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第61話 蒼月邸での鍛錬 -1-

朝日が昇る少し前のひんやりとした空気の中、離れの縁側に座って、ゆらゆらと揺れる灯りに照らされた庭を眺める。

庭の景色は、まだ淡い霧が立ち込める中、木々や草花がシルエットとなって浮かび上がっている。

風に吹かれて、木々の葉が優しくささやく音が耳に心地よく響き、遠くからはけものの遠吠えが時折、自然の交響曲のように聞こえてくる。

その静寂に包まれていると、自分の心がこの穏やかな世界に溶け込んでいくような感覚があった。


昨日は天狗山に行くために早起きしたし、山でもいろんなことがあったりで身体はすごく疲れているはずなのに、ぐっすり朝まで眠るどころか、目が冴えてあまり眠れなかった。

新しい生活がいよいよ始まるという期待と、それに伴う不安が心を支配していたのだろう。


蒼月さんに弟子入りが認められたこと、蒼月さんの屋敷での新たな生活が始まるという事実に対する興奮も、眠りを遠ざけていたと思う。


さらに、このお屋敷で過ごした日々がもうすぐ終わるという寂しさが、夜の静けさの中でじわじわと心に広がっていた。

長老や月影さん、そして何よりも千鶴さんに対する感謝と別れの時が迫っているのを実感して、なんとも言えない気持ちになった。


部屋の中には畳の上に敷かれたお布団と明日番所に持っていく身の回りの品を包んだ風呂敷包み、そしてそれ以外の私の数少ない持ち物を包んだ風呂敷包みがポツンと置かれている。

元々引き出物の紙袋とハンドバッグのみで迷い込んだ世界だ。荷物は限りなく少ないが、その少ない物たちが、ここでの新しい生活の一部となっている。


千鶴さんが着るものは好きに持って行って良いと言ってくれたけれど、鍛錬の時に着るような着物はなかったので、それは蒼月さんと相談することにして、とりあえず普段着ていたような着物を数着だけお借りすることにした。


今日からは修行が始まる。

新しい一歩を踏み出す準備を整え、気持ちを切り替えなければならない。

しかし、眠らなければいけないのはわかっているけれど、この幻想的な庭を眺められるのも今日が最後だと思うと、どうしても名残惜しい気持ちが抑えきれない。心の中で、過ごした日々の思い出が静かに深まっていくのを感じる。


(全然眠くないけど・・・)


名残惜しさを胸に抱きながら、どうにかして眠りにつこうと決意し、立ち上がって部屋の中に戻る。

布団をもぞもぞと被り、いつもの起床時間が来るまで、うとうとと寝たり目覚めたりを繰り返す。

新しい始まりに対する期待と、過去の時間への感謝の気持ちを胸に刻みながら、夜の静寂と共に、私の心もまた、新しい生活へと静かに準備を整えていった。

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