22.鑑定士と英雄、これから
詳しい説明は王宮に行ってから。そう言われてクリスとベルマンは馬車に押し込まれ、見張りもかねてローグも一緒に乗り込んだ。
アクレシスはトットミリアが「むさくるしいのはいやだ」と一緒の馬車についていき、それを見たヤナは、魔女がアクレシスに変なことをしないように見張る、と言って2人についていった。
ケディは後始末を手伝うと港に残った。
「秘匿技能を持つ人間を一度に三人、悪魔との契約者を引き込んだといったら部長に褒められるだろうなぁ」
ローグの言葉にクリスはなんて返していいかわからなくなり、窓を見る。
見るといっても、分厚いカーテンで閉められた車内だ。揺れるカーテンの隙間から、通り過ぎる街並みが少し見える程度だった。港から王都は半日くらいの距離だ。
夜通しかける馬車の馬はトットミリアの召喚魔獣なのだという。
ごとごととした安定した走りは眠気を誘うのか、ベルマンはこくりこくりと眠気にいざなわれている。
「ベルマンが獣化、君が鑑定、ジュベールが探索。……王族は秘匿技能を複数持つというが、普通の貴族は一つしか持てないものなのか?」
「そうだな。複数秘匿技能を持つことができるものはそもそも魔法の扱いに長けている。魔女に近い存在になるだろう。ただ、確かに王族の中には複数の秘匿技能を持つことができる才の存在が数世代に一人は出てくる。それが、王になるのが旧王家の習わしだった」
これくらいはすでに知られているだろう。
革命家はもともと貴族の妾腹だ。王宮にも来たことがあるし、今の政権には秘匿技能を得られなかったがゆえに冷遇されていた貴族も属している。
(王族に受け継がれる秘匿技能は、複数持てることよりも、先導者や認識操作といった容易に人を操ることができる技能を持ち得るところが一番危険なんだ)
世間で知られる屈強な不敗の獣化戦士よりもよほど危険な秘匿技能である。強制継承に使う以外にも、危険な使い道は幾多にもある。
「いまは、結構有用に使えているのかもしれない……多分」
クリスはつぶやいて、向かいの席で首をかしげるローグを見て少しだけ、ほんの少しだけ頬を緩めた。
とある作家の小説のファンだという彼を見ながら。
(あなたの書く小説は、皆の楽しみになっているようです。また、挨拶にいきますね、殿下)
「なぁ、その眠くなければもっと話がしたいんだが、いいだろうか」
ローグはクリスをちらちらと見ながら言った。クリスは首をかしげる。
「何の話がしたいんだ」
「足の怪我は」
「トットミリア……さんの治癒がよく効いてる。ヤナももう私のすることはないっていっていたから、今はまだ痛むけどすぐに治るだろう。」
「そっか!!それはよかった!」
「あぁ。……で?」
「え、あとは、えっと、その、クリスの好きな食べ物は何かとか……」
まったく真正面からしか来れない男だな。そう思いつつ、クリスはため息をつく。
知り合う、分かり合う。まぁ、少しは考えてはあげよう。
まずは話をしよう。お互いのことを知るために。
自分の殻をこじ開けるために。新しい未来を得るために。
全てはそれから始まるのだ。きっと。
◇◇◇
ここは花屋で、本屋。どっちにつかずのこの店に訪れるものは少ない。
時たま迷い込む話好きの客は聞き上手な店主に話す。
曰く、国家保安部が大掛かりな捕り物をして、無事、古代遺物の不法取引と人身売買を防いだのだとか。
そして、貴族の血を引く幼い少女が救われ、珍しい秘匿技能を持つ彼女は保護もかねて国家保安部にいるんだと。
――貴族貴族って言っても、ピンキリだからねぇ、ここだけの話だけど。私の祖母は貴族のお屋敷で働いていたけど、よくしてもらったっていっててね。その子も少しは安心できるといいけど。
常連の噂に店主は興味深そうに笑った。
客が帰って、店主は庭へ赴く。
そこには二つの椅子と、テーブルがある。日陰の椅子に座って、沸かした湯をティーポットに、蒸らしてから紅茶をカップに注ぐ。
長い付き合いの友人は新しい道を選んだようだ。
庭に咲く大樹を見上げて、瞳を伏せる。
「君の選択に祝福を。今度会えた時に冒険の話を聞かせてくれたらうれしいな」
店主はつぶやいてから、紅茶を飲んだ。
本編完結です。
近日中に外伝かけたらいいな(願望)
お付き合いいただきありがとうございました。




