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二.

ある人に言わせれば、僕には不調和が漂っているのだという。

 日々劇団にいながら、つくづくと自分はどうも間が悪いんだなと思うことがある。

 

 自他ともにどんな批評を展開したところで、僕はどうにも他の同期達のように要領良くはできないという結論は出ていた。

 

 同期達が先を歩き自分が一番最後で通路を歩いているとする。僕の通りがかったタイミングで先輩が小物やら机やらを持って部屋から出てきて、丁度廊下にいたのが僕だけという理由から、荷物運びを手伝ったり、それを始めとして掃除や小道具整理を任されたりするのだ。いつかのときはどんな成り行きだったか、ある先輩の深刻な人生相談にのる展開となった。ちなみにその先輩とは、これまで主に業務連絡などで数えるくらいしか話したことのない関係であり、ただその時同じ場所にたまたま居合わせたのが僕であったため話を打ち明けたらしい。

 タイミング、か。

 いったい間が良いんだか悪いんだか。一周回って良いのではないか?

 そんな風に思ってみる。それでもそんなおちゃらけ思考の波もすぐさま引いてゆく。

 本当、人生って一体なんなのだろう。

 時々、そんな途方もないことを考えてしまう。


 

 ところで、僕には同期が二人いる。

その内の一人、雲雀野(ひばりの)という青年との話し。

 いつかの稽古場の雑談で、何かの拍子に彼から占いへ行くようにすすめられた時があった。

 「君、一度言ってみろ」と。

 僕が、「そういうものは別に興味ないからいいよ」と言うがなかなか引いてもらえない。

「君はそういうの信じるのかい?」

とこちらが問えば、

「いいや、僕は信じない。自分の人生は自分で直接目にしたもので決めるんでね」

と、相手に占いをすすめるわりになんとも割りきりの良い彼の人生論が返ってきた。「じゃあ、何で……」と真意を訊く。

すると、

 「お前が行ったらきっと面白いことになるはずだから、行け」

と、最終的に命令と受け取ってもよい強い口調で押されてしまった。彼は僕に何かの拍子でたびたび絡んでくる。どうやら僕の性質が彼にとっては面白いようで、まるで物好きな見物をされている気分だ。通常はニヤニヤと話しかけられ、ときどき真顔で指摘が入ったりする。雑談でも演技の面でも。

 先述している同期というのは主に雲雀野のことである。

 そんなわけで仕方がない。押しが弱く断れない性格の僕は次の日の休日、人生で初めて占いの店へと足を運んだのだった。仕方がないとはいうものの、きっとこのときの僕はあまりに暇だったのだろう。そうでもなければ一人で興味のない場所になどに行くことなどしないのだから。それでもなければ、自分の『つっかえ』のようなものをそういったスピリチュアル的なことによってどうにかできないものか、とどこかで内心期待していたのかもしれない。

 店内の内装は本当に絵に描くようなものであった。薄暗くてテーブルの上に水晶玉が置かれておりベールを被った人がやるような店であった。

 僕は緊張しつつ占い師の座るテーブルの前へと腰をおろす。

 テーブルを挟んだ向かい側の占い師はベールで隠れていてどんな顔の人なのかうかがうことは出来ない。

ベールの隅からはみ出した口元は薄暗い室内でも分かる毒々しい紅が塗られ、少し口角が上がっているようにも見える。

少し不気味だ。今更ながらなんでこんなところに来てしまったのだろうかと少し後悔。

 そんな気持ちを抱きつつ占いが始まる。そして、始まって早々、占い師が両手の平でかざしていた水晶玉がぱっくりと、割れた。

 僕とベールを被った占い師との真ん中で本当に真っ二つに。

 「…………」

 「…………」

 僕と、占い師との間でしばらく沈黙が漂う。

 その後、僕は店を以後出禁となった。

「貴方ハモウ来ルナ」と。若干片言な口調でそう言われた。

 まったく、僕が水晶割ったわけじゃあないのになあ。

 少し思ってしまう。

 その日の出来事を挙げるとすれば、占いもできず仕舞い入店早々追い出されたことと、水晶が突如割れた際に占い師に言われた「不調和ナ、間ガ悪イ空気ヲマトッテイル」という何かの不吉な予言と、最後言われた「モウ来ルナ」の二言だけを記憶している。

 帰り道、ふと疑問が浮かぶ。

 本当、なんで同期は占いなんて勧めてきたのだろうか、と。

 

 後日。彼にその日のことを訊かれたため「ああ、行ったよ」と僕はなんて事もなさそうに答えた。

 「で、どうだったんだ」

 そんなやけに期待の眼差しを向けてくる同期には悪いがどうにも答えることが、無い。

 彼が期待しているのはつまり、面白い人間の奇天烈な運勢という名の土産話であろう。かりに本当に彼が面白い土産話を期待しているとする。しかし僕は面白い人間などではないし奇天烈な運勢など持ち合わせていない、少しばかり不運に見舞われるくらいのなんら平凡な人格の人間である。

 ゆえに期待されても困る。

 「どうと言われても、どうにも」

 「なんだよそれ」

 「さあ。結局占いはできなかったんだ。ひとりでに水晶玉が割れたもんで」

 わざわざ足を運んだ甲斐が無かったよ、と僕は肩を竦める。

 それをきき同期はしばらく予想外の返答にポカンとしていた。それから冷静に指摘するように、それでいて茶化すようにこう言うのだった。

 「……いや君、人様の商売道具を壊しといてその言い草はいただけないねー」

 そんな言い方されると、冗談のつもりでも本当に僕が悪いような気がしてしまうではないか。本当に、違うと信じたい。

 ちなみに、その後店を出禁となったことを伝えると大笑いされてしまった。「さすがは世鷹君」なんて訳の分からないお褒めの言葉を授かった。何もさすがではない。

 本当に、この同期はどんなつもりで僕と接しているのだろう。多分、僕達の間には友情もへったくれもないだろう。雲雀野という同期はいつ話してもどうもとらえどころの無い、気の知れない奴なのである。


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