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「とりゃっ!」


「ノリノリの再登場、さすが自称アイドルのシルちゃん。やることが格好ぃ!」


「……そういや、最初に俺が寝てるとこをたたき起こした声の奴が他にいたな」

 先ほどの声の持ち主は、突如舞台の上空から姿を見せ、勢いよく舞台の上に着地した。アリーゼのやつは、この少女の登場に妙にテンションが上がっているが、親しい間柄なのだろうか。


「その通り! あの時あんたを優しく起こしてあげた美声の持ち主が私、シルフィよ」


「いや優しくって、お前な、そんなかわいげあったか?」

 あの時、俺を起こした声に優しさというものは感じなかった気がするのは、俺の気のせいだろうか。


「シルフィったら、いつにも増して絶好調ね!」


「ふふっ、そりゃこれだけ出番をお預けされてたら、その分余計に勢いが付くのは当たり前じゃないアリーゼ!」


「……随分と仲の良いようで」

 アリーゼと仲の良さげな会話をしているその人物は、風に浮くかのように漂っているウェーブのかかった黄緑色の髪が後方に伸ばしており、その髪には所々癖毛のようなカールが見られる。全体的に小柄で、その華奢な体つきは声の印象の少女そのままだった。服装は体と一体化しているように張り付いた薄手のワンピースのみを身につけているのみで、その服は風も吹いていない劇場の中で、妙にふわふわとしている。


「ねえ、シルちゃん。外の調子はどんな感じなの」


「あんま良くないわね。あいつら、力ずくでこっち側に入り込んだみたいで、その影響か応援呼ぼうにもあっち側にいるみんなとは連絡が付かないの。それに、さっきあいつらの乗ってる船の様子を軽く見てきたんけど、だいぶじれてたみたいね。いつこの場所に向かって、あの船ごと突撃かまそうとしてもおかしくないわね」


「あらら、あちらにいる彼女は随分と突飛なことするのね」


「突飛さはあんたも負けてないわよ、アリーゼとあの女は良い勝負だわ」


「……なあ、何の話をしてるんだ?」

 どうにも彼女らの会話について行けてない、なにやらこの場所に招かれざる客が来るように聞こえたが、シルフィが今まで何をしていたのかとか、あいつとか彼女とか、船がどうのこうのとか、今ひとつ理解が及ばない。


「いえいえ、お客様がお気にする必要はありませんよ」


「そうそう、あんたはおとなしくしていなさい。あんたには他にすることがあるんだから」


「他にすること?」

 俺は、突然自分に振られた、しなければならないものの当てはなく、困惑するはめになった。


「……とりあえずさっさとと進めましょうか」


「そうね」


「おいおい、だから分からないから。俺は何をすれば良いんだ?」

 彼女たちはそれぞれゆっくりと俺に近づきはじめ、どこか二人のせまってくる様には、言葉にならない妙な迫力があった。


「簡単ですよ。あなたは記憶を思い出すだけで良いんですよ。そう――あなたという人格をしっかり維持したまま、全ての記憶を取り戻してください」


「しっかりやりなさいよね。今までアリーゼが説明したのも全部そのためなのよ」


「……えと、なんだ。確かに俺の記憶はなんか曖昧なんだけどよ。今までの全部俺の記憶のためにやってたことなのか?」

 彼等の真意を知った俺は、余計に訳が分からなくなった。タクミの映像や、アリーゼのイデニオンの解説のどこに俺の記憶に関わるのがあったのだろうか。いや……いくつかあったような気もするが、正直情報が次々と与えられたせいで、それすらも思い返せないのだが。


「そうですね。私達の目的は、貴方の記憶を正しく整理させ。貴方という人格をもった存在を確立させること」


「ちょっと手荒だけど、実は確実に記憶を思い返す方法があるわ。今までのはそれを行って大丈夫か探りを入れることと前準備みたいなものなの。……それで、今から私達がする最後の役目ってのが、あんたの中で眠っている記憶を夢の中で追体験させる事なの。そうすればあんたは、記憶を明確に理解できるわ。だって直に体験するんだもん。そしたら後は――全部あんたしだいよ!」


