四.
*
ところで、僕には妹がいる。
兄妹仲はそこまで悪くはない。
同じ環境で育った血の繋がる家族であっても妹と僕はやはり違っている。
男と女なので感性も考え方も趣味だって違ったりするのは当然だが、そういう差を差し引いたうえでもやはり妹のことを羨ましく思えたり、我ながら劣等感を抱いたり、心のどこかでしてしまっている。
妹は、僕のようにお墨付きに陰気なわけでもなく明るい性格をしている。現在は俳優としてテレビ業界で活躍している。
僕も妹も実家から離れそれぞれ独り暮らしをしているのだが、久しぶりどこかで会って話そうとお互い都合を付けて僕の住む地域周辺の喫茶店へ行ったことがあった。
「……お前は、本当すごいよな」
近状報告、世間話をなんとなくしているなかで僕はそんな言葉をつい妹へ溢した。
「どうしたの突然に。兄さんだって頑張ってるじゃない」
妹はいきなりの言葉に驚いたように言う。
「僕は頑張ってなどいないよ。結局のところ、いてもいなくてもいい役柄ばかり演じているのだし」
「またそんな……。どんな役だって、必要だから書いてあるのに決まってるじゃない?」
妹は少々呆れの表情を含ませそんなふうに言うのだった。
ああ。ここでやっと気がつく。
妹は久々の休日にわざわざ都合を合わせてこちらまで来てくれているのだ。最近は忙しいであろうに。それにもかかわらず僕は兄ながらも妹を呆れさせ、気を遣わせる動言をさせてしまっているのだと。
我ながら情けないな。
「……はあ、僕はぜんぜん駄目だよ」
つい、そう言葉を漏らしてしまう。
「そんなことばかり言わないでよ。兄さんは親切だしさ。それに、兄さんは私なんかには無い良い所をもっているよ」
妹はお世辞だろうがこんなふうに言ってくれたことがあった。
それでも僕は、やっぱり妹には敵わないと思っている。彼女は芸能界で世見川 美空という名で活動しており、ドラマでは重要な役もたびたび受け持っている。
妹は自分と同じ劇団にかつて入っていたがそこからテレビの世界へと入っていった。ちなみに現在、僕の同期も舞台で大いに活躍しており。近いうちにテレビ方面へと進出するとの噂が立っている。
同じ「演じる」仕事なのにこんなにも違うなは何故であろうか?
彼らと自分。
自分の演じる役柄が嫌いなわけでは当然ない。役にはモチベーションをもって演じている。
その気持ちは変わらない。
ただ、人を前にするとどうにも卑屈なことを言ってしまうのだ。
演劇は好きだ。演じているときは自分ではなくなるから。別の誰かになり、別の人生を生きることができるから。
それでも度々、何かの拍子に垣間見えるこの感覚。
どこかにつっかえる感覚。今現在の自分との気持ちの、不一致。疑念。
妹の活躍。舞台に立つ劇団の同期達。
僕はいつもそれらの人達を舞台の外から眺めていると、まるで一人夜の星空を見上げているような感覚になるのだ。
それは、孤独で、寂しく、それであっても嫌な感じはしない、なんとも不可思議な感覚であった。
「兄さんはさ、もっと自分のために演劇も物事もやっても良いと思うよ」
この日の終わりがけ、妹はそんなことを言うのだった。
「……それってつまり、どういうこと?」
「さあね」
妹は一人微笑むばかりで意図を教えてくれなかった。




