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第2話 The Sound of Silence

※注意:一部少しリアルなトラウマ表現があります。

精神に病をお持ちの方は、この先をお読みにならずに申し訳ないのですがブラウザバックをお願いします。

 電車を降りた時には、もうすっかり陽は赤々としていた。


 最後に祖父の家に来たのはもう何年も前の話。

祖母の葬儀の時の事で、さらに言えば父の車で来た。

その為、最寄り駅がここだという事は知っているが、駅から祖父の家までの道のりがわからない。

近所まで行けば雰囲気で何となくわかるのだろうが……


 ちょっと田舎の駅を舐めていたと大いに反省している。

電車を降り駅を出たところ、四方が山という景色とちっとも車の通らない道が横たわっていただけ。

人っ子一人いやしない。

当然のように駅も無人駅。


 駅前の道でキョロキョロとしていると一台の軽トラックが走ってきた。

声をかけようか迷っていると軽トラックはあっさりと通り過ぎてしまった。

だがどうやら運転手の方がこちらに気付いてくれたらしい。

少し行ったところで急停車し、こちらに戻って来てくれた。


「あれ? もしかして名越(なごえ)の爺さんとこのお孫さんかえ?」


 見た事のあるおじさんがトラックから顔を出した。

名前は知らないが、確か亡くなった爺さんの家の近所の方だったはず。

幼い頃、遊びに夢中になり迷子になった所を何度か保護してもらったのを覚えている。

ご無沙汰しておりますと挨拶をすると、おじさんは顔を見るのは何年ぶりだろうと言って笑い出した。


「どうしたんだ? そんな大荷物抱えて。まさかと思うが爺さんの家に行く気じゃねえだろうな?」


 そのつもりだと言うとおじさんは鼻で笑った。


 とりあえず荷台に荷物を載せて車に乗れと言ってくれた。

おじさんの話によると爺さんの家は駅から車で十五分ほどいった場所にあるらしい。

車で十五分というだけでも、徒歩だったらいったいどれだけかかるのかという距離である。

ただしその十五分は今目の前に見えている山を越えた向こう。

当然バスなど通っていないし、歩いて行ったら何時間かかるかわかったものではない。


「しっかし、どうするつもりだったんだ? たまたまホームセンターに用があったからあそこ通ったけども、あんなところ普段は一時間待っても車なんか通りはせんぞ? しかもこんな時間に」


 最寄り駅まで来れば何とかなると思っていたと言うと、おじさんは田舎を舐めるなと言って笑い出した。

舐めていたわけではない。

わけではないのだが、かろうじて舗装されているという程度の細い道、それも街灯も無い道をひた走る軽トラックに、明らかに見積もりが甘かったと反省はした。



 少しだけ開けた場所に出たらしく、それまで黙っていたカーラジオが電波を受信。

誰かリスナーのリクエストだろうか。

サイモン&ガーファンクルの『ザ・サウンド・オブ・サイレンス』が流れている。


 木々の騒めき以外何も聞こえない、どこまで行っても木々しか見えない、そんな道を軽トラックがひた走る。

既に陽は落ち、街灯の無い道は真っ暗闇。

その真っ暗の道をトラックの薄黄色い明かりだけが周囲を照らしている。

サイモンとガーファンクル、二人の少し高い声のハーモニーの中で。



”再就職の時、履歴書にうちの会社の名前書くなよ。お前みたいな社員がいたなんてうちの会社の恥だからな”



