で配るからシリカゲルを入れて真空パックにすればいいでしょう。その位の予算は次郎に任せておけばやってくれるわよね……次郎?」

「はいはい、要はこれから焼き菓子をテイクアウト販売したいってことね。言われた機材等は俺の方で最短で納入されるように手配するから。その翌日からクッキーの準備を始めよう」

「それとね、孝子の行っていたイカ様の抜き型は商店街の金物屋さんが大きさを変えて作ってくれるって」

「それって大変なんじゃないの?」

「大丈夫。他にも欲しいって商店街のお店もあったし、太郎は大きめの型でイカ様パンを作るなんていっているわよ」

「えっ?中身は?」

「大丈夫。中はチョコレートクリームよ」

紬さんから、キーボ君のイベントスケジュールの用紙を貰う。今回は商店街がバックアップするイベントということらしい。

「で、母さんの仕事は?」

俺は母さんがノリノリなので不安になって聞いてみた。

「私は今回のキーボ君のお世話係。それでイカ様クッキーを配って歩くのよ」

ああ、そうですか。結果的には広報活動になるか。キーボ君の付き添いは誰になるんだ?

「キーボ君の付き添いは?」

「当日は、大輔君がお手伝いしてくれるって。昼間の商店街を知らないみたいだし、折角だから重光先生の事務所にも行ってみようと思うのよ」

「アポなしで行っていいのかよ?」

「先生には用がないの。事務所に行くのが重要なのよ」

あ……そうですか。もう勝手にやって下さい。俺は何も言いません。


そしてそんな日のトラちゃんブログ。

孝子がイカ様スイーツを開発中。一部商品は××日のキーボ君の商店街イベントで紬ママが無料頒布をするんだって。今回のスイーツは狼煙も上がっていない、皆に優しいお味になっているにゃん。安心するにゃん。

でも……まだ完成していない、お店で食べれるイカ様スイーツが最終的にどうにゃるのか……あたいでも分からないにゃん。今回は夏向けのひんやりデザートだから狼煙はあがらないと思うにゃん。

出来上がったら、ブログでお知らせするから、待ってて欲しいにゃん。


このブログの効果があったのか、イベント当日、平均気温よりも高いと言うのに、商店街には人が溢れていた。

黒猫の前で、キーボ君と大輔くんと合流した母さんはご機嫌でイベントのお仕事を始めているようだ。

その頃、店では大変な事が起ころうとしていたなんて、少なくても三人はまだ知らない。

何があったかというと……


「孝子ちゃん、今日は安住君が来るから新作スイーツを用意しておいてね?」

「はあーい」

「じゃあ、行ってきます。皆よろしくね。勉さん、お願いね」

店の中にも関わらず父さん達は軽くキスをしてから名残惜しそうに離れて行った。

そろそろ、そう言う事をすることは控えていただけないだろうか。思わず俺は父さんを睨んだ。

「次郎。そんな顔をする前に彼女でも作れよ。俺は孝子の側でランチの仕込みしているからな」

「ああ。分かったよ」

「勉さん。お邪魔しますね」

「ああ、いいよ。今日は狼煙上げるのかい?」

父さんは容赦なく孝子に狼煙をあげるのか?なんて聞いてきた。

「今日はオーブン使いません。それに既に半分以上仕込んでいますもの」

そう言うと孝子は最後のひと手間を加えたりして試作品を完成していた。

「皆、出来たよ」

「イカ様は何を見たてたんだ?」

「ん、ナタデココを細かく切ったの。だからちょっとだけ気をつけてね」

そう言ってカウンターに試作品を並べた。

「それでは、頂きます。……これ、旨いぜ」

「ああ、孝子にしては……よく頑張ったな。それじゃあ俺、休憩だから本屋に行ってくる」

「彰さん行ってらっしゃい」

「ところで、たっこ。安住さん用の試作品……用意してあるのか?」

「ああっ、大変。ナタデココ全部使っちゃった」

俺の一言で孝子が一気に青くなった。どうやら安住君の存在を忘れていたようだ。

「それは困ったな……店にあるのでどうにかするか?」

「それとも何か買いに行くか?」

「大丈夫。イカ様だけだから。後はすぐに作れるから大丈夫。勉さん食材少し分けてね」

「ああ、構わないけど……どうするの?」

「うーん、試作品を作り直すのよ」

そう言うと、孝子は再び厨房に戻って行った。

「次郎。安住君の試作品ってどうなるんだ?」

「さあ?食べるのは俺たちじゃないからのんびりと構えていようぜ」


俺達はいつもの午後の作業を始める事にした。毎日の収支管理はしているが、集計を行うのは週に一度程度。そろそろやった方がいい時期だ。

今週はイカ様イベントに合わせてクッキーを焼いた分だけ仕入れの額が通常よりは多く計上されている。

けれども、今回のイベントでお客さんが来てくれたらその分の回収は見込める予定だ。今回のイベントで購入した、機材のお陰で焼き菓子等を販売できるようになった。通常のクッキーは三枚で100円にしている。これだけでも結構コンスタントに売れている。これにイカ様クッキーが入ればもっと売れるだろう。ちなみに大きなイカ様は1枚100円。程良い大きさは2枚で100円。一口サイズは10枚で150円だ。冬になったらチョコレート製品も売ってもいいよね……なんて孝子は言っている。

