これはわざとだろ!(14)
ヘルパーの重要な仕事の1つは洗濯である。もちろん、洗って干して、乾いたら取り込んで畳むところまで。必要があればアイロンもである。
洗剤と柔軟剤を大量に消費するのは前に書いたけれども、これは、後で『ヘルパーの達人』に聞いたところ、ヘルパーのあるあるなのだそうだ。だが、注意して直してもらえたのでそれは良し。ただ、私には他にも腑に落ちない点があった。それは、裏返しに脱いだものは必ず裏返しのまま畳むこと。これは今考えるとプロのヘルパーとしては失格な行為であろう。ただ、ヘルパー初心者だった私は、彼女が来たばかりの時に既に気になっていたにも関わらず(脱いだままの状態で畳むのって普通なのかも?)と思うようにしていたし、しばらく経ってからは(来た当初に言わなかったのに、今更言えない)と考え、そのままにしていた。だが、『第1回 私辞めます事件』の後、何も注意も指摘もしていないのに、自らきちんと表を向けて畳むようになった。これは、今まではわざと裏返しのまま畳んでいて、こちらが何も言わないので「日本人家族は何も言わない。ちょろいちょろい〜」と言う感じでそのままにしていたのだろうな、と思う。だが、あの一件で、夫に別件で注意され、きちんと仕事しないと怒られることを学習し自ら直したのだろうと思う。
ただし、私の下着については違った。私の下着だけ彼女が来た当初から、ずっと裏返しに畳まれていた。洋服はきちんと表に返して畳むし、夫や息子の下着もきちんと返すようになったのに、私の下着だけは裏返しなのだ。私は全く同じ下着だけを愛用している。履きやすいので、一時帰国した時や夫が日本出張のときなどにネットで注文して購入しているもの。特に裏表が判別しにくいということもない。物が下着なだけに、言い出しにくいこともあって我慢していたが、シャワーを浴びて着替える時に、スッと履けず、必ず裏返さないといけないことが正直ストレスにさえなっていた。特に仕事をして帰ってきた日などは腰が痛いことが多く、一度履きかけたのに(あ、また裏返しじゃん!)と毎回直すのが苦痛で、苛立つ日だってあったのだ。全員のがそのように畳まれているならまだ理解できる。だが私のだけなのだ。それが嫌なので、神経質なまでに気をつけるようになり、きちんと表向きになるように洗濯かごに入れていたのにも関わらず、必ず裏返しに畳まれるのだ。
これはきっとわざとなのだろうな、と思った。彼女が「辞めます!」と言ったのは私に注意されたことが原因。小さく復讐しているのかもしれないと思った。私は夫にもそれを言ったことがあるけれど「そんな子供みたいなことするかねぇ?」と鼻で笑っていた。
だけどある日、大型犬ばかり担当して本当に腰が辛いのに、シャワーの後下着を履こうとして前屈みになって片足を上げたときに(あぁ!そうだった!私の下着は裏返しに畳まれるんだった!)と思い出し、腰の痛みに耐えながら上げた足を注意深く床に下ろし、下着を表に返した後、腰の痛みに顔を歪めながら両足を通し、下着を上げつつかがんだ腰を伸ばした時に、私の中で何かが切れた。。。
私は口頭で言うための英文を考えるのが煩わしくなり、翻訳アプリで手早くメッセージ書いてすぐさま送った。
「あのさ、前からずっと私の下着だけ裏返しに畳むよね?いくら私が毎回表を向けて洗濯かごに入れても、絶対に裏返しに畳むよね?なんで?!それ、毎回表に返すの、ものすごくストレスなんだけど!」と。
部屋着に着替えて、化粧水などを塗り、少しお落ち着きを取り戻したところでリビングに戻ると、
「Ma’am!これはどういうことですか??ちょっと意味が分かりませーん」
と言ってきた。
「じゃ、ちょっと来てくれる?」と言って、私の部屋に連れて行き、彼女が畳んだ裏返しの下着を手に取って、
「これ、いつも裏返し。直すの面倒でストレス!」
大声などは出していないが、イライラしてます!と言う言い方をした。本当にイライラしていたし、優しく言ってもこのイライラは伝わらないだろうと思ったから。
「Ahh!! Ma'am 私は、何も考えずに畳んでいるだけですー」と言う。この返事の仕方は、(怒られてしまった!どうしよう!)と言う感じではなく(あらあら、ついにキレた笑)と言うような、イタズラが見つかってテヘッ!みたいな言い方で、更に私をイライラさせた。
「そんなはずない。私がいくら気をつけて洗濯かごに入れても、絶対に裏返しになってる」
「えー、そうですかぁー?洗濯機の中で裏返っちゃうじゃないですかー?でも、OK〜今後は良く見て畳みまますねー」
と、ニヤッと笑ったのだ。あの顔と言い方は今でも忘れられない。あー、こいつは確信犯だなと思った。我が家の洗濯機は引っ越した時から備え付けてあったドラム式洗濯機である。少ない水で多くの洗濯物が入っている中で、洗濯物が裏返しになることなんてアリエナイ!しかも、私の下着だけが毎回絶対に裏返るとかアリエナイ!
さすがに雇い主に言われて直さぬわけにもいかないわけで、その日以来、きちんと表向きに畳むようにはなった。
私にとっては、忘れられない忌々しい出来事であった。




