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第94話 蒼月邸での鍛錬 -34-

熟睡するかと思ったけれど、思いの外すぐに目が覚めた気がする。

ただ、どれくらい時間が経ったかわからないので、とりあえず食堂に顔を出して時間を確認しよう。

湯浴み処も近いので、蒼月さんが使っているかどうかもわかるだろうし。


そうして着替え一式を持って食堂に行くと、小鞠さんが鼻歌混じりで料理をしている姿が見えて、まだ夕飯までには時間があることがわかる。

小鞠さんの邪魔はしないよう、声をかけずに湯浴み処の前まで行くと、入り口に青い札がかかっている。

赤は誰かが湯浴み中、青は誰もいない印だと初日に教えてもらった。それを聞いた時、この世界でも赤は禁止、青は許可みたいな概念なんだと興味深く感じたものだ。


湯船に浸かると1日の疲れが全てお湯に流れていくような気がした。


「はぁ〜・・・幸せ・・・」


本当に色々とあった一日だった。

立ち上る湯気をぼんやりと見つめながら、今日一日の出来事を振り返る。

やり方はめちゃくちゃだったけれど、確かに思い返してみたらいい鍛錬方法だったと思う。

身体全体の筋肉が疲れているのが何よりの証拠だ。


蒼月さんも全然乗り気じゃなかったはずなのに、とても丁寧に教えてくれた。

頭の中で今日習った技について復習をする。


(蒼月さん、かっこよかったな〜・・・)


鍛錬中は技を覚えるのに必死だったから浮ついた気持ちは起きなかったけれど、今思い出すとめちゃくちゃかっこよかった・・・


(見慣れたらいちいちかっこいいとか思わなくなるんだろうか・・・?)


見慣れるのかもわからないけれど、とりあえず鍛錬中はそれどころじゃないので、呆れられるような事態にはならなさそうでホッとする。

そんなこんなで十分お湯に浸かった私は、お風呂から出て食堂に向かうことにした。


食堂に入り、今度は小鞠さんに声をかける。


「湯浴み、ありがとうございました。いいお湯でした。」


すると、小鞠さんは菜箸を持ったまま振り返り、


「おお、琴音殿。一日の疲れは取れそうかえ?」


と聞く。


「はい。あとはもう、死んだように眠ります・・・」


ふふふと笑いながら答えたその瞬間、またどこからか「ボーン」と言う音が聞こえてきた。

今度は7回鳴ったのを確認し、


「そういえば・・・このボーンっていう音って、どこから聞こえてくるんですか?」


半日ほど気になっていたこの音について聞いてみると、小鞠さんは、


「これは時報ときしらせの時報じほうじゃ。そうそう、言い忘れておったが、琴音殿にも聞こえるようにしたんじゃった。」


と言った後、時報ときしらせとは何かについて説明してくれた。


時報ときしらせ」というのは小鞠さんの使い魔で、この家の中で時計のような役割をしているあやかしだそうだ。

あまり姿は見せないけれど、この家に住むものだけが独自に時間の知らせ方をカスタマイズできるそうで、私向けには一旦半刻(1時間)ごとに鐘の音が聞こえるようになっているらしい。


「好きな時間に鳴らしたり、今の時間を知ったり、音の大小も変えられるんですか?」


「もちろんじゃ。好きなように使ってもらってよいぞ。家の中で時報ときしらせに話しかければ大抵のことは聞いてくれるじゃろ。」


小鞠さんからそう言われて、めざまし時計を手に入れた気分になった。


「ありがとうございます!これで寝坊せずに起きられそうです!!」


そう言った私はだいぶ嬉しそうな顔をしていたのだろう。小鞠さんはアハハと笑いながら、


「そんなに喜んでもらえると、わらわも嬉しいぞ。」


と言った。


そんな中、さっきの鐘が夕飯の時間の合図だったのだろう。蒼月さんとほむらくんが、連れ立って食堂にやってきた。


夕飯を食べながら、小鞠さんが「そういえば・・・」と言って私を見た。その視線に私が気づくと、今度は蒼月さんに視線を向けた。


「蒼月。琴音殿が鷲尊わしみことから譲り受けた輝夜石かぐやいしの件じゃが・・・。」


それを聞いた蒼月さんも、そういえばという顔で小鞠さんを見る。


「ああ・・・夕方の騒ぎで忘れていたが・・・」


この口ぶりだとほむらくんから報告を受けているのだろう。蒼月さんはそのまま私に視線を向けると、


「いくつか試したいことがあるのだが・・・今日は流石に疲れているだろうから、明日の朝の鍛錬の時間を使って検証させてくれ。」


と言った。


「あ、はい。わかりました。再現できるといいんですけど・・・」


自分で意図してやったわけではないので、再現できるか不安だ。


「では、同じ条件で試すため、東雲しののめの刻を過ぎたら部屋へ参ろう。」


寝坊したら終わるな・・・早々に時報ときしらせさんに目覚ましをお願いする機会がやってきた。


「はい。わかりました。」


そう答えながら、少し眠気でぼーっとしながらも、明日は5時起きだな、と覚悟を決めた。

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