商人の血を受け継いでいるから、そういった感覚はずば抜けているんだよな。

なんだかんだ言っても、たっこがケーキを作り始めてからお客の単価は確実に上がっている。

今になると、たまに失敗するけど、たっこのパティシェはなるべきにしてなったのかもしれない。

俺は、パソコンで帳簿を作成していると、厨房から慌てて父さんが出てきた。


「次郎。彰君はどうした?」

「彰さんは休憩で本屋に行っていますよ?どうかしたんですか?オーナー」

父さんが珍しく狼狽している、ほんの僅かな時間で一体何が起こったのだろう?

「嫌、彰君ならたっこを止められると思ったから……ああっ、どうしよう。あの試作品は君達に食べさせられないよ」

たっこ……お約束のとんでもスイーツを開発中なのか。何をチョイスしたのか何となく分かった気がする。

「父さん。そのスイーツは俺達は食べないから大丈夫だよ。俺達はさっき食べちゃったんだ」

「なっ。では、今……たっこが作っているのは?」

「アレは安住君用のヤツ」

「俺達うっかり全部食べちゃって……孝子ちゃん慌てて作っているんです」

「成程、恭一か。それならいいか。あいつはそんなに簡単にくたばらん。でも胃薬の用意をしておけ……ああ、鼻歌まで出てきたぞ。これ本気で危険だからな。久しぶりの本気のデスクッキングだ。えっと紬ちゃんがキーボ君達を休憩で連れてくるから、絶対に恭一だけに食べさせるんだぞ?いいな、分かったか?」

「了解。彰さんは呼びもどさなくていいんだね?」

「ああ、状況が分かったから問題ないだろう。それにしても……まさかアレを使うだなんて……」

父さんが頭を抱えて厨房に戻って行った。たっこ……お前は何を使ったんだ?

想像するのも恐ろしいのでそれ以上の事を考えることは止めた。


やがて、キーボ君、大輔君、安住君を連れて母さんは帰って来た。

久しぶりの安住君に俺達もいつもの様に歓迎のハイタッチをする。いつからかこれが習慣になっている。

そして店の奥にある、予約席の札を外した。一際大きな椅子はキーボ君専用。透君はいつものように椅子に腰かけてから、メニューも見ないでコップを持つジェスチャーをする。僕は意味が分かったので預かっている水筒に特性スポーツドリンクを氷を入れてキーボ君のファスナーを開けて入れてあげる。

「今日は暑いね、暫くしたら……これでアイスコーヒーね」

そう言うと、ドリンクチケットとキーボ君が持参している水筒を渡してくれる。キーボ君の中には水筒を二本分おけるスペースとかポケットがあって、休憩で飲むドリンク様にドリンクチケットが入っている。

俺がアイスコーヒーを出している間に、青い顔をした太郎が厨房から出てきた。


「ん?どうした?」

「これを一緒に透君に渡して。蒸しパンだけども冷やしておいたんだ」

ひんやりとした蒸しパンは今の透君にはいい差し入れかもしれない。

「で、青い顔の原因は」

「そりゃ、たっこのスイーツだよ。安住君だからって本物志向で行ってみようって言いやがって」

たっこがあの試作品に何を混入したのはようやく分かった。イカ様だけに……イカなんだな。

「それって、生じゃねえよな?」

「少なくてもムースは生じゃねえ。ドリンクの保証はない」

「大丈夫だって、安住君だからさ」

俺は気休めにもならない事を太郎に言ってから、大輔君と透君のドリンクを持って奥のテーブルに向かう。

俺がそこで見たのは、必死に抵抗している透君と大輔君の姿だった。

「ありがとう。次郎。私が預かるわ」

「はい、大輔君とキーボ君ね。恭一君は、人のものを欲しがらないで飲んでみたら?」

「つっ、紬さん、これ……まともなんですか?」

「まともかどうかはともかく、今回は狼煙出していないのよ?ねえ?」

母さんはそう言ってバイト達の顔を見ている。でもその顔は全く笑っていない。何が何でも安住君に食べさせるんだって勢いだけは分かった。

「今回は狼煙上がってないよ。安住君。それにひんやりデザートだからそんなに大外れする訳がないだろう?」

遅れてやってきた彰さんが孝子を援護するように言っているけれども、試作品として置かれているそれが自分達が食べたものと相当形状が変わっている事に気がついた。一瞬孝子を睨んだけど孝子はテヘペロで逃げようと企んでいるらしい。

