家族(1)※
淡い色の花でまとめた小さな花束を持って、少年――松尾東吾は家へと急いでいた。
今日は月に一度、彼の姉が帰ってくる日だ。高校進学とともに家を出て独り暮らしを初めた姉――莉奈は東吾より二歳上で、両親の再婚により姉弟になった。それは東吾が十歳の時で、初めて顔を会わせた日、莉奈は「よろしくね、東吾君」と言ってふんわりと笑った。
お互い一人っ子だったから、距離の取り方がなかなか分からなかったが、それでも上手くやってきたと東吾は思っている。
ただ、母の莉奈へ向ける目が、どうしても気になっていた。
それに気がついたのは、東吾が小学六年生……莉奈が中学二年生の時だ。
父がいる時はそんな風ではないのだが、父がいないと母は莉奈のことを冷めた目で見ることが多く、それは時に怨んでいるようにも見えた。
どうしてなのか?
東吾にそれが分かるはずもなく、かといって本人に問うこともできず、胸にひっかかったまま年月が過ぎ、莉奈は高校進学が決まると家を出ると父に言ったのだ。最初は反対していた父だったが、月に一度は帰ってくるという条件で承諾したのにはがっかりした。
「ただいま帰りました」
リビングのドアを勢いよく開けた少年を、母が咎めるような目で見る。
「東吾、乱暴ですよ」
「ごめんなさい、母さん。姉さんは部屋ですか?」
「莉奈さんは帰ってきません」
「え?」
「倉科の方に行く用ができたそうよ」
母は息子が持っている花束を見て、僅かに顔を顰めた。
「東吾、それは?」
「あ、はい。食卓にでも飾ろうと思って……」
「そう」
本当は莉奈に渡すつもりだったそれを、東吾は母に渡した。
「可愛いわね。松江さんに活けてもらいましょう」
にっこりと笑った母に、息子はホッと安堵し、自分の部屋に行くといってリビングを出て行った。遠ざかる息子の足音を聞きながら、芳乃は唇をぎりっと噛み締める。
「どこまで私を不快にさせれば気がすむのかしら、あの娘はっ!」
テーブルに花束を投げつけ、芳乃は忌々しげに舌打ちをすると、松江がいるであろうキッチン横の作業部屋へと向かった。




