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第88話 蒼月邸での鍛錬 -28-

ありがたいことに?恐ろしいことに?赤鬼はずっと物騒なことを叫んでいるから、どのあたりにいるかを想像しやすい。


廊下は真っ直ぐ伸びていて、その壁は古びた漆喰で覆われ、所々に歴史を感じさせる掛け軸や古風な装飾品がちりばめられていた。

床は古木でできているものの、よく手入れがされているのか、たわみや歪みはなく踏み込んでも沈まない。ただ、たまにきしみ音が足元から響くところが実家の神社の廊下を思い起こさせる。


そうしてようやく次の部屋に辿り着いた私は、部屋に入ってホッと息をついた。


入った部屋は書庫だった。書庫は入り口がひとつしかないので急いで周りを見回す。


「あった、あった・・・」


机の上にさっきの部屋と同じような手紙があるのを見つけ、開いてみる。


「・・・絆を感じる場所?」


さっきのが「世界が始まる場所」だったことを考えると、連続して「場所」について言及されていることになる。

色々と思うところはあるものの、確証が掴めないので次を目指すことにする。


「えーと・・・次は・・・・」


書庫は確か屋敷の一番奥にあったはず。そう思って間取り図をその通りにひっくり返す。すると、一番近い○印のある部屋は・・・


「食わせろ〜!」


さっきまで距離があったはずなのに、急に近くから赤鬼の声が聞こえてきて飛び上がった。とりあえず部屋に入ってる間は動けないはずだけど、この分じゃかなり近くにいるはずだ。

これは部屋ワープを使うしかない・・・

いや、これ、さっき思いついただけなのだけれど、ふたつ入り口がある部屋に駆け込んで、赤鬼から遠い方の出口から出るっていう作戦ね。

なので、○印のある部屋ではなく、ここから一番近くにある入り口がふたつある部屋を見つけ、時間制限が来る前に部屋を出た。


「食わせろ〜〜!」


わわわ、やっぱりすごい近くにいた!改めて近くで見ると、めちゃくちゃ怖い!!


「いや〜〜〜〜!!!」


食べられたくなんかないので、さっきまでのゆるい走りではなく、本気で走る。本気で走ってどうにか目的の部屋まで追いつかれずに逃げ込むものの、その入り口の近くから、


「オラの大好物〜〜〜〜〜〜!!食わせろ〜〜〜〜〜!」


と、本当にもうさっきからそれしか言えないの?っていうくらい、同じことを叫び続ける地鳴りのような声を聞きながら、別の入り口から廊下に出た。

廊下に出るほんの一瞬、


(そう言えば、この入り口の外には「!」が付いてたな・・・ほむらくん、なんて言ってたっけ?)


間取り図の「!」がなんだったかを思い出そうとした瞬間、間取り図を落としてしまった。


「これがないとまずいので・・・」


慌てて拾おうとしゃがんだ瞬間、


シュシュシュッ


という音のすぐ後で、


ドコッドコッドコッ


という音が頭上で響き、しゃがんだまま頭上を見上げると・・・


「・・・ちょっと・・・本当に殺す気?」


太くて長い槍が廊下の壁に三本真っ直ぐ刺さっているのが目に入った。


一瞬呆気に取られたものの、とりあえず今出てきた部屋に逃げ込む。


「はいはいはい、思い出しましたよ!「!」の場所は気をつけろって言ってましたね!」


誰にも当たる相手がいないので、一人で大きな声で文句を言う。


(もうやだ・・・怖い・・・・)


鬼はいるし、なんか物騒な武器で殺されそうになるし、あの子、かわいい顔で人懐っこい感じだけど、実は私のこと大っ嫌いなのでは・・・?と言う疑念すら湧いてくる。

今までなんだかんだほとんど危険な目に遭わなかったし、遭ったら遭ったで助けてもらえてたので、ここがあやかしの世界だと言うことを忘れつつあった。


急に泣きたくなって視界がじんわり滲んできたけれど、制限時間が切れたらしい。何かの力で強制的にさっきの入口から外に出されたから、嫌でも三本の槍を再び目にすることになった。


(泣いてる場合じゃない。とりあえず、外に出よう。そして、いったん逃げよう。)


このままここにいたら身の危険しか感じない。覚悟を決めた私は、とりあえず外に出る方法を探すことにした。

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