「そう言われてもな。一号。お前甘いものが好きだろう?」

「えっ、でも俺、安住さんの様に訓練をうけてないから……丁重にお断りします」

透君は最後は凄く小声だったけど拒否している。今までの孝子スイーツを知っていればそれは当然な訳で……。

大輔君はそんな二人を不安そうに見つめている。そんな中で母さんが更に不安を煽る事を言いだした。

「何を言っているの!ユキ君が万が一の事があったら死んじゃったら大変でしょ。孝子スイーツは安住君が試食するように商店街で決まっているの。だから人に譲ってはダメよ」

母さん、大輔さんがフリーズしているよ。太郎が作ってくれたおやつに対しても警戒しているし……。

仕方がないから俺は二人に対して助け船を出した。

「この蒸しパンは兄貴が作った奴だし、冷やして食べれるようにしたんだって。食べてやってよ」

そう言うと、ジッパーを開けて透君にコーヒーと蒸しパンを渡す。蒸しパンを一口食べた透君は

「太郎君の作るパンはホッとするよね。美味しいよ。頂きます」

そう言うと、透君はジッパーを閉めてってジェスチャーをしたので俺はジッパーを上げた。

大輔君もゆっくりとアイスコーヒーを口にする。安住君も覚悟を決めたらしくイカ様ムース(名称仮)を大きくフォークで切って口の中にいれた。ちょっとだけ見えたそれはどう見ても生の……イカだよな?ナタデココの食感を再現したかったんだろうけど……方向が間違えている。

「ヴッ、ゴワァェイ……」

謎の言葉を発してから、手をバタバタと激しく動かしてから隣にあるイカ様ドリンク(名称仮)を一気に飲んでから、ばたりとテーブルに突っ伏してしまった。

安住くーん、生きてる?ついに孝子スイーツで死者か……。悪気はないから殺人じゃないよな。そこは京子さんに任せるか。

「安住さん、大丈夫?」

不安そうに声をかけた透君の声に反応してゆっくりと起き上がった安住君は顔面蒼白なまま孝子の方を見ている。

「ダガゴ~ナンダヨゴレ~」

手を伸ばして大輔君のコーヒーを引き寄せて一気に飲み始めた。もう一個も中身がイカ様ならその行動はそうなるだろうなって思いながら様子を見守る。作った張本人はきょとんとしたままだ。

「うん、最初に皆で食べたのよね、本来安住君に残しておかないといけないのに忘れちゃってね。あはは……」

俺達が食べてしまった事を知らされた安住君は更にがっくりとしている。逆に俺達はどうしていいのやら対応に困ってしまう。

「だからね、イカを使ってスイーツを作ってみたんだけど、ダメだった?チョコイカムースにイカチョコドリンクはタピオカっぽくイカを使ってみたの!」

「ダメってレベルじゃねえよ。イカの生臭さだけが思い切りフィーチャーされてて、チョコレートのコクと甘さが更にそれを増幅させてんだよ~。水たまりの水の方が爽やかで旨かったよ。死ぬかと思った」

その一言を言い切った安住君は、ぐったりと再び机に突っ伏した。

「あーらら、孝子ちゃん、今回の試作品の商品化はなしね。で、ナタデココは食べれたのね?彰君はそれは食べたの?」

「はい、ちゃんと小さく刻まれていたので、太めのストローで飲める状態ですよ」

彰さんは淡々と俺達が食べたほうの味の評価をしていく。

「そう、ならナタデココ入りは採用するから、二度と海産物を使ったケーキの開発は禁止よ」

「分かった。紬さん。でもナタデココ入りなら明日、仕入れがあれば作る事ができるわよ」

「そこは日程を改めてきめましょう」

俺達は再びいつもの様に作業を始める。孝子は彰さんに少しだけお説教をされている。

「安住君でも生のイカはダメだよ」

「そうなんだ。もっと丈夫だと思ったのにな」

「安住君だって人間だから」

「そうなんだ。分かったよ」

この二人の今日の会話……完全にかみ合っていないよな。それでいいと思っているのはどうなんだろう?


透君はしばらくしてから、ご馳走様のポーズをしたので、ジッパーを開けてからアイスコーヒーのボトルを回収する。

「ご馳走様。太郎君に蒸しパン美味しかったって言っておいて」

「分かったよ。今日はこれでおしまい?」

「うん、店の開店準備があるからね」

「そうか。また遊びに行くね。大輔さんもお疲れ様でした」

「ううん、この店の人達って凄いタフなんだね?」

「そうかな?そんな事はないと思うよ」

「そんなことないと思うけどね……ご馳走様でした」

そう言うと透君達は安住君を置いたまま黒猫へ帰って行った。

その帰り道に二人で話していた内容がかなり事実と異なっていたなんて俺達は誰一人として知らなかった。

その事実を知るのは、秋の虫の声が聞こえるようになった頃の事。


イカ様ムースは軽く火を通しただけです。限りなく生に近いと思って貰えたらいいです。ドリンクは完全に生です。

そんな私、生のイカは食べれません……動きそうだからwww

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