「うわっ、なんだこの風! ちょっとまて、本気で待ってくれ。まだ何にもわかってないんだってば、手荒ってなにすんだよ!?」

 シルフィが、腕を虚空で思いっきり横になぎ払うと、先ほどから二人の接近に及び腰になって座席に座っていた俺は、何かが身にまとわりつくように感じた後、突如身動きがとれなくなった。そしてそのまま座った状態で上空に浮かび上がり、二人にいる舞台の方の引き寄せられた。俺は彼女の台詞から、自身の内に眠っている記憶を、夢で追体験という形で見せられるという内容は理解したが、なにやら嫌な単語が混じっており、その行為に非常に嫌な予感と危機意識を持ったためかなり慌てながら非難の声を上げた。


「大丈夫、大丈夫、何にも怖いことはないわよ……ね、アリーゼ?」


「ええ! きっと、たぶん大丈夫ですよ~」


「なんだその不安しか感じれないやり取りは! ちゃんと打ち合わせとか、危険がないかの確認は取ってるんだろうな。頼むからしてるっていってくれ!」

 俺は、シルフィによって引き起こされた不可視の何かに拘束されながら、アリーゼの目の前にゆっくりと移動させられた。正直、この時点で俺の不安は限界突破していた。なにやら頭の中では、思い出したくもない嫌な記憶があふれだし、身に覚えのない危機感が全身から発せられ、非常に嫌な状態だった。


「うんしょっと、それじゃあやっちゃいましょうか。最後の最後であれなんだけど、実はタクミとエナちゃんがアラストスと戦った以降の話で、一つだけあえて話してなかったことがあるの。……それは『竜人』と呼ばれる種族のことよ。イデニオンには亜人と呼ばれる人とは少し異なる容姿の人族がいるの、それらの人たちは、元々精霊達と親交が深かった人族が精霊の影響で精霊の特性を人の身に宿してしまった結果、いつしか精霊族とよばれるようになったのね。彼等には、森や山に海といった環境などにそれぞれ身を置いて派生した三種族がいるのだけど、今回の言ってなかった竜人族はその精霊族とはまた別の存在。エナちゃんとアラストスの戦いの後、突如登場するようになった竜の特性を身に宿した人族なの。彼等の存在は、今からあなたが体験する記憶の中で非常に重要な存在なんだけど、その分あなたにとっては繊細な記憶に関連するため詳しくいえないの」


「……ねえ、アリーゼそれは何?」


「……アリーゼ、竜人族っていうのも気になるが、その手に持ってるのはなんだ、ていうかどこから出した!」

 彼女は、話し出す前にどこからか巨大な棒状の何かを取り出した。その先端には鈍く光る二つに分かれた鈍く光る金属の光沢が見て取れた。シルフィもその様子に驚いたのか呆然としていた。……うん、それって凄く痛いやつだよな。



「――本当は、もっと色々と話せれば楽だったんだけど、でもそうしちゃうとあなたの頭のなかが大変な事になるから、けっこう話が遠回りしちゃったけど、それもこれでおしまいになるのかな? 次に話すときはもっとちゃんと話しましょうね。――……ふう、それではいってらっしゃい。イデニオンで、はじめて起きた大規模な人同士の争い、理術とギフト、各種族の特性を存分に振るって行われた数々の争い。そしてそんな中で起きていた『竜の秘宝』を巡る冒険の記憶へ、いざっ!」


「いやちょ、まっ!? ガアァァァァァァ! ……グフッ――――」

 俺は、彼女の一撃で意識を失った。そして俺が最後に見たその光景、巨大なハンマーを嬉々として振り下ろすアリーゼの姿は、身につけた仮面のせいか、とても憎らしい道化師のようだった。



――☆☆☆☆――



「ねえ……死んでないよね?」

 私は、恐る恐る目の前で起きた惨劇の結果をアリーゼに尋ねた。


「大丈夫、大丈夫。この方法が気絶させるのに一番手っ取り早いことだって、シルちゃんもしってるじゃない。いや~、私も彼に一度はやってみたかったのよね!」


「……確かに、その手段っていうか、物理的な一撃で昏倒させるのは、手っ取り早く気絶させるには有効ね。それに、気絶させなきゃ記憶を夢で追体験できないもの。でもね…………こいつ、あいつとは違って今は普通の人で、常識の範囲内の存在でしかない存在っていうこと――忘れてないわよね?」

