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狛犬物語~姉の過去~

作者: 紅音ピュゼ

「お姉ちゃん?」

姉の名前を呼びながら走り回っていた。

今日は満月の夜、せっかく姉と月でも見ながら話をしようと思っていたのに

どこに行っても姉の姿が見当たらない

「階段の下かな?」

私は神社の正面に戻り参道から階段を下りていく

やがて、月明かりに照らされている影が見えてきた。

さらに下りると姿が見えてくる。

鳥居の前に座り込み、耳と尻尾をシュンとさせていた。

私は無言で階段を下り姉の横にそっと座り言葉をかける。

「どうしたの?」

私が聞くと姉は「何でもないの…」と顔を上げた。

涙の跡が見える。そして瞳からは新しい涙…

「ちょっと淋しかっただけだから…昔の彼の事、思いだしたらつい涙が…ね…」

昔…私は姉の過去を知っている。

大事な人を失ってしまったのだから…

好きな人がいなくなってしまったのだから…

彼はよくこの神社に来てくれた。

もちろん私も彼の事は好きだった。

とても優しくて…もし私が人間だったらお兄さんとでも言いたくなるような彼…

そんな彼に姉は恋をして…。

彼と一緒にいる時だけ、姉は人間のようだった。

自分が神の使い(狛犬)だということも忘れているようだった。

でも別れは必ず来る。

彼は事故で死んでしまった。

ずっと一緒だと思ってはいなかったけど、それでも大好きな人が死ぬのは耐えられないことで…

それ以来姉はあまり笑わなくなった。昔はあんなに笑ってくれたのに

そうやって時間だけが過ぎて…今日…私は、はっと思いだした。

(そういえば今日は彼の命日だったな…)

彼が死んでから始めての命日、姉が泣くのも無理はない

姉は大粒の涙を流し、静かに鼻をすすっている。

私は姉を励ましたくて、姉の涙をそっと舐め取った。

とてもしょっぱくて、悲しみあふれた味…いろいろな思い出がつまってそうで

「狛?」少し泣きやんで、姉は私の方を向いた。

涙を拭って、私の舐めた所に指でふれる。

「いきなり変な事してごめん…励ましたかったから…」

恥ずかしくなり、両手で顔を覆う

そんな私の肩に姉は優しく手をかけた。

「ありがとう…少し元気が出たわ…」

そのまま抱き寄せて私を撫でてくれた。

「私だって彼がしんだ事は悲しいよ、でも、私はお姉ちゃんがいるから。淋しさだって堪えられる…だから泣かない。」

そう言って笑って見せた。姉も笑い返してくれた。

久しぶりに見た姉の笑顔…

「ごめんね、もう泣かない…そうよね、彼がいなくなったのは淋しい、でも私にはまだ大切な妹がいるから。」

姉は立ち上がって私の手をつかんだ。

「心配かけてごめん、さ…中に戻りましょうか…

「うんっ!」

私も立ち上がって鳥居をくぐり階段を一緒に上がる。

その間もずっと笑いかけてくれていた。

姉さんが元気になってよかった。私は心の先からホッとした。

そして姉さんを羨ましく思えた。

「姉さんはいい彼氏を持ったんだね」

言われたとたん、姉は赤面させ、足を止める。

一回頷くとまた上がりだし、「狛も…きっといい彼氏ができるから…」と握っていた手を強くし、階段を駆け上がり始めた。

「お姉ちゃん手が痛いよぉ」

私は、こけないように何とか付いていく…

風の音に紛れて姉さんの声が聞こえた。

「ありがとう…」

彼に言ったのだろうか…空を見ながら心を込めて呟いて…

大きくジャンプし階段を登り切った。

私もジャンプして階段を上り切る。

横にいるのはかわらない姉だった。少し変わったといえば笑顔…

曇った様子がない純粋な笑顔…



数年後…姉さんの言った通り私も好きな人が出来た。

優しくて…昔の誰かとよく似た性格の彼…



                              Fin…



短編です。


今回初めての投稿です♪基本はこんな感じでこれからも書いて行こうと思いますのでうよろしくお願いしますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 感情表現がうまくできていると思う。それでいて、動作に不自然さが無いのがさらにいいと思う。 [一言] 期待してます、がんばってください!!
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