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19.英雄と魔具

「ジュベール、やめろ」


クリスがジュベールに声をかけると、彼はローグの後ろにいるクリスを見た。


「はっ、他力本願で何より。英雄がいることで強気になりましたか?ベルマンは役に立ちませんでしたからね」


「……彼はなかなか短気なようだな」


 ローグはクリス達を庇うよう半歩前に出る。

 その動きにジュベールの眉間のしわが深まった。


(無意識の挑発になっているな。さすが英雄)


 クリスは心の中でつぶやいてからジュベールの魔銃を見る。

 ジュベールの魂が吸われているのがわかる。あんなもの一体どこで手に入れたのか。


(まぁ、トオゴだよな)


「あの夜僕たちを撃った銃だな」


 クリスは言った。


「ええ、なかなか優れものです」


 ジュベールは唇を歪ませた瞬間、構えたままの魔銃を撃った。


「危ないな」


 こともなげにいい、ローグはクリスたちを庇いながら持っていた槍で弾を弾く。

 魔具使いの英雄ローグと古代遺物を持っただけのジュベールでは、勝敗は明らかだ。

 ただし、ローグがクリスと意識のないベルマンをかばってさえいなければ。

 クリスは足元を見ながら、ジュベールが現れる前のローグとの会話を思う。


  ◇◇◇


「ジュベールの銃は魔力の込め方で、攻撃手段を変えることができる。真っ直ぐであったり、曲がる弾も、当たれば飛び散るようなものもできる。ただ、特異な攻撃であればあるほど、魔力消費が激しいから、そう何度も攻撃できまい」


 ローグたちの襲撃が来た今、クリスとベルマンのところにくるのはジュベールのはずだ。

 トオゴ達商人は客たちと逃げることを優先するだろうし、ジュベールはすべてを取り仕切りたい性格だから、自分のかかわるクリスとベルマンに関しては彼自身が決断を下したがるはずだからだ。

 その彼が持つ武器といれば、ローグと出会った夜に持っていたあの魔銃になるだろう。 


「魔力切れをまてばいいのか?」


 ローグは槍を振る。その動きで、曲がる銃弾がはじくことができるといいたいのだろう。


「やり過ごすなら、それでもいい」


 クリスは言葉を濁した。

 確かにジュベールはクリスを裏切っただけではなく、この世界に影響を与えかねない危険な思想を持っている。

 だから、自滅でもいいのだ。

 あの手の古代遺物は魂を吸い尽くすまで暴走する。だから、彼がここに来たらローグの後ろに隠れているだけで、いずれジュベールは魂を吸い尽くされて廃人になる。

 生きながらの死。奇跡のない限り、回復は見込めない。


 ただの甘さだ。


 でも、話したかった。ほかにも道はなかったのか、彼に聞きたかった。

 強いローグだったら、その道を選ばせてくれるだろうか。

 何も言わず、いや、言えないまま、彼を見る。

 視線があう。

 彼はクリスの眼をみて笑った。


「そうだな。……やつの古代遺物を取り上げるか、やつを無力化すれば良いのか?」


「無理なら良い。僕はともかく、君は相打ちになる必要はない」


「相打ち?」


 ローグはクリスを振り返って、首を傾げた。

  

「俺が負けるわけがない。まぁ、今回は盾を持ってこなかったせいで短期決戦はできないけどな」


 ローグはまた、銃弾を槍ではじいた。


(こいつは……)


 とんだ自信家だ。

 でも、それを彼ができるというならば、信じよう。


  ◇◇◇


 クリスはローグに言った。


「……ローグ、さっき言ったとおりに」


「……アンナマリア、頼む」


 ローグは槍にささやく。子供をたしなめるような、柔らかな声。

 ベルマンとクリスの安全さえ確保できれば、ローグは瞬時にジュベールを無力化できる。ならば。


(賭けだ)


「何をする気だ」


 ジュベールは叫び、魔銃を撃つ。ローグが銃弾をはじき、そのままクリスを振り返る。

 できるのか――、声なき問いにクリスはうなずく。


「いまだ」


「――わかった!」


 クリスの言葉にローグは従った。

 彼の槍が床に円を描くように裂く。

 動きのまま、床に穴が空いた。

 ローグは槍を持ち直し、クリスはベルマンの体をつかんだまま、下に落ちる。


「な……!」


 ジュベールの声が聞こえる。

 クリスはベルマンを抱えたまま床に当たる衝撃に備えたが、空中でローグの腕に捕まえられていた。

 腰に手が周り、引き寄せられる。


 床に降り立った時、ローグが衝撃を吸収し、クリスの足はくじかずに済んだ。


「大丈夫か」


「あぁ」


「よかった」


 ローグはクリスたちをチラリと見てから、上を見上げた。

 ジュベールは離れたところにいた。穴から降りてくるにしても、十数秒はかかるはず。


(くるか……)