 そう、確かにこのような光景を私はよく見ていたが、その対象はいつもあいつだった。だからこそ、今さっき被害にあったこいつが、同様に耐えられるという保証はどこにもないという事実に私は気づいた。


「…………へっ? ――……あっ! てへ、やっちゃったかな~?」


「……あぁ、そうなの。私、こいつのこと嫌いだったけど、今はこいつのこと心配してあげる気持になったわね。本当……惜しいやつを無くしたわ」

 アリーゼ、あんた自分がやってみたかったからっていうことで、すっかり自分のしたいことを優先して、こいつがあいつとは違うって事あんたなら百も承知でしょうに。


「――もうシルちゃんたら! …………う~ん、とりあえずこれで大丈夫でしょ。シルちゃん、そろそろこの場所は危ないし、彼を避難させてもらえるかな?」


「えっ、そのなにやら巨大な鈍器で殴られた無残な死体を、どこに連れて行けば良いのかしら? さすがにしたい処理は手伝いたくないわね、共犯にしないでくれるかしら」

 個人的に、この事態の後始末はごめんである。そんなめんどくさいことを押しつけたアリーゼに対し、さすがに嫌味の一つをいっても罰は当たらないと思う。


「ちがーう! ほら、少し治癒もしておいたから、彼はまだ無事よ。……ちょっと頭の中は不安あるけど。何も問題なしよ!」


「……あの一撃で生きていたこいつも、そんな自体に問題なしと言い切るあんたもすごいわね。こいつの頭の中を心配して、色々とめんどくさいやり方で説明していたのに、そんな相手の頭を鈍器で全力でたたくなんて、普通ありないでしょ。――自分の欲求に常に忠実……まさに『娯楽神ルードス』の名に恥じぬ行いね、アリーゼ」

 そう、娯楽神とよばれるアリーゼは、自分勝手な遊び心で、時たまこのような惨事引き起こす。その被害は、戦神や闘神、普段から血みどろの争いになれてるやつも真っ青になる時もあるほど。彼女の行いは娯楽、すなわち遊びの範疇におさまるためか、彼女はそういった

神々とは別にとらえられてるが、やってることのひどさは比ではない。彼女による被害でで未だ死傷者が出ていないのは。神故の奇跡というやつなのか疑問である。


「いや~ね、そんなに褒めても何も出ないわよ。そっちこそ彼を捕まえたときの手腕、見事だったわよ。さすが『風精霊ウェンス』のシルフィ、風の事は風の子にお任せってやつね」


「……素直に受け取らないでよ、まったく。それじゃ、こいつをとりあえず劇場の地下にでも運んでおくわね」

 アリーゼは私のいった台詞を前向きにとらえたのか、本気で褒められたと感じたらしい。……もう、手に負えないと思った。そうな感じで、アリーゼの相手をするよりも観客だった、この男の死体(重傷者)を運んでいた方が気が楽になると思った私は、アリーゼに運び先を告げ、彼の体を自身が持つ風を操る力をもって浮かび上がらせ運ぶことにした。


「そこなら影響はないかな? それじゃ私は外の様子を一度見て、必要なら足止めでもしてこようかな。ついでに、ちょっと彼女に挨拶でもしてくるわ。その後に合流するつもりだから、すこし準備でもして待っててもらえるかしら?」


「ええ、そうしておくわ。――……一応言っておくけど、ほどほどにしておきなさいよ。あんたも結構やるんだから、足止めもいいけど、やりすぎてこの場所を火の海にしないでよ」

 私は、アリーゼに返事を返した後、妙な寒気を感じ、いやな予感が頭によぎった。それは、アリーゼと、現在この場所に猛攻をしかけてきている相手が、真っ正面から本気でぶつかった場合の被害。間違いなく惨事になると踏んだ私は、アリーゼにに自制するよう諭した。


