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遺書  作者: のりもっち
2/2

崩壊する

難しいですな……m(_ _)m

うちのコかわいそすぎない?

気が気じゃなかった。刻一刻と放課後に迫り、心臓が暴れだしそうだった。あんなに両親へ心配を掛けないように注意して居たはずなのに、よりによって最悪な形で私の学校生活が明かされてしまうかもしれない。頭がくらくらする…。



(どう切り抜けようか……いやもう真実を話す方が良いかもしれない。)


ー 1件のメールを通知します from 母 学校に着いた。ー



何も考えが纏まらないまま、放課後がやってきてしまった。どう息を吸うのか忘れてしまった様に呼吸が浅くなり、視界が滲んだ。私のせいで、私の馬鹿な行いのせいで、忙しい両親に手間を掛けさせてしまう。どう足掻いても抜け出せない地獄に、この場で消えて居なくなってしまいたい。カツカツと心地よいヒールの音が、職員室へと続く道に響き渡る。



「……お母さん、ごめんなさい。私のせい、」

「そんなのは良いから、謝りに行くわよ。」

「…ごめんなさい。」



職員室で空き教室の鍵を持った担任が待ち構えていた。母は咄嗟に頭を下げて丁寧な謝罪を述べた。私も隣で頭を下げる。私は悪い事をした。拒絶する勇気が持てず、一線を越えてしまった。私は、どうしたいんだろう。先生とお母さんの声が頭に響く。母と目が合った、余計なことを話すなと言われているようで、憂鬱になる。どうやら私は思った事を思ったまま話してはいけないらしい。



(ああ、惨めだ。ただ自分を守っただけだったのに…)



そんな事をぼんやりと考えていると、隣に座っている母から大きな声で言葉を投げつけられ、頬に鈍い痛みが走った。バチンッとやや重ためな音を鳴らしながら、自分の顔が横に向き、教室の風景が変わった。殴られた事を認識できないまま、気が重い三者面談は終わった。帰り道で母は私と1回も目を合わせなかった。



「……あの、お母さん……ごめんなさい。でもね…」

「やめて、言い訳は聞きたくない。私達が忙しくて放って置いたからなの?お願いだから大人しく過ごして手間を掛けさせないで…。」

「………ごめんなさい……。」



一緒に歩いていたはずの母との距離は段々と開いていき、やがて見えなくなってしまった。歩こうにも、身体が重たすぎた。足が動かない、頬が痛い、でもそれよりもっと自分自身に嫌気が差していた。こつり、こつりとローファーを鳴らし家に向かう。のそのそと歩いていたせいで、家に着くのはいつもより時間が掛かった。そのままドアを開けて、家に入る。



「ただいま……。」



家にはもう誰も居なかった。見回してみるも、リビンクの机にコンビニのお弁当と母のメモが置かれていた。食べられるような気持ちではなくて、メモにだけ目を通し、冷蔵庫へとしまった。今日あった事も手で掴んで、ゴミ箱に捨てられたなら私はきっと、もう少し頑張れたのだろう。足がもつれてそのまま床へとへたり込んだ。何も感じなかった、ただ、心の奥底で黒いタールの様なドロドロとした感情が渦巻いているだけだった。



(お母さんに………嫌われたかな……どう…やって生きていこう)



気がつけば朝日が昇る頃だった。硬く冷たい床に投げ出された体はまるで、日常生活を拒絶する様にガチガチに固く、節々が痛かった。自然と涙が滲む、昨日の事をじわじわと頭が思い出し始めてようやく、強烈な吐き気を襲われている事を身体が気づいた。不格好にトイレまで走り、吐き出す。といっても昨夜から何も胃に入れていないので、胃液しか出なかった。喉が焼けるように痛み、ボロボロと堰を切ったかの様に泣き叫んだ。



「やだぁ、、痛いよッッ、助けてよぉおッッ」

「お父さんッッッ、お母さんッッッ!」

「もうッッもうッッ、無理なんだよぉおお!!!」



だが、心からの叫び声は誰一人として居合わせないこの空間にただ虚しく広がり、消えていくだけだった。ひとしきり叫んで泣いて、落ち着く間もないまま、疲れて寝入ってしまった。今だけは、両親に力いっぱい抱きしめられたかった。冷たい床が異様なものに感じてしまった。もしここに、お母さんが居たなら、私に何を言うのだろう。



(私はきっと、居ても居なくても変わらないものなんだ。)



