第96話 蒼月邸での鍛錬 -36-
ボタンを認識したからか、昨日のように勝手に発動されなくなっただけでもありがたい。
初めて見るボタンをじっと観察する。
「これは・・・なんだろう・・・」
思わず呟いた私に、小鞠さんが問いかける。
「どうしたのじゃ?」
「あ・・・すいません、見たことのないボタン・・・あ、仕掛けが増えていて・・・」
そこまで言って目を開ける。
一体どうした?と言う顔をした結界の中の三人に、
「昨日、輝夜石に何かを保管したときに、押したら何かが動きそうな仕掛けっぽいものがあるというお話をしたのですが・・・」
何か書くものあるかな?と辺りを見回して、鏡台の近くに置きっぱなしになっていた人間界から持ってきたショルダーバッグからペンとメモを取り出す。
それから、そこに、結界を挟んで座る三人に見えるように絵を描いた。
「これは停止、これは一時停止、これは再生、これは削除、そしてこれは映写機のようなもので、おそらく輝夜石の効能の一つである「遠隔で再生する」ということを表すものだと思うんですけど・・・」
映写機のマークについては昨日は押せなかったからあくまでも予想だけれど、多分それで合っているはずなので後で試したいところだ。
「もう一つ・・・こんなのがあるんですよ・・・」
そう言いながら、メモに絵を描く。棒のような線の先っぽにキラキラと輝く星がいくつか書かれている、そんなイメージだ。私の感覚では、「魔法の杖」のように見える。
「これ、なんだと思います?今は押せないようになってるんですけどね。」
結界の中の三人に問いかけてみるものの、あまり反応が芳しくない。
「むしろ、琴音殿はどう思うのじゃ?これらの記号は琴音殿の概念で表現されておるゆえ、我らにはわからんと思うぞ。」
確かに言われてみたらそうかもしれない。なんなら再生や削除もわからないだろうから。
「私にとっては・・・なんというか、魔法の杖というか・・・こちらの世界風にいうと妖術を発動するための杖、ですかね?_」
小鞠さんに言われて思った通りの説明をすると、小鞠さんは、
「今の状態じゃなんとも言えんなあ・・・まあ、これはおいおい検証していくのがよいのではないか?」
と困った顔で言った。
まあ、そうだよね。色々予想外のことが起きているみたいだし、またおいおい検証していくことにして、
「わかりました。じゃあ、最初の話に戻って、火球投げが発動できるか試してみますね!」
そう言ってまた少し離れたところに座り直した私は、眼を閉じて焔くんの火球投げが保管されているキャビネットの再生ボタンを押す。
「わああああ!」
すると、昨日と同じように、私の身体がかすかに揺れて、左手に握った輝夜石から、火の玉が3つ繰り出され、部屋の中のどこかにあたってボンっという音がした。
それからすぐにまたモクモクと煙が立ち、しばらくするとその煙も引いた。
それを確認して、小鞠さんが結界を解く。
「これで一応、琴音殿の静寂と癒しの結界に吸収された術が輝夜石に保管されるらしい、ということはわかった。」
小鞠さんが顎に手を当てて、ふむ・・・と言いながら続ける。
「しかし・・・どこでもそのようになるかはまだ確証がないゆえ、裏庭と居間でも試してみたいのう。」
その言葉を受けて、私たちは裏庭と居間に移動して、今と同じことを繰り返したけれど、予想に反して、裏庭でも居間でも術の保存はできなかった。
「琴音殿の部屋限定か?」
小鞠さんは少し訝しげな表情を見せながら、蒼月さんに問いかける。
「蒼月。何か心当たりはあるかえ?」
聞かれた蒼月さんも何かを思案しているような表情になるものの、思い当たることがないように見える。
すると、ふと焔くんが放った、
「あれ?そう言えば・・・琴音、他にも妖石持ってたよな?確か・・・雷光石!」
という言葉を聞いて、小鞠さんと蒼月さんが顔を見合わせて、
「「それだ!」」
と言った。




