第79話 蒼月邸での鍛錬 -19-
2つの石をしばらく眺めて唸っていた焔くんから石を触っていいかと聞かれ、首を縦に振る。
それを受けて輝夜石を手に取った焔くんが、瞬時に驚いた顔に変わる。
「・・・えっ!?これ・・・・おいらの妖力だ。」
何が起きているのか分からなくて、ただただポカンと焔くんを見つめる私に、
「ちょっと・・・待ってて。」
焔くんは石を私の手のひらに置きそう伝えると、慌てて部屋を出て行った。
私はというと、何が何だかわからないまま手のひらの輝夜石を眺めながら、綺麗だな〜なんて呑気なことを考える。
(そういえば、この石の効果ってなんだろう?)
鷲尊さんにもらって以来、この石について誰にも聞いたことがなかったことに気がついた。
(こっちの雷光石は確か・・・己の力を高める効果があるって言ってたっけ。)
見ていた輝夜石を畳の上に置き、今度は今朝もらったばかりの綺麗な金色の針が何本も入っている水晶をじっと眺める。
そんなことをしていたら、焔くんが小鞠さんを連れて戻ってきた。
「小鞠さん・・・?」
小鞠さんが好奇心に満ちた顔で入ってきたのを見て、ますます何が起きているのか分からない。
「いや、琴音殿が何やら面白いものを持っていると聞いてな・・・どれ・・・」
小鞠さんは、ちょっと見せてもらうぞ、と言って畳の上の輝夜石を拾い上げる。石を片手で握り、目を瞑って何かを感じているようだ。
それから少しの間、私の部屋には沈黙だけが流れ、焔くんも私も、小鞠さんの手元をじっと見つめていた。
しばらくして小鞠さんがゆっくりと目を開けて言った。
「確かに普通の輝夜石じゃ。しかし、なぜに焔の妖力が閉じ込められているのかは、わらわにもわからん。」
そうして今度は首を傾げながら輝夜石を陽の光に透かして見ている。
「琴音殿。この輝夜石は鷲尊からもらったものと蒼月から聞いておるが、確かか?」
「はい。」
「その時、鷲尊から何か言われたか?」
「・・・いいえ?」
その時の状況を思い出してみたけれど、石について何かを言われた記憶はない。なんなら石の名前すら知ったのは番所に戻ってからだったし。
「そうか・・・琴音殿、この輝夜石を握って目を閉じて、石に意識を集中してみてくれんか?」
そう言って小鞠さんは私に石を渡すと、印を結んで何かを唱えた。
「用心のため、我らは結界の中に入らせてもらう。この部屋にも防御を施したから、何をしてもらっても構わん。」
そんな物騒なことを言う小鞠さんに「ほれ、集中するのじゃ。」と促され、左手に石を握り、目を閉じて、石に意識を集中させてみる。
石に意識を集中させてみるなんて生まれて初めての経験だけど、やってみると、不思議なことに頭の中にぼんやりと映像が浮かんできた。
「何か・・・映像のようなものが浮かんできました。」
「では、何が見えているかを見えるままに教えてくれ。」
「はい・・・」
映像が徐々にクリアになり、キャビネットのようなものが見えてきた。そのキャビネットにはたくさんの引き出しがあり、一つだけが光っているのが見える。
「たくさんの引き出しがある棚のようなもので、その中に一つだけ光っているものがあります。それは・・・」
キャビネットのラベルに意識を向けると、そこには「焔」、「火球投げ」、数字の「7」と書かれているのが見えた。
「え・・・焔・・・えと、なんだろう・・・火球投げ・・・?と・・・数字の7。」
すると、ラベルを読み上げた瞬間、左手に熱を感じ、身体がわずかに揺れるのを感じた。そして、その瞬間・・・
「うわっ!!!」
焔くんの声が聞こえて目を開けると、私の左手から・・・正確には輝夜石から部屋の中に向けて、大きな火の玉が次々と放たれているのが目に入った。




