第77話 蒼月邸での鍛錬 -17-
焔くんはというと、お茶請けのお煎餅を食べながら、いかにも楽しそうに
「本物の方が緊張感が出るかなって。偽物だってわかってたら落ちてもいっかって思うだろうし・・・」
と、しれっと言った。確かにそれは一理あるけれど、実際体験した側から言わせてもらうと、非常に緊張感があった。そんな焔くんに湯を浴びながら考えていたことを伝える。
「ねえ、焔くん。鍛錬の一日の予定を前もって教えてもらうことはできる?」
突然鍛錬が始まるのは心の準備ができないし、何をどうしていいかわからないからだ。
「えー、鍛錬の始まりに気づいた時の琴音の反応を見るのが面白いんだけどな〜。」
面白さを求められてもと困った顔をしている私を見て、焔くんはやれやれという表情を見せた。
「仕方ないなあ・・・じゃあ、一日の予定を教えてやるかぁ・・・」
そう言うと、焰くんは食堂の棚の引き出しから紙を取り出し、一日の予定を書き始めた。私が興味深く見守る中、彼は丁寧に書き続ける。
それによると、私の鍛錬の予定はこんな感じだそうで・・・
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東雲の刻(6時〜8時):
庭掃除(反射神経の鍛錬)
朝餉
朝霧の刻(8時〜10時):
部屋に戻る(平衡感覚の鍛錬)
柔軟体操と体力訓練(筋力の鍛錬)
朝霞の刻(10時〜12時):
妖具の使い方(妖術の鍛錬)
昼下がりの刻(12時〜14時):
昼休みで鍛錬なし
昼餉もこの時間内で
午後の刻(14時〜16時):
瞑想(集中力の鍛錬)
屋敷の中で鬼ごっこ(持久力の鍛錬)
夕映えの刻(16時〜18時):
蒼月様との鍛錬(戦術的思考と実践の鍛錬)
夕闇の刻(18時〜20時):
夕餉
以降は自由時間
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「まあ、たまに入れ替えたりしながらやっていこっかなーって思ってる。」
と、焰くんは呑気に言うけれど、屋敷の中で鬼ごっこって何よ、とか、食事のすぐ後の瞑想とか寝ちゃうじゃん、とか、ツッコミどころが満載である。
鍛錬の一日を想像するだけで少し気が重くなってきたけれど、それでも文句を言わずにまずはやってみようと決めた。
自分がこの鍛錬に挑む姿を想像しながら、私は焰くんに頭を下げる。
「わかりました!よろしくお願いします。」
とにかく今は前進あるのみ!
命の危険に晒されることはないだろうし、むしろ、命を守るための鍛錬だ。信じてついていこうと思う。
そんな私に焰くんが微笑みながら頷くのを見て、これからの鍛錬に少しだけ期待感を抱きつつ、心の準備を整えるために、気持ちを新たにした。




