第82話 蒼月邸での鍛錬 -22-
小鞠さんが淹れてくれた影葉茶を一口飲んで、焔くんが輝夜石について語り出した。
まず、輝夜石と言うのは、天狗山でのみ採掘される石であり、採掘場所には限られた天狗しか入れず、かつ、一年で一番綺麗な満月の夜(中秋の名月のような?)にしか採れない、非常にレアな石らしい。
輝夜石は「記憶を司る石」とも呼ばれ、一般的な石の効果として、音声や映像を記録しておくことができるとのこと。聞いている限りではボイスレコーダーやビデオカメラのようなものっぽい。
照相(人間界でいう写真)を撮る道具は他にあり、輝夜石では静止画を記録しておくことはできないらしい。
また、幻惑の術を得意とするものはさらに上級な使い方ができて、石のある場所に思い通りの幻を映写することができるらしく、時限設定をして決まった時間に作動させることもできるそうだ。
(タイマー付きのプロジェクターみたいだな。)
説明を聞いていて、なんとなく輝夜石の性質がわかってきた。
さっきの現象を説明するとしたら、なんらかの力が働いて、焔くんの妖力と妖術があの石に記録され、なんらかの力が働いて、それが放出されたということなのだろう。
まあ、その一番大事な「なんらかの力」についてはさっぱりわからないし、本来は妖力を保存するなんていう効果は聞いたことがないらしいけれど。
「・・・と、こんな感じなんだけど、わかった?」
焔くんに聞かれて、大きく頷く。
すると、同じく影葉茶を飲みながら一緒に聞いていた小鞠さんが、私に尋ねた。
「琴音殿は輝夜石の本来の使い方を試したことはあるのかえ?」
そう聞かれて、首を振る。
「いえ、そもそも輝夜石がどんな石かも今知ったところです・・・。私には妖力なんてないので・・・」
しかも、妖力のない私が試しても、同じようにできるかすらわからない。
と、考えたところで、ふと一つの可能性が浮かんだ。
「あ・・・もしかして、守り水晶があればできるかも・・・?妖力のない私でもこの水晶を持っていれば結界が張れるので・・・。」
首元に下げている守り水晶を胸元から取り出し、さらに首から外して二人に見せる。
「さっきの焔くんの妖力が記録された件って、もしかしたらこの守り水晶の力ですかね・・・?」
守り水晶なしでは普通の結界すら張ることができない私のことだ。
さっきの件も、もしかしたらこの守り水晶の力なのでは?と思い付いた。
すると、小鞠さんはガタリと音を立てて腰を浮かし、守り水晶を手にとると、まじまじとそれを観察した。
(・・・あれ?なんかこんなシーン、前にもあったような・・・)
番所で蒼月さんが守り水晶を初めて見た時の反応と似ていることを思い出す。
「琴音殿、この守り水晶はどこで手に入れたのじゃ?」
ほら、聞かれた内容も一緒だ。
「それが・・・これ自体は長老のお屋敷にいる千鶴さんからいただいたものでして・・・千鶴さんは見慣れないあやかしがやっていた小さな市で手に入れたとのことでした。」
私の言葉を聞きながら守り水晶を観察していた小鞠さんは、
「これは・・・蒼月も見たことがあるのかえ?」
と、なぜか心配そうな顔をして聞いた。
「あ、はい・・・前に番所で・・・」
それを聞いた小鞠さんは、小さなため息をつくと、
「そうか、あいわかった。」
そう言って、守り水晶を私に返してくれた。すると今度は、それを見ていた焔くんが、小鞠さんに、
「なんか、気になることでもあるんですか?」
まるで私の代わりに聞いてくれたのではないかと思うほど、聞きたかったことを聞いてくれる。
けれど、小鞠さんはその質問に対し、
「いや・・・今はまだ確証がないから話さん方がよいと思う。」
と、それだけポツリと答えたので、そこから先は誰も聞けなってしまった。
まあ、いつかまた情報がアップデートされたら話してくれるかもしれないし、今話さないということは、今聞かなくてもいいということだろうし、「教えてあげない」ではなく「教えられない」なのだと感じた私は、それ以上の追求はしないことにした。
ということで、話を元に戻すことにして・・・
守り水晶があれば妖力のない私でも輝夜石の効果を試せるかもしれない。
そう思った私は、
「じゃあ・・・ちょっと試してみますね。」
守り水晶を首にかけ直し、輝夜石を左手で握ると、
「音声や映像が記録できるんでしたよね・・・?」
そう言った後で心の中でこう唱えた。
(今私が見ている光景を録画して・・・)
それからゆっくりと食堂の中をぐるりと見渡す。音声も撮れるか確認したいので、
「今、私は食堂の様子を録画しようとしています・・・」
と独り言をつぶやく。そうして食堂を端から端まで見渡し終わると、
(はい、おしまい。)
と、再び心の中で唱え、輝夜石を食卓の上に置いた。




