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(3)

 

 二度目の休憩時はわたしが話を主導した。

 彼に主導権を渡したらまたエッチな話ばかりになってしまうからだ。

 イートインスペースに座った瞬間、口火を切った。


「あの~、もしもですよ。もしも松山さんが未来へ行けるとしたら、そこで何をしたいですか?」


 いきなりの質問に驚いたのか、〈ん?〉というような表情を浮かべてわたしの顔をまじまじと見たが、砂糖とミルクたっぷりのホットコーヒーをひと口すすってから、「未来?」と怪訝そうな声を出した。


「そうです。未来です」


「タイムマシンでか?」


「それでもいいですし、電車でもいいです」


「電車?」


「いえ、例えばの話で……」


 余計なことを言ってしまったと思って口を噤んだが、松山さんはわたしの動揺には気づかなかったようで、コーヒーをすすってうまそうに飲み込んだ。

 そして、「未来ね~」と呟いたあと、左手の親指と人差し指と中指で顎を持って遠くを見つめるような目をして、すぐに「株かな~」と意味ありげな表情を浮かべた。


「未来の株価がわかったら間違いなく大金持ちになれる」


 そうだろう、というふうに同意の視線を投げた。

 もちろんわたしは頷いた。


「そうですよね。やっぱり株ですよね」


「ああ、株だ。絶対株だ。でもなんでそんなことを訊くんだ?」


 ふと我に返ったようにわたしの顔を覗き込んだ。


「いや、なんでもないです。さっき仕事中にふとそんなことを思ったもんで」


 しらばっくれて彼から視線を外すと、声が追いかけてきた。


「そんなつまんないこと考えても面白くないだろ。未来なんて行けっこないんだし」


「まあ、そうですけどね」


 これ以上未来へ行く話を続けていると変に疑われてもいけないので、

「ところで、松山さんは仕事中どんなことを考えているんですか」と話題を変えた。

 すると、何故か舌なめずりをした。


「俺か? そりゃ~決まってんだろ。アッコちゃんとユリちゃんとマリアちゃん」


 よく行っていた風俗の女の子のことばかり考えているのだという。


「でもな、店が閉まって、あの子たちもどっかへ行っちゃったんだろうな。みんな田舎から出てきた子だからな」


 もう二度と会えないと思うと寂しいのだという。


「風俗、風俗ってみんなバカにするけど、結構いい子が多いんだよな。変に擦れた素人女よりもよっぽど気立てがいいと思うよ」


 顔に似合わない優しい表情になった。

 それで、松山さんて結構いい人なんだなと思ったが、それは大間違いだった。

 いきなり、「やりて~」と大きな声が飛び出したのだ。

 慌てて彼の口を塞いで声を殺したが、後の祭りでしかなかった。

 品出しをしていた店員にじろりと睨まれたのだ。

 わたしは恥ずかしくなって、飛び出すように店を出た。



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