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第1話:勇者失格

その日、俺は二度死んだ。


白い光が視界を覆い、気づけば見知らぬ玉座の間に立っていた。

目の前には王冠を戴く壮年の男、その両脇には鎧をまとった兵士たち。

足元には俺と、そして——幼なじみの莉奈、高校の同級生で剣道部主将の真田、無口なゲーマー仲間の悠真。

全員が困惑した顔で周囲を見回していた。


「——勇者様方、よくぞおいで下さいました!」


王の声が響く。俺たちは『魔王討伐のための勇者』として、この世界に召喚されたらしい。

最初は半信半疑だったが、周囲の熱気と王の言葉で、現実味がじわじわと押し寄せてきた。


——ここから、俺たちの物語が始まるんだ。

そう思ったのは、ほんの束の間だった。


三日後。

訓練場での能力測定の結果が告げられた瞬間、空気が変わった。


「……お前、魔力も戦闘適性もゼロじゃないか」

真田の声は、あからさまな失望を帯びていた。

莉奈は視線を逸らし、悠真は苦笑いを浮かべる。


「王国に不要な者に、食わせる飯はない」

兵士が吐き捨てるように言い、俺の両腕を掴んだ。


「待て、俺も戦える! 魔力がなくても——」

必死に叫んだが、返ってきたのは冷たい言葉だった。


「——悪いな。足手まといは要らない」

真田がそう告げ、莉奈は小さく「ごめん」と呟いた。


その瞬間、世界が音を失った。


気づけば、俺は深い森の奥へ連れて来られていた。

周囲を囲むのは巨大な魔物の群れ。

兵士は俺を地面に突き飛ばし、剣も盾も与えずに立ち去った。


喉が焼けるほどの恐怖と怒り。

——なぜだ、あんなに信じていたのに。


牙が迫る瞬間、漆黒の闇が視界を覆った。

耳元で、何かが囁く。


「力が欲しいか……?」


「……欲しい」

迷いはなかった。

命を差し出しても構わない。

奴らを——殺せるなら。


「ならば契約だ。我が名は〈深淵の主〉。お前の魂、喰らい尽くそう——」


全身を焼くような激痛と共に、俺の身体は変質していく。

視界が赤く染まり、魔物の咆哮が甘い音楽に聞こえた。


「……アハ、ハハハッ……!」

笑いが漏れる。

恐怖は消え、代わりに溢れ出したのは、狂気と愉悦。


——もう俺は、人間じゃない。


「覚えていろ……必ず、お前ら全員を殺す」


月明かりの下、紅く輝く瞳が夜を裂いた。

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― 新着の感想 ―
これ主人公視点から見たら、確かに酷いし、召喚と言う名の人攫いしといて、いざ能力ナシなら廃棄する王国は外道だし、何か斟酌する余地はゼロ。 ただ、同じ召喚仲間から見たら、じゃあどうせいと言う側面有る、まあ…
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