母から連絡があり、翌日から学校に行く事になった。騒ぎは大きくなって廊下にはヒソヒソと囁く声が聞こえる。私に指を差す人、遠回しに犯罪者と言う人、面と向かって聞いてくる人。様々な反応に囲まれた。でも、私はどうでも良かった。もう何も反応出来ないと思っていた。完全に孤立している学校生活を1日終え、部活にはもう顔を出さないでおこうと思い、一直線に昇降口に向かっていると、顧問の先生に話しかけられる。



「篠宮、ちょっといいか。」

「…何でしょうか、先生。」

「ここで立ち話もあれだろうから、生徒指導室まで来てくれないか?」

「分かりました…。」



何の疑いも持たぬまま、生徒指導室に着いた。先生が机と椅子を用意して、教室に鍵をかける。その光景をただ、ぼんやりと見つめていた。



「万引きの件だ、話をしよう。」

「何も話すことはないです。」

「いや、私があるんだ。君の軽率な行いのせいで、3年生が最後の大会に出られなくなってしまった。そんな結果になった事をとても悲しく思う。」

「そうですか、」



ざまあみろと思った。一年に実力で負けて、嫌がらせを散々して、その一年に命令してやらせた万引きのせいで大会に出られなくなった。不思議と笑みがこぼれてしまった。口角が上がって、顧問に不審な目を向けられる。笑い声をこらえるので必死になりながら私は呟く。



「それは、とても良かったです。」



顧問が口を開く前に、教室の鍵を空けて外に出た。気持ちが晴れやかになることは自分でも驚くほど無かった。もう何も感じられないんじゃないかと思う程、心は凪いでいた。その日は記録に残るほどの大雨だった。傘も差さずに歩いて帰る、肌に当たる大粒の雨が心地よい。心に広がる黒い感情を洗い流してくれたら、もっと心地よかったのに、と少し降水量に憎しみを感じた。



(私が、もし綿飴みたいに水で溶けてしまえたなら……)



馬鹿みたいな事を考えて家に着き、母のメモを机にしまって、味のしない料理をお腹に流し込んだ。母の手料理は美味しかったのか、もう思い出せないでいた。事務的にやることを済ませて、ベッドに潜る。明日は目が覚めないと良いなと呪い(まじな)じみた独り言をこぼし、目を閉じた。



夢を見た。小さい頃の夢。父と母と3人でピクニックに行った時の事だった。母が作ったサンドイッチと父が注いでくれたりんごジュース。ひまわりの咲く丘で、3人、レジャーシートに座り楽しんでいた。食べ終わった私は母とひまわりを見て回り、シロツメクサで冠を作ってもらった。



(昔は、幸せだったな……戻りたいなぁ…………)



久しぶりの両親の笑顔を夢に見て、涙に濡れた感覚で目が覚める。思ったように眠れず、体の所々には疲れが滲み出ていた。起きたくなかったが、これ以上両親に迷惑をかけてはいけないと思い、ゆっくりと起き上がる。部活にも、教室にもあまり顔を出さなくなってしまい、また学校から母に連絡が行くのはどうしても阻止したい。



(ちゃんと……卒業までは行かなきゃ。)



朝の支度を終えて、下の階へと階段で降りる。すると、母がキッチンに立っていた。懐かしい光景だった。トントンと小気味いい包丁の音、湯気の立つお味噌汁の匂いに涙が出そうだった。家に母が居る、たったそれだけで救われた気がした。元気に挨拶をする気にはなれず、か細い声で音を紡いだ。



「…おはよう、珍しいね。」

「あら、おはよう。朝ごはん作ったらもう出るわ。」

「そっか…、ねえ、お母さんは私の事、大切?」

「何?急に……早く食べちゃってよ。」



はぐらかされて、心が曇る。私は何て言ってほしかったんだろう。「あなたが一番大切よ」「何よりも愛しているわ」そんな綺麗な言葉、望んでいない。ただ一言、たったの一言だけでも大切、と言ってほしかった。母は洗い物を終えて、慌ただしく玄関から外に出た。玄関からは母の疲れている声で「行ってきます」と聞こえてきた、私は答えられずに固まってしまった。



(私…………何なんだろう……)



考えることを一旦やめて、朝ごはんを食べた。いつも通り味がしない。でも今日は朝から珍しい事が起きたので、良い日になるかもしれないと何故か思った。いつもより早めな時間に家を出て、学校に着く。下履きから履き替えて、階段を上がる。教室に行くのは久しぶりで、緊張していたその時だった……



「やぁ〜〜っと、学校来たね。生意気1年。」

「待ってたんだよぉ〜、まーゆちゃんっ!」



後ろから先輩の声がした。それと同時に身体に衝撃が走り、意識が落ちた。最後に見た光景は、抱き上げられる私を嘲笑う様に見ている先輩の顔だった。意識を取り戻した時、目の前は真っ暗だった。手足を動かそうにも、何故か魚の様にしか動かない。どうやら床に寝かされているようだ。



(どこなの?………ここ…は?)



