8月18~20日(1)
やっぱり株だよな~、
仕事帰りにコンビニに寄って、日経新聞を買って帰った。
株式欄を見るためだ。
知っている会社の株価を一つ一つチェックすると、安いものから高いものまであった。
大きく値上がりしたものから気の毒なくらい値下がりしているものもあった。
それを見ていると、〈これらの将来株価がわかれば間違いなく大儲けできる〉という確信が頭から溢れそうになった。値上がりする株だけを買えばいいからだ。簡単なことだ。
しかし、問題が二つあった。
一つは口座開設、
もう一つは資金。
株式投資をするためには証券会社に口座を開設しなければならない。
しかし、わたしはパソコンを持っていない。
スマホがあるだけだ。
スマホで口座開設ができるのだろうか?
スマホで株の取引ができるのだろうか?
そのあたりの知識は何も無かった。
それに疲れていた。
夜勤明けなのだから当然といえば当然なのだが、さっきから株式欄を見ながらあくびばかりしている。
ネットで調べるのはあとにして、睡魔に抱かれることにした。
*
残念ながら夢は見なかった。
熟睡していたのだろう。
寝たと思った途端、目覚ましが鳴ったという感じだ。
だから疲れはしっかり取れていた。
なので、いつもは布団の中でぐずぐずするのだが、今日はすっと起きることができた。
晩飯は決まっていた。
冷凍チャーハンをチンするだけだ。
いつものように水分は最小限しか摂らない。
よく噛んで唾液をしっかり出せばそれで十分だ。
さっと食べて、後片づけをして、ちゃぶ台の上に新聞を広げた。
そして、ネットにアクセスして、証券会社の口座開設がスマホでもできるかどうか調べた。
スマホでもできることがわかった。
それもほとんどのネット証券で出来るらしい。
となれば、どの証券会社を選べばいいのか?
使いやすさや手数料を比較してみたが、そんなに大差はなかった。
だから、クチコミを見て、一番評判の良さそうな会社に決めた。
早速申し込み手続きを始めた。
メールアドレスを送信すると、認証コードが返信されてきた。
次は入力だ。
名前や住所、電話番号など個人情報をインプットして、間違いないか確認した。
それから金融機関の登録をし、
各種規約を確認し、
〈ネットで口座開設〉を選択した。
これで申し込みが完了と思ったら、そうではなかった。
本人確認書類の提出が必要なのだ。
個人番号カードをスマホで撮影してアップロードした。
次に、〈特定口座・源泉あり〉にチェックを入れた。
こうしておけば確定申告の必要がないらしい。
証券会社が勝手にやってくれるのだ。
〈楽ちん楽ちん〉と呟きながら、初期設定を終了した。
あとは口座開設完了通知が送信されてくるのを待つだけだ。
*
しばらくして返信メールが届いた。
口座開設ができたらしい。
必要事項を入力すると、また認証コードが送信されてきた。
あとは取引パスワードを設定すればすべて終了で、明日から株取引ができるということだった。
これでよし。
次は資金。
貯金はほとんどないので借りるしかない。
とすると、消費者金融か。
う~ん、多分すぐに貸してはくれるだろうが、金利が問題だ。
う~ん……、
しばらく唸っていたが、それでは埒が明かないのでネットで調べることにした。
すると、60日間利息無料という文字が目に飛び込んできた。
〈えっ、本当?〉と何度も読み返した。
しかし、嘘ではなかった。
60日間無料のようだ。
これなら問題なさそうだ。
金利の心配をすることなく借りることができる。
よし、決めた。
明日お金を借りて証券口座に送金することにした。
あとは、未来へ行って株価を確認することだけだ。
未来の駅の売店で日経新聞を買えばいいのだ。
簡単だ、と思った瞬間、嫌な予感がした。
買えるかもしれないが、その新聞を現在に持って帰ることができるのだろうか?
目が覚めた時にその新聞を持っているのだろうか?
それはあり得ない。
夢の中の出来事は夢が終わると共に消える。
形のある物を持って帰ることはできない。
ということは……覚えて帰るしかない。
でも、それが記憶に残っているのだろうか?
前回ははっきりと思い出すことができたが、いつもいつも思い出せるものだろうか?
う~ん、そうとはいえない。
たまにごく一部を思い出すことがあるだけだ。
急に不安になってきて、それがどんどん膨らんできた。
すると、夢という形の中で見た未来の株価の信憑性に疑問が湧いてきた。
その株価は本当に未来の株価なのだろうか?
間違いないのだろうか?
もしそれが本物でなかったとしたら……、
急に恐ろしくなった。
勢いでネット証券に口座を開設したが、もっといろんなことを確認しなければヤバイと思った。
それがすぐに〈絶対にヤバイ〉に変わったので、消費者金融でお金を借りるのは見送ることにした。
先ずは未来で見る株価が本物であるかどうかの確認が先だ。
欲に溺れて早まってはいけない。
自らに強く言い聞かせた。