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第87話 蒼月邸での鍛錬 -27-

赤鬼のツノは頭の上に一本だけ生えており、その巨体は、まるで乾いた血のようなどす黒い赤みを帯び、瞳は炭のように黒く光っている。

物騒なことを叫んでいる口元からは噛みつかれたらただでは済まなそうな頑丈そうな歯と牙が見えている。

そんな必死の形相でこちらに向かってくる赤鬼と、もらったばかりの間取り図を交互に見ながら、


「え!え!え!?」


怖いしヤバいし慌てるし、どうしたらいいか途方に暮れたいところだけれど、とりあえず逃げなくてはならないことだけは分かった。


当たり前のように赤鬼のいる方とは反対方向に駆け出す。

昨日案内してもらった時には分からなかったけれど、間取り図を見た感じでは、このお屋敷は廊下が屋敷の外壁に沿うように部屋をぐるりと囲んでおり、さらに「田」の字のように真ん中を縦横に横切る廊下が存在する。


流石に捕まったら食べられてしまうのは嘘だと思いたい。いや、嘘だよね!?

ひとまず廊下の突き当たりまで行って、その後赤鬼との間隔を見て相手のスピード感を見極めよう。

そう思ってまずは何も考えずに真っ直ぐ全力で走る。


(逃げろ!逃げろ!逃げろ!逃げろ!)


「逃げ・・・・・・!?!?」


頑張って走っているのに全然進まない。


(デジャヴかな・・・?)


午前中も同じような体験をしたことを思い出して足を止める。後ろを振り返ると、赤鬼との距離はさっきと変わっていない様子だ。

気を取り直してもう一度走ってみる。


「・・・・はぁ!?」


一体どういう仕組みなのかは分からないけれど(今日そんなのばっかり!)、廊下がランニングマシンのようになっている。

走っても走っても前に進まないのだ。


「ちょっと〜〜!こんなんじゃ追いつかれちゃう〜〜!!!」


だけど、赤鬼も同じトラップに引っかかっているのか、一向に近づいてこない。


ほむらくーん!ちょっと、これ、どういうこと〜!?」


どこに行ったのか、姿の見えないほむらくんを大きな声で呼ぶ。すると、


「間取り図見ろ、って。」


急に目の前に現れてびっくりして転びそうになる。転んだら、これ、赤鬼のところに強制的に運ばれるんだろうな。

スポーツジムのランニングマシンで急に立ち止まった人がどうなったかを思い出して身震いする。それから、


「え〜?間取り図??」


そう言われて、走りながら左手に握ったままの間取り図を開いてみる。


「あ・・・・」


そこには、今まさに横を走っているであろう部屋に「○」が付いているのが見えた。


「これは・・・この部屋に入れってことかな?」


独り言を言って、障子を開けて部屋に入る。すると、私の部屋と同じような作りの、だけど、出入り口がふたつあるその部屋の真ん中に、手紙のようなものが置いてあるのが見えた。


「あ、そうだ。言い忘れたけど・・・部屋に入ってる間は鬼は先に進めなくなるから。」


なにその謎ルール。先に言って欲しかったよ。そうしたら最初に部屋に逃げ込んで、間取り図じっくり見て作戦立てられたじゃん!


「でも、部屋にいられるのは長くても1分くらいだかんな。それを過ぎると強制的に追い出されるから注意しろよな。」


それを聞いて、もう時間ないじゃん!と慌てて手紙を読む。


「世界が始まる場所・・・?」


なんじゃ、こりゃ!伝言なのか、暗号なのか、なぞなぞなのか、これだけじゃ全く分からない。

他の部屋にあるかもしれない情報と合わせて考えてみないとなんとも言えないので、とりあえず読んだことだし、逃げながら次の「○」を目指すことにする。

入ってきたところから出たら赤鬼との距離は前と変わらずだ。現に、外からは「食わせろ〜!」と相変わらずの叫び声が聞こえている。


間取り図を開いてもう一つの出口の近くに別の丸付きの部屋がないかを探す。

すると、比較的近くにあるのを見つけたので、私はそこを目指すことにした。障子を開けて廊下に出ると、間取り図で見た通りに廊下を進む。

私が部屋から出たことで赤鬼も進むことができるようになったのだろう、物騒な声が近づいてきている。


(逃げろ!逃げろ!)


本当に腹立たしいのだけれど、さっきよりはマシとはいえ、この廊下も走っても走ってもなかなか進まない。しかし、全く進まないわけではないからタチが悪い。


(そういえば、逃げても逃げても前に進まない夢をたまに見るけど、そんな感じ・・・確かに持久力の鍛錬だわ・・・)


全速力で走っていたら息が持たない。そう悟った私は、赤鬼の姿も見えない今はスピードを落とすことにした。

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