1.不思議なお客さん
私のカフェには、ときどき不思議なお客さんが来る。
初めて会ったはずなのに、胸の奥がぽうっと温かくなる人たち。
そして私がそっとスキルを使うと、
彼らは決まってこう言うのだ。
「……あ、俺、前世日本人だったわ」
そんな人たちが、なぜか私の店に集まってくる。
ここは街のはずれにある小さなカフェ。
パン屋の娘だった私、ナギが開いた店だ。
焼きたてのパンと温かいスープ。
それから少し甘いお菓子とお茶。
特別な店ではないけれど、なぜか人が集まる。
——前世日本人が。
もちろん、みんな最初から思い出しているわけじゃない。
ただ、私の胸がぽうっと温かくなる。
それが合図だ。
私はそっと声をかけて、小さくスキルを使う。
私のスキルは同じ波長の人間を識別し、過去を思い出させる能力だ。
すると相手は、少しぼんやりした顔をして——
「……あれ?」
と言う。
そしてだいたい、次の言葉がこれだ。
「俺、日本人だった気がする」
最初は驚いたけれど、今ではもう慣れた。
このカフェはいつのまにか、
前世日本人が集まる店になっていた。
そんな穏やかな午後だった。
店の前に、一人の女の子が立ち止まった。
金色の髪の快活そうな女の子だった。
店先の黒板をじっと見つめている。
そこにはこう書いてある。
『本日のスープ』
女の子は首をかしげた。
「……なんか、この感じ懐かしい」
そして、パンの匂いを吸い込む。
「こういう匂い……好きだった気がする……」
その瞬間。
胸の奥が、ぽうっと温かくなった。
ああ、この子もだ。
私は扉を開ける。
「ねえ」
女の子が振り向いた。
「え?」
私は少しだけ笑う。
「ちょっといい?」
そして、そっとスキルを使った。
女の子の目が大きく開く。
「……あ」
少し沈黙。
そして、彼女は言った。
「……あ、私、前世外国人の日本オタクだった」
「そういうパターン…」
私は少し笑ってしまった。
女の子は自分の頭を押さえる。
「うわ、思い出した…私、日本めちゃくちゃ好きだったの…!」
「…そうみたいね」
彼女は勢いよく顔を上げる。
「東京行ったことあるのよ私!!」
「へえ」
「夜の街がね、もうキラキラしてて、人も多くて、
ずっと明るくて…」
彼女は興奮した様子で両手を広げた。
「まるで——」
そして叫ぶ。
「まるでザナルカンドよ!!」
その瞬間。
隣の席から。
「ブッ!!」
常連の男性が盛大にお茶を吹き出した。
私は思わず眉をひそめる。
「ちょっと。カウンター汚さないで」
「いや、だって…」
常連は笑いをこらえている。
「ここでそのワード聞くなんて思わなくてさ…」
女の子はハッとして常連を見る。
「……あなた、前世日本人でしょ?」
店内に笑いが広がる。
私はため息をつきながら、カップを並べた。
どうやらこの子も、常連になりそうだ。
「名前は?」
女の子は胸を張る。
「ユナ!」
そして続けた。
「日本文化大好きユナです!」
「そう」
私はうなずく。
「じゃあユナ、とりあえず座りなさい」
「え?」
「甘いもの食べる?」
ユナの目が輝いた。
「食べる!!」
…素直だわ。
私はふっと小さく息をつく。
今日もこのカフェは、平和だった。
領主様の息子が来る前までは本当に。