 一山を越えた先で、やっとおじさんの家に到着。

見覚えのある家、その表札でやっとこのおじさんが普恩寺(ふおんじ)さんという方だと思い出した。


「名越さんちはこの先だけど、どうするんだ? こんな時間じゃ電気も引けないだろ? どうする? 今日はうちに泊まるか?」


 トイレはいわゆる汲み取り式だから問題無い。

どこの家庭もプロパンガスを購入してはいるが、炊事も基本は土間の(かまど)で薪でやれなくはない。

だが、この辺りは水道は通ってはいるのだが、基本飲み水以外は全て井戸水を汲み上げて使っており、汲み上げポンプが電動式なのだ。

それに暫く使っていなかった井戸は水を出しっぱなしにして入れ替えないと病気になる恐れがある。

もしかしたら根本的に井戸の掃除からやらないと使えないかもれしない。

そう普恩寺のおじさんは説明した。


 御厚意に感謝して、部屋の一室を借り、そこで一泊させていただく事にした。

普恩寺のおばさんも自分の事を覚えていてくれたようで、懐かしい顔だと言って喜んでくれた。



 布団に入るが、外の虫や動物の合唱がやかましく、どうにも寝付けない。

ふと先ほどカーラジオから流れていた、サイモン&ガーファンクルを思い出した。

携帯電話で曲を探し、耳にイヤホンを当てて二人の歌声に心を静める。


 静かな音楽が、過去の出来事を否が応でも思い出させる。

あの暗闇に飲まれそうになるような出来事を――



 ◇◇◇


「趣味はレトロゲームです。特にPC98時代のゲームが大好きです」


 会社に入社した時、自己紹介でそう言った。

レトロゲームが好きというと多くの人はファミコンのゲームが好きと思うらしい。

だが正直言ってファミコンのゲームにはあまり興味はない。


 ファミコンのゲームはレトロではなくしょぼいと感じてしまう。

PC98とファミコンは、ほぼ同じ時代に発売されていた。

にも関わらずゲーム性にしてもグラフィックにしても圧倒的なのだ。


 だが世間はファミコンを選んだ。

理由は至極単純で、ファミコンに比べてPC98は異常なほど高価だった。

ぼったくりだったと言っても良い。


 ファミコンがテレビに直接接続してカセットを差し込んでスイッチを入れればすぐにゲームができたのに比べ、PC98はゲーム機ではない為それなりの知識が必要であった。

さらにゲームに特化したファミコンにはコントローラーが付属していたが、PC98はキーボードのみ。

キーボードをカタカタ操作してゲームをするという中々にハードルの高い操作性だった。

ファミコンに比べ美しいグラフィックというが、それはテレビではなく高解像度の専用のモニターを使っていた為で、当然元からあるテレビに接続するのに比べれば高価となる。


 さらにゲームもファミコンのカセットに比べれば圧倒的に高価だった。

しかも何が酷いってその高価なゲームが消耗品であるフロッピーディスクで提供されていたという点。

今のようにゲームがデータで配布されるわけではないので、フロッピーディスクに傷が付いたり、経年劣化で磁気が弱くなったら高価なゲームが台無しになってしまっていたのだ。



 昨今、PC98時代のゲームがプレーできる環境が徐々に出始めている。

できれば違法性のあるものは避けたい。

そうなると、そういうサイトにお金を払ってプレーという事になる。

ただ違法サイトだと色々なゲームを網羅しているのに、商用サイトのラインナップは正直言ってガッカリなレベルである。


 最初に興味を持ったのは、今でも続編が発売され続けているシリーズの原点のような作品がPC98で発売されていたという事を知ったからであった。

とあるロールプレイングゲームのシリーズが好きで、その初期作がPC98のレトロゲームサイトでプレーできる事を知った。

そこから興味を持ちPC98のゲームのカタログサイトを眺めるようになった。


 ファミコンのゲームもアクションゲームからシューティングゲームにブームが移り、ロールプレイングゲームに移り、さらにシミュレーションゲームに移ったように、PC98のゲームにもブームというものがあったらしい。


 キーボードを使うPC98のゲームでは、アクションやシューティングよりも、どうやらロールプレイングゲームやシミュレーションゲーム、アドベンチャーゲームと相性が良かったらしい。

ファミコンでは根強くアクションゲームやシューティングが残り続けたのに、PC98ではそれらは廃れていったように感じる。

あまり後期の作品には見られない。


 ファミコンではイマイチだったように感じるが、PC98では3Dダンジョン型のロールプレイングゲームが多数発売されているし、ファミコンではあまり人気の無かった国盗り型のシミュレーションゲームが数多く発売されている。

一番目を引くのは育成シミュレーションというジャンルのゲームが多い事だろう。



 会社の同期の中にもPC98のゲームに詳しい人がいた。

その同期――金沢(かねさわ)はPC98好きならお薦めのゲームがあると言ってとあるゲームを薦めてきたのだった。


 当時は鉄道のレールを引いて鉄道を走らせるプラレールをゲーム化したようなゲームにはまっていたのを覚えている。

だから飽きたらやってみると言って後回しにしたのだった。


「都市の育成なんかじゃなく、女の子を育成してみたくないか?」


 金沢はどうやらアプローチを変えないと駄目だと感じたらしい。

さすがこういうところは営業部に配属になるだけの事はある。

自分の薦める物をアピールする能力に長けている。



 最初に紹介されたのは一人の少女を育てて大人になった後でどんな職業につくかを楽しむ、かつてPC98で一世を風靡した非常に有名なゲームだった。


 今回は聖女になった、今回は武器屋の女将になったと言って金沢と笑い合った。

金沢もうちは教師になった、夜の蝶になったと言って笑っていた。



 あの頃は本当に毎日が楽しかった。

夢にもやる気にも満ち溢れていて。

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