暗い視界に、動かない手足。唯一出せる声も恐怖に締め付けられて、パクパクと空気しか出ない。ジタバタしていると上から衝撃が加わり、反射的に体を丸めてしまう。心底楽しそうな笑い声が聞こえて、視界に光が差した。光に包まれ、目が慣れるまで少し時間が掛かった。上から声が聞こえる……



「ハロ〜〜、一年。サプラーイズ!!気分はどう?元気だったぁ〜?」

「やめたげなよー、今からおもちゃにされるのに可哀想じゃんwww」

「それもそっか、今日の相手は私たちじゃないの。」

「ごめんねぇ〜、可愛い真由ちゃんっ!」



後ろから手が伸びてきた、顔を掴まれて、抑えられる。私の前に、一人の男子生徒が立っていた。その手にはハサミ、何をされるか想像できてしまって息が詰まる。大抵の暴力は我慢できた、でもこれだけは我慢できないかもしれない。ポロリと大粒の涙が頬を伝って床に落ちる。男子生徒がニタリと口角を上げた。その表情を見て、心が軋む音がした。



「その顔いいねぇ〜、そそるわ。」

「おい早くしろよ、掴んでる方も疲れるんだぞ。」

「はいはい。じゃ、美容院ごっこ開始ぃー!」


そこまで長くなかった髪が、ざんばらに切られる。泣いても叫んでも、誰にも届く事なく、髪が無くなっていく。床から無理やり起こされ斜めになっている胴体に先輩が伸し掛かる。その手にはいつも通りスマホが握られている。ピロンっと音がして、動画を撮られる。ギャハギャハと下衆な笑い声と共に、私の無残な姿が残される。



「今の気持ちはどぉ〜?先輩に遊んでもらえてよかったね!」

「私達優しいからさー、感謝しなよ?」

「てかコイツ可愛いじゃん?俺好みかも。ファッションチェックしちゃう?」

「お、良いじゃーん?可愛くしてあげなー?」



もう先輩の声なんて聞こえていなかった。ただ自分の泣き声だけが、教室に木霊した。もう我慢なんてできなかった、そのまま服にハサミを入れられて、写真に収められた。もう顔を上げることができなくなった私の髪を掴んで上に引っ張られる。見せつけるかの様にスマホを顔の近くで左右に振り、笑顔でこういった。



「チクったら晒すよ?」



今更どんな事を大人に訴えたって信じてもらえない。先輩は成績も良くて、素行も良かった。問題児の一年と先輩なら、絶対に先輩が信用されるだろう。強く掴まれて痛む腕や顎を上手く使いながら、ゆっくりと頷いた。先輩達は、満足げに教室を出ていった。



「あは…あはははっ…あははははははははっっっっ」


(もう…終わりにしよう、もう疲れた…私が悪かったんだ。)



教室から出て、誰かに会ったかもしれないし会わなかったかもしれない。そんな事はどうでも良かった。答えにたどり着いて、心が羽根のように軽く、視界がクリアになった。何でもっと早く、気が付かなかったんだろう。こんなに簡単な答えだったのに、ああ……幸せだ。これで話を聞かない大人からも、怖い先輩達からも解放される。心の底から安心できた。



(ああ、ああ、やっと…答えが見つかった。)


ーDear 母 もう迷惑をかけないよ。from 真由ー



一通のメールを下書きに保存して、私は私の進む道を見据え、しっかりとした足取りで地面を踏みしめ歩いた。無意識に鼻歌を歌い、少しの後悔に蓋をして自宅に着いた。帰りの途中、床屋に行って髪の整えてもらい、思い出に決別するべく、レギュラーが決まった時に友人と行ったコンビニに入り、ポテトを買った、あの時はとても美味しく感じたはずなのに、今は虚しくボソボソとした食感が目立つばかりだ。



「今日はスタートの日だ。これから私は……」



決意を声に出し、気を引き締める。高校生活はあと1年だ、先輩達が全員卒業してしまう前に、私は蹴りをつけようと誓った。


「私は、絶対に許さない。」


ここからのストーリー展開が迷走中………ヘ( ̄ω ̄ヘ)

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