「了解よ。ではでは、行ってくるわね」


「……行ってらっしゃい」

 そう言って劇場から姿を消したアリーゼの口元は妙に笑っており、私は大層不安になった。いやな予感は相も変わらず残っており、今後予期せぬ問題が発生することが確定した瞬間、私は色々と諦めながら彼女を送り出した。



――◇◇◇◇――



「よいしょ――……うん、この部屋でいいかな」

 私は、アリーゼを見送った後、劇場の地下にある空間にたどり着いた。そこは、イデニオン劇場と呼ばれる建造物の遙か地下深くにある、今は使われていない無数の部屋がある場所だった。私はそこで、いくつかの部屋の扉を開け、中を覗き込み、ある部屋を見つけた。その部屋は、天井やから床まで、何も色づけされてない真っ白な部屋で、あちこちにはよくわからない様相のものが散らばっている。それらは一介の精霊でしかない私には理解の及ばぬものばかりだった。赤や黒の色彩で模様を描かれたカード達、細長い棒の先端にねじれた板のようなものがついてるもの、何の動物を模しているのかわからない人形達、青と緑の色彩で地図のようなものが描かれた球体が乗っている台座、そのどれも、私は名前も知らない。しかし、この部屋の中心には、数人は寝転べるような大きさの寝具がおいてあり、私が今運んでいる男を寝かせるのに都合が良かった。いい加減運ぶのが手間になった私は、その部屋の寝具に男を横にさせ、アリーゼがこちらにやってくるまで、この場所で休憩することにした。


「……ここなら、ちょうどいいかな。ここまで来れば、上と外からの被害もなさそうだし、ここで寝かせておけば問題ないわよね。――せいっ!」

 私は、この部屋では周囲からの影響がほとんど問題にならないことを悟り、小気味よく先ほどまで観客だった男を、寝具の上まで浮かび上がらせ適当に放り出した。男は弾みよく寝具の上で跳ね、わずかにだがうめき声を上げた。


「うん……とりあえず生きてるみたいで安心した。こいつも無事運び終えたし、私の方も色々とやることかたづけちゃおうかな」

 アリーゼからの頼のみごとを終えた私は、男をそのまま放置して、自身のやるべき事をかたづけようと思った。


「たぶん、その内アリーゼのやつが、あんたの気配探ってこの場所に来ると思うから、あんたはここでのんびり寝てなさい。――……まったく、早く記憶を取り戻して来なさいよね『大馬鹿』さん、あんたがいないと張り合いないんだから。それじゃあ私はもう行くわ」

 眠っている男に顔をのぞき込みながら、いくつか言いたかったことを一方的に言った私は、彼にしばしの別れを告げた後、部屋の扉の前まで歩き、そこで一度歩きを止めた。


「――……あっ! そういえば、お約束を言い忘れていたわね。……コホン、それでは。――あなたの夢が良き夢でありますように。我らが母『マクレア』の加護をあなたに…………」

 私は、彼がこの後見る、長い夢の旅がうまくいくよう。その、古くからイデニオンに伝わる祝福の言葉に、ありったけの祈りと願いを込め、それを彼に贈った後、その部屋を去った。――願わくば、すべてがうまくいくようにと……



――◇◇◇◇――






 

 これで一応序章は終了です。


 次から始まる第一章では、大きく話が変わり、展開も異世界冒険ファンタジーぽくなります。登場人物も多数増え、視点となる人物も多くなり、さらにはけっこう長くなる予定ですので。


 第一章では、序章の登場人物達の出番もありますが、多くはまだまだ先の予定です。そのため忘れてしまわれる設定や人物像が多くなると思いますので、良ければ一緒に投稿した、序章の登場人物の紹介の分に目を通してもらえたら幸いです。


 誤字脱字などの問題点の報告、気になる点があれば声かけてもらえたら助かります。未だ執筆初心者なため、へたれな自分ですが、気軽な言葉でももらえるとうれしがります。ここまで俺の初心者丸出しの小説にお付き合いしていただけただけでも十分な話なのに、欲張りな自分で申し訳ありませんでした。


 それでは、第一章でまたお会いできる事を願って、後書きを閉めさせていただきます。


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