これがもう遅い、ってやつですか?
「此度から、第八王子であるギルベルトを王太子し、上の第七王子までは廃嫡するとしようか。……あれらはもうだめだね」
穏やかだが、薄ら寒い冷たさのある声で玉座に据わる人物は、ひっそりとため息を吐いた。
キラキラきらめくシャンデリア。仕立てのいい服を着た老若男女。音楽家たちの奏でる音に見ているだけで美味だとわかる、美しく盛り付けられた料理。
これは夜会だ。いわゆる王国主催のパーティというやつである。
端で大人しくしていたらとんだ流れ弾を食らってしまったようだ。
(はぁ??????)
転生者のボクは激怒した。勿論この国のクソさに。
(ハァ~~~~?????????)
この国の第八王子のボクには、七つ子とかいうもう生まれがファンタジーな腹違いの兄がいる。
生まれは正妃との子供であれども、王位継承権は兄たちの方が上。そして王である父上も健在。順当に行けば第八王子のボクの居場所なんて王城にはない……はずだった。
ボクはそのまま公爵の位を賜って領地に引っ込み、のんびりかわいいお嫁さんと犬でも飼って使用人も必要最低限にほどほどに公務をしながらのんびり隠居生活の予定……だったのに……!
なぜか兄上たちは、自分たちの通っている貴族の学院に入学してきた後輩の元平民だという令嬢に、こぞって公務そっちのけでアプローチを始めた。
顔が良いのはボクの異母兄弟なので当然だが、同じ顔の人物達が少女に密集しながらあれやこれやと世話を焼くのは、その、絵面を想像するとなんだかちょっときもちわるい。
兄上達が例の令嬢に夢中になり職務を放棄。そこまではいい。いやよくない。よくないけど。何故か兄上たちが放棄した公務を兄上たちの婚約者の令嬢が処理し始める。
すると、あら不思議!結果的に王族が知らない”謎の事業許諾書”が次々と作成される。ねぇなんでやろうと思ったの??????絶対何らかの罪に問われるやつ~~~!!!
ちなみに父上はそのことを知らなかった様子。当然父上が知らないことはボクも知らない。知らないというか、ボクにはその権限がない。何故ならボクの地位はこの兄上たちよりずぅっと下だからだ。というかボクがまだ幼いとあって、公務はまだ任せてもらえていない。その結果が、これだ。
本来なら勝手に公務の書類を処理した婚約者の令嬢も王子同様に罰せられるべきなのだが、何故か令嬢はお咎めなし。ナンデェ!?そんなおばかさんみたいな話ある!?
王子七人が女関係で同時に廃嫡とか国中どころか全世界の笑い者だよ!七つ子だから容姿だけじゃなくて女の趣味もそっくりってこと!?そしてボクがこのおばかさんたちの尻拭いを!?
うそでしょ……?
ていうか、なんで誰もこんなになるまで放っておいたのさ……!
知らなかったことを棚に上げて悪いが、ここまでとは。
「ギルベルト、すまない……君には本当に苦労をかけるよ」
国王である父上は、瞳を曇らせ落ち着いた声でボクに詫びる。
ざわざわと犇めく声たちに血の気が引いていく。
あの第八王子に王座を継がせるなんて王は何を考えているんだ?
そんな声まで聞こえる気すらする。
うるせ~~~~~!!!ボクだってこんなこと予想外に決まってんだろ~~~!?!?
兵士に抑えられそうになり、暴れているクソ兄上どもを後目にボクは内心ギャン泣きする。表にそれを出さないのは、もうボクのなけなしの矜持ってやつである。普段表面をなんとか取り繕っているボクだが、内心はどうしようもなく臆病だし面倒なことは大嫌いだ。王なんて面倒なだけだ。上の兄達が争い、ボクはその下で好きにさせてもらう。だから上の兄達がボクのことを残りカスのなんの権限もない第八王子と笑っていたのも許せた。父上は時々ボクの様子を見に来てたけどなんか怖いしあんまり目を合わせたりはしなかった。
だからこんな親不孝なボクに王位を継がせるなんてさぁ~~~!やめとこうよ!
この時国王主催のパーティにもかかわらず、今世生まれてから一番の不幸に浸って国王の前にも関わらず俯いて動けないでいたボクは、後ろからそれはもう闘牛のごとし勢いで迫るピンク色の物体に気づかず頭に強い衝撃が奔った。
ふと走馬灯のように幼いころどこかの令嬢が王家の中庭でうわ言のように呟いていたことを思い出した。
この世界は「シャイニー★スター~夢見る乙女と七人の星王子~」という乙女ゲームの世界だと。
いや、誰が買うんだよ、そんなダサいタイトルの乙女ゲー……。
知らない知識と意識が混濁していく、ぐるぐるときもちわるい衝動に駆られ顔を覆い膝をつく。
知っている。知っているぞ。
これ、婚約破棄された方の令嬢がキラキラの隣国の皇太子とか超絶イケメンの辺境伯とかと幸せになって祖国の方が何かひどい目に合うやつ……!
もしかしてだけど、令嬢が七人いるし七倍ひどい目に合うってこと?
うそでしょ???????
「ヴェアッ」
「ギル!?!?!?」
形容しがたい鳴き声を喉から噴き出したと同時に電源が切れたようにぷつりとにボクの意識は真っ暗になった。
もうおうち帰る……。
いやここが国だったわ。




