第5話:再会
砦の中庭。
鎧を纏った兵士たちが整列し、その中央を一団が進んでくる。
先頭に立つのは——真田。
かつての仲間であり、俺を捨てた男。
「……久しぶりだな、真田」
俺の声に、真田の足が止まる。
視線が絡む。
あの日、俺を見下ろしたときと同じ鋭さ……だが、微かに揺れていた。
「お前……生きていたのか」
「そう簡単に死ぬと思うか?」
背後の兵士がざわつく。
真田の隣に立つのは、長い金髪の女魔法使い——セリア。
俺がまだ勇者パーティーにいた頃、最も冷たい目を向けてきた女だ。
「真田、この男を知っているのか?」
セリアの声は刺すように冷たい。
俺はゆっくりと視線を向け、笑った。
「ええ、よく知ってますよ。裏切り者の顔は、忘れませんから」
空気が一瞬で凍りつく。
真田の部下たちは互いに顔を見合わせ、状況を掴みかねている。
「……何をしに来た」
真田の声が低くなる。
「荷物運びだ。ただの依頼だよ」
「……それだけか?」
「それだけだ」
会話はそれで終わった——ように見せた。
俺はわざとセリアの方を見て、囁くように言った。
「……そういえば、あの日、真っ先に俺を魔物の巣に押し込んだのは……お前だったな」
セリアの肩が微かに震えた。
周囲の兵士が彼女を見る。
疑念の種は、もう植えた。
真田は何か言いかけたが、後方から報告の声が上がり、彼は踵を返した。
「……次に会うときは、もっとゆっくり話そう」
俺はそう言い、去っていく真田の背を見送った。
「いい顔だ、契約者。あれはもう崩れ始めている」
深淵の主の声が、愉悦を帯びて響く。
心の中で呟く。
——次は、お前らの信頼を、根こそぎ奪う番だ。