 クリスは周りを見渡してから、ローグに言った。


「ベルマンを端に寄せてくれ、それから君はジュベールに備えろ」


「ここが」


「そう、オークション会場だ。品物は準備されているといっていた。――飾られていると」


 鑑定で見通すと、床には開く仕掛けがしてあったのだ。

 広間になっている部屋の、檻が降りるところの周りには美術品のように古代遺物たちがおかれている。その真ん中にクリスとベルマンの入っていた檻が降りてくる、そういう仕掛けだったのだろう。


「これじゃない、これでも――」


 真ん中に走り、周囲を見渡す。壁沿いに飾られるように置かれた古代遺物は二十ほど。

 いくつかの古代遺物にはなかなか珍しいものもあるが、しかし、クリスが欲しかったのは別のもの。

 ジュベールもトオゴも自信を持っていた。あれはクリスとベルマンだけが目立つ商品ではなく、ほかにも何かあるはずなのだ。


(船にあったのであれば、何か……)


 昔、ヤナに聞いたことがある。もっと魔法が世に広まっていたころの便利な魔法の話を。


「これだ!!」


 クリスは走る。慣れないヒールに転びそうになって、どうにか立て直し靴を脱ぎ捨て走る。

 目的のものが入れられていたのは、大きな額だった。

 ガラスが邪魔で触ることができない。大きい。

 クリスは下から持ち上げ、壁から外そうとするも、身長が足りず、取り上げることができない。

 

「くそッ、こんのッ」


「クリス、俺が――」


「ローグ、お前はそこにいろ!」


「こんなところに逃げ込んでも、逃げられませんよ」


 ジュベールの声がした。

 常用している古代遺物で肉体強化をしているのだろう。ジュベールはしなやかに会場に降り立った。

 構えている魔銃には魔力がたまりつつあった。この短時間の間にジュベールの目元は落ちくぼみ、瞳は精彩を欠いている。そのくせ、口元は笑みを浮かべていた。


 ローグが槍を構える。しかし、槍は槍だ。防具ではない。魔弾の効果によっては防ぎきれない。


(はやく、――早く!!)


 クリスはどうにか額を壁から取り上げ、重さに倒れ込みながら、それを床にたたきつけた。ガラスが床に飛び散る。

 足がガラスのかけらを踏むのもかまわずに、額を持ち上げ、古代遺物に手を伸ばす。

 ああ、さすが、古代遺物。これでも壊れない。だから、


「……死ね!みんな、死んでしまえ!!!」


 ジュベールが叫んだ瞬間。


「つなげ、鏡!」


 クリスの声が響いた。

 会場に光が満ちる。クリスは目を細め、鏡をかざしたまま、魔力を込めた。


「な」


 ジュベールは目を覆う。撃てばいい。撃つだけだ。眼なんて、別に見えなくたってかまわない。

 彼は引き金を引いた。

 撃てば、この部屋ごと吹き飛ばされる。そういう使い方だった。ただ、あとすこし、魔力が足りない。息が切れる。

 そのはずだった。


「撃たせない」


 声がした。


「うるさい!」


 声の方に片方の魔銃を向けた。魔力を籠めていないただの銃撃だ。しかし、それははね返される。


「どうなって――!」


「そっちの魔銃はただの魔銃か。こっちが危険な方と」


 視界に入ったのは、英雄。

 英雄は槍以外のものを持っていた、それは、鈍く光る、重みを感じるもの、銀の盾。


「どこからそれがッ」


「秘密だ」


 ローグは盾を投げる。盾は意思があるように――否、魔具であるからに意思があるのだ。――移動し、クリスを守るように立った。

 クリスは走って何かに覆いかぶさる。

 何かではない、あれは、ベルマンか。

 なんで。彼らは、ボスはあいつを。おれが、こんなにくるしいのに。


「どこを見ている」


 ローグの声に、ジュベールは叫ぶ。


「貴様ッ」


 何もかも、気に喰わない。

 撃つ。でも、その銃撃は届かない。一閃、ただ撃つだけの魔銃が槍にはじけ飛ばされる。

 英雄の動きは素早い。

 身の丈以上の槍を持っているのに、重さがないかのようにそれを操り、ジュベールに肉薄する。

 うそだうそだ。もう、そんな近くに――

 残された魔銃が英雄の槍の一撃で手を離れる。


「お休み、ジュベールさん」


 声がした。

 ジュベールの意識は闇にかられた。

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