3.どうやらそういう店らしい
ルークが常連になってから、カフェは少しだけ変わった。
「ナギ、今日のスープは?」
「野菜のポタージュ」
「いいね」
ルークは窓際の席に座り、落ち着いた様子で本を開く。
領主の息子なのに、ずいぶん普通だ。
……いや、普通すぎるくらいかもしれない。
「ねえねえ!」
ユナがテーブルを叩く。
「聞いて!!」
「なに」
「この街、温泉ないの!?」
「急にどうしたの」
「温泉あれば日本再現できるのに!!」
常連が笑う。
「ハードル高いな」
ユナは腕を組む。
「でもさ、このカフェちょっと日本っぽくない?」
「そう?」
私はカップを並べる。
ユナは店内を見回した。
「なんか落ち着くんだもん」
常連も頷く。
「分かる」
ルークも本を閉じた。
「ここに来ると、少しだけ懐かしい気分になる」
私は少し考える。
「それはたぶん」
スープを置きながら言う。
「前世日本人が集まってるからじゃない?」
ユナは目を輝かせる。
「コミュニティってやつ!?」
「そんな大げさじゃないわ」
私は肩をすくめる。
「ただのカフェよ」
そのとき、扉のベルが鳴った。
カラン。
新しい客だ。
私は顔を上げる。
知らない男性だった。
胸の奥が、ぽうっと温かくなる。
「あ」
私は小さく笑う。
どうやら、また一人。
私は声をかける。
「いらっしゃい」
「どうも…」
男性は少し緊張した様子で席に座る。
ユナが小声で言う。
「ナギ」
「なに」
「また来た?」
「そうね」
私はスープをよそいながら言う。
「この店、そういう店みたい」
ルークが少し笑った。
「前世日本人が集まるカフェか」
「そう」
私はうなずく。
ユナが腕を組む。
「じゃあさ」
「なに」
「ここ、日本人街にしない?」
常連が吹き出した。
「急にスケールでかいな」
私は苦笑する。
「そこまで大勢は集まらないわよ、流石に。」
窓の外を見る。
夕方の光が街を照らしている。
「でも」
私は少しだけ考える。
それから言う。
「ここに居るとなんか落ち着く」
ユナが笑う。
「でしょ!」
ルークも頷いた。
「分かる」
私はカウンターに手をつく。
この店には、不思議なお客さんが来る。
胸がぽうっと温かくなる人たち。
前世日本人の人たち。
そして今日も——
カラン、と扉が鳴る。
「いらっしゃい」
ここは街のはずれの小さなカフェ。
どうやらここは、
前世日本人が集まる店らしい。




