天気の神様、働いて!【2000文字】
「晴さ〜ん、どこにいるんですか〜?」
家の中を歩き回って探していると、奥の間で肘をついて寝転んでいるのを見つけた。
「あっいた、晴さん!」
「おお、杜湖。なんだバタバタして、女の子なんだからドタバタするんじゃないよ」
「また昔の人みたいなこと言って…。呑気にお煎餅なんか食べてていいんですか?」
「いいに決まっている」
私の言葉を受け流して、着流しの上からボリボリ脇を掻いている。
「曇さんがもう3日連続で働いてますよ。そろそろ交代しないと、晴れなくて困っている人がいますよ」
呆れて言い返すと、晴さんはガハハと豪快に笑った。
「なんだ杜湖のくせに。まるで神主みたいだな」
「みたいじゃなくて、神主なんです!もう、天気の管理をしてくれないと、私がお偉いさんに怒られるんですから!早く働いてくださいよ〜」
ここは天気にまつわる神社で、表向きには天気にご利益があることになっている。
実際は天気の神様たちと共に暮らしてそのお世話をする、というのが代々うちの勤めだ。
そして神様に働くのを促すのも、神主の仕事の一つ。
だからこうして晴さんにそろそろ出番だとせっついている。
「そんなことより宿題はしたのか?あとで泣きついても教えてやらんぞ」
「晴さんが働いてくれたら、時間ができて宿題ができます!」
「…まったく、いつからそんな仕事の鬼になったんだい」
はあーとわざとらしく嘆いてくるけど、構っていられない。
そろそろ晴れないと本当にまずい。
「晴さん、ちょっと空に上がっていくだけじゃないですか〜」
「それが面倒なんだよ」
「好物の筑前煮、作っとくから!」
「酒がいいなあ」
「このダメ親父!」
晴さんを揺さぶっていると、パタパタと足音が近づいてきた。
「あ、杜湖。曇殿が悲鳴を上げているけど、大丈夫?」
「ほら!曇さん体力ないんだから、代わってあげてくださいよ!」
「だったら、雨、お前さんが行けばいいよ」
私を呼びに来た雨さんに、晴さんは顎で上を指した。
「雨さんはその前に4日も働いたでしょ!晴さんが嫌がったから!」
「んえ〜、そうだったかあ〜」
「晴れないと苦情来ますって!」
「我の知ったことではないな〜」
「あんたの仕事でしょーが!」
ぎゃあぎゃあ言い合っていると、そこにまた誰か来た。
「杜湖、曇ちゃんが帰ってきちゃったけど…」
「えっ!?」
雪さんがヘロヘロの曇さんを抱えて入ってきた。
「…もう、ムリ…」
「ぎゃああ!空に天気不在はやばいですって!!」
「杜湖、女の子がドタバタするんじゃないよ」
「誰のせいですか!!」
晴さんの衿元をグイグイ引っ張ると、急に軽々と持ち上がった。
「へ…」
見ると、雨さんと雪さんが加勢していた。
「晴殿を上に連れて行けばいいんだね」
「あとは俺たちに任せて」
雨さんはにっこり笑って、雪さんはパチンとウインクした。
晴さんの両脇を抱えながら、そのままひゅーーんと、空へと上がっていった。
「ぬあああ、まだ働きたくないーーー!!!」
「おじいちゃん、ご飯はさっき食べたでしょ」
「誰が年寄りだっ!」
「杜湖を困らせないであげてくださいよ〜」
庭に出て、晴さんたちを見上げると、揉めながらぐんぐん上っていくのが見えた。
「…杜湖、水ちょうだい」
「うわああ、曇さん!」
曇さんの介抱をしながら、空の様子を見守っていると、少しずつ晴れに変わっていった。
「はあ、よかった」
ホッとしたのも束の間、晴れた隙間から雪と雨がパラパラと降ってきた。
「げっ!?ちょ、何揉めてるんですか〜!!」
拳を突き上げて、空に向かって叫ぶ。
雨も雪もどんどん強くなっていく。
「ああ、もうダメだ…」
泣きそうになった時、後ろからポンと肩を叩かれた。
「…雷さん」
「仲裁してくればいいか?」
「どっちかというと、空に神様1人にしてほしいです…」
「ははっ、杜湖はしっかり神主だのう。任せなさい」
雷さんは私の頭をグシャグシャに撫でて、飛んでいく。
私は曇さんに膝枕をしながら、縁側で祈るような気持ちで見ていた。
ドンガラ、ゴロゴロロロロオッ!
…雷が落ちた、終わった。
快晴で、雨と雪が降り、そして光っている。
「あああ…」
この世の終わりを感じて頭を抱えた時、ビュンと突風が起こった。
「なーにしてるだああ!!!」
「あ、隣の神社の風の神様…」
風さんが空に到着して数秒、あっという間に空は晴れだけになった。
『──本日、全国で10分ほど起きた異常気象ですが、原因は未だ不明。気象庁では…』
「…はい、本当にすみませんでした」
私は電話の向こうの偉い人に向かって、ペコペコ頭を下げる。
「はい、しっかり神様にはお願いしておきますので…」
「なんだ、伊勢の坊やか〜?今度旨い酒持ってこいって言っとけ、杜湖」
「結局、晴殿戻っておられるし…」
「曇ちゃん可哀想に」
「筑前煮、旨いな」
「あなた方、反省してらっしゃるの?我が神社にまで迷惑かけて恥ずかしいですよ」
「酒だー!酒よこせ〜」
「あー!もう神様うるさーい!」
私の叫び声が、いつものごとく響いた。
了
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