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プロローグ

 

 不思議な電車に乗っていた。未来行き。もちろん現実ではない。でも夢でもない。形として夢の中にいるが、夢ではないのだ。

 乗車しているのはわたし一人だった。座席も一席しかなかった。窓から外を見たが、何も見えなかった。星が見えれば銀河鉄道なのだが……、

 いきなり何かとすれ違った。過去行きの電車だった。誰かが乗っていた。それはよく知っている顔だった。毎日見ている顔。そう、わたしが乗っていたのだ。つまり、未来行きの電車に乗ったわたしと過去行きの電車に乗ったわたしがすれ違ったのだ。

 どういうことだ? 何がどうなっているんだ? と思うかもしれないが、これは事実だった。もちろん現実にはこんなことは起こらない。起こりえない。しかし、形としての夢の中では何があってもおかしくないのだ。説明のつかないことが次々に起こるのが当たり前なのだ。これを信じるか信じないかはそれぞれの考えに任せるが、信じて受け入れることが肝要だとわたしは思う。

 常識に縛られてはいけない。一度も経験したことが無いからといって疑ってはいけない。世の中には不思議なことがいっぱいあるのだ。ただそれを知らないだけなのだ。だから自分の狭い了見で判断してはいけない。そのまま素直に受け入れることが肝心なのだ。未来行きの電車と過去行きの電車があり、そのどちらにも乗れるし、同一人物がすれ違うこともできる。それがありうると信じることが大切なのだ。それを受け入れた人だけが未知の世界へ旅立つチケットを手に入れることができるのだ。


 ん? 

 チャイム? 


 音がした方に顔を上げると、ドア上のディスプレーに次の停車駅が表示されていた。それはカレンダーのような駅名だった。そして、かつて誰一人降りたことのない駅だった。


 何故わたしはそこに行くのだろう? 


 頭を捻っていたら、突然、物凄い熱風が送風口から噴き出してきた。息をするのも苦しいほどの熱風だった。すぐに全身が汗まみれになり、頭痛と吐き気が襲ってきた。


 ヤバイ! 

 もしかして熱中症か? 

 早く外に出なければ!


 しかし、動けなかった。

 力が入らない。

 動かそうとしても手も足も動かせない。

 それでも無理矢理動かそうとすると、筋肉がピクピクしてきた。


 痙攣か?


 と思う間もなくこむら返り(・・・・・)が起こった。


 痛い!


 のたうち回った。すると更に熱を帯びてきた。皮膚が赤くなっている。息の仕方もおかしい。


 うわ~!


 絶叫した瞬間、すべてが消えた。


        *


 心臓がバクバクしていた。パジャマ代わりのTシャツがぐっしょりと濡れていた。嫌な夢を見たせいだと思ったが、それだけではなかった。部屋の温度が異常な状態になっていた。たまらなくなって体を起こすと、シーツもびっしょりと濡れていた。気持ち悪くなって布団から抜け出したが、ちゃぶ台(・・・・)の前に座ると、動けなくなった。体が重くて、どうしようもなかった。何をする気もならないので、しばらくボーっとしていた。それでも、時間だけは見ておこうと、スマホの画面をタップした。12時20分と表示されていた。


 ということは……、


 夜勤が終わったのが6時で、その後、酒を飲みながらご飯を食べて家に帰ったのが7時30分。そして、寝たのが8時過ぎ。つまり4時間ほどしか眠っていないことになる。道理で体が重いはずだ。どっこいしょ(・・・・・・)と立ち上がったら、顎が外れそうなくらいの大あくびが出た。


 服を着替えて、顔を洗うと、少し気分が良くなった。冷蔵庫から牛乳を取り出して、パックの口から直接ゴクゴク飲むと、体の中から冷えてきて、ボーっとした感じがなくなってきた。


 落ち着いたので、テレビをつけた。画面には安倍首相の顔が写っていた。しかしそれもすぐ終わり、女性アナウンサーと女性の気象予報士が国内最高気温のニュースを伝え出した。41.1度だという。


 はっ? 

 41.1度? 

 何それ? 

 体温より高いって、おかしくない? 

 それも浜松で。

 はっ? 

 なんで? 

 フェーン現象で急激に温度が上がっただって? 

 止めてくれよ熊谷じゃあるまいし、

 あの熊谷に並ぶなんて信じられない……、


 ブツブツ言いながらエアコンを見上げると、冷風も出さずに黙ってわたしを見つめていた。


 勘弁してくれよ! 


 毒づきながらタイマーの切れたエアコンと羽を休めている扇風機を急いでONにした。



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