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第93話 蒼月邸での鍛錬 -33-

鬼まんじゅうを食べながら、好奇心から他の「!」のところではどんな仕掛けがあったのかを聞いてみる。 


すると、ほむらくんはいつもの調子でこんなものを用意したよ、と教えてくれた。


「床に突然穴が開いて、針がいっぱい伸びてる穴に落っこちるとか〜。」

「急に廊下が天井まで迫り上がってぺちゃんこに潰されるとか〜。」

「部屋が急にぐつぐつに煮立ったお湯で満たされるとか〜。」


・・・それ、もしかしなくても地獄では?


突っ込もうかどうか迷っていると、


「・・・幻惑の術だとしても、やり過ぎだ。」


蒼月さんが珍しく突っ込んだ。


「え〜?でも、火威かいと一緒に考えて、なかなかいい案だと思ったんですけどねぇ〜。」


ほむらくんに悪びれずにそう言われて火威かいくんを見ると、


「オラが子供の頃に読んでもらった絵本なんて、そんなんばっかりだったぞ!」


と、これまた悪びれずに言う。


子供にそんな絵本を読み聞かせてるなんて、一体、鬼の子育てはどうなっているのか・・・

まあ、でも、鬼にとってはある意味正しい子育てなのだろうか・・・


この世界の常識は私の常識だけでは測れない・・・

とにかく、そんな幻影を見せられることなく鬼ごっこが終えられてよかった。本当に、よかった。


そうして心の中で再び安堵していると、お茶を飲み干した蒼月さんが、


「では・・・そろそろ私との鍛錬を始めるとするか。」


と言って立ち上がったので、私も少しだけ残っていたお茶を飲み干して、


「はい、よろしくお願いします!」


と言って立ち上がる。


そのまま食堂を出ていく蒼月さんの後をついていくと、玄関側の花がたくさん咲いている庭ではなく、土以外何もない裏庭に到着した。

爽やかな風が吹き抜け、周囲の樹木はその風に吹かれて静かに揺れている。


「私との鍛錬は、基本、ここで刀の技を学ぶか、屋敷内で座学かのどちらかだ。」


そう言って蒼月さんが腕を大きく振ると、瞬時に木刀が二本現れた。


「今日は疲れているだろうから、剣法の技を一通り教えるだけにする。まあ、おまえが刀をふるう機会はほとんどないだろうから、一通り覚えたらける方を極めろ。」


蒼月さんの言葉に、ゆっくりと頷く。

まずは一本目の基本剣法から。刀の持ち方、足の位置、そして一振り一振りに全身を使った斬り下ろしを教えてもらい、それを何度も繰り返す。

一つ一つの動作を見つめる蒼月さんはとても真剣な面持ちだ。


「もっと手首を緩めろ。刀は自分の一部だ。刀とともに空気を切る感触をしっかりと感じろ。」


次に二本目、三本目と続き、技が進むにつれて動きはさらに複雑になる。突きや返し切りに移る頃には、汗で額が濡れていた。

今日初めて木刀を手にした初心者相手でも、蒼月さんは一切の甘えを許さず、形を丁寧に修正していく。

時には私の後ろから手を回し、動き方を教えてくれたりもした。


「いいぞ。しかし、まだ力みがあるな。もっと身体の力を抜いて、自然体で動け。身体の力を抜くことで、刀の重さを感じやすくなる。」


そして、練習のクライマックスである無刀取りに至る。これは剣を持たずに相手の攻撃を制する極めて高度な技で、全身のコントロールと相手の意図を読む洞察力が必要だ。

もちろん最初からうまくいくはずもなく、失敗が続いてしまうが、初日なんてそんなものだと励まされ、とりあえず今は形を覚えることから始めることにした。


こうして基本から応用までの技を一通り教えてもらうと、もう腕も足もガクガクだ。


すると、それを見た蒼月さんは、


「今日の鍛錬で得たことを忘れるな。剣法はただの技ではない。剣法は心を磨き、自己と向き合う武道だ。明日からはこの技が自然と身につくまで繰り返していくぞ。」


こうして、蒼月さんとの鍛錬を最後に、本日の鍛錬は全て終了した。

疲労とともに充実感が全身を満たす。刀の道は険しいけれど、その一歩一歩が確かな成長へとつながっていることを、私は初心者なりに肌で感じていた。


部屋に戻って畳に倒れ込むと、またあの「ボーン」という音が聞こえてきた。

何回鳴るのか数えてみると、それはちょうど6回で、それはすなわち、夕闇ゆうやみの刻の始まりを告げるものだった。


(夕食まであと1時間くらいか・・・)


畳に突っ伏したまま、とにかくもう何もせずに寝たい・・・ただそれだけが頭の中をぐるぐると駆け巡った。

けれど、お風呂も入らないとだし、さっきあんなことがあったばかりで夕飯に顔を見せなかったらみんな気を使うだろうし、とあれこれ考えると寝ていられる状況ではない。


初日から弱音を吐いていたらダメだ!

自分から志願してここに来たんだから、ちゃんと全部こなそう。


「まあ、いっか」が口癖の割に負けず嫌いなとこがあるよね、というのは、よく幼馴染の結衣から言われた言葉だ。

自分でもそう思うし、それが私だとも思っている。


でも、ものすごい強さで襲ってくる睡魔には勝てず、しかも、おそらく今頃は蒼月さんがお風呂に入っている頃だろうと思うので、少しだけうたた寝をすることにした。

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