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第339話 つなぐ -8-

さて・・・腕の中のこの子をどうしたものか・・・


清成さんとの会話を終えて天月くんの顔を覗き込むと、えへへと笑った天月くんは、


「ぼく、もう少し頑張ってみようかな。」


と言った。


さっきまで半べそで帰りたいと言っていたのに、何が彼の気持ちを変えたのかと考えていると、


「懐かしいおじさんの匂いを嗅いだら、ちょっと落ち着いたよ。母上にはすっごく会いたいけど、頑張ったねって褒めてもらいたいから、もう少し頑張るよ!」


うう・・・なんといじらしい・・・


「そっか、えらいね!」


その言葉に、天月くんは少し恥ずかしそうな顔をしてうつむいたけれど、すぐにふと何かを思い出したように顔を上げた。


「あ・・・あのね。」


一生懸命訴える姿がかわいい。


「たまにはお姉ちゃんのところに遊びに行ってもいい?」


遊びに来てくれるのは全然構わないのだけれど、しばらくは会社に通うとはいえ、そもそも人間界にどのくらい滞在しているかがわからないので、なんと答えたらいいか迷う。


「うん、いいよ。ただ・・・」


一応自分の状況を説明して、いつもいるとは限らないことを付け加えると、


「大丈夫!もうお姉ちゃんの匂いは覚えたから、会いたい時はちゃんとお姉ちゃんがいる時に遊びに行くよ!」


と元気よく言った。聞けば、私が東京もしくはその近郊にいる限り、どこにいてもわかるらしい。


(すごいな・・・)


そうして、もぞもぞと私の腕の中から抜け出した天月くんは、シュワっという音と共に再び白狐の姿に戻ると、


「それじゃあ、戻るね!お姉ちゃん、ありがとう!蒼月おじさんやぼくの家族に会うことがあったら、元気だよー!って伝えてね。あ、帰りたいって泣いてたことは言わないでね。あと、みんなも、またね!」


現れた時と同じように早口でそう言って、煙のように消えてしまった。


「・・・・・ふふふふふ。」


そのあまりのマイペースさに、少しの沈黙の後、思わず笑ってしまう。


「嵐のようでしたね・・・」


「もふもふでかわいかったわ〜。」


清成さんもお母さんも、そんなことを口々につぶやいている。


結局、そんな事件があったことで、審神座さにざ妖務局ようむきょくかという選択は不要となり、相談窓口を引き受けてくれるとしたら、それは妖務局ようむきょく内に新しい課を新設することになる、と言われた。


「わかりました。ちょうど来週、今勤めている会社に退職の意向を伝えるところでしたので、それと合わせてこちらの件も検討し、なるべく早めに・・・一週間以内には回答するようにいたします。」


「承知しました。先ほども申しましたが・・・良いお返事を期待しております。」


この清成さん、印象としてはとても感じがよく穏やかなんだけど・・・たまに見せる目の奥の光が少し怖い。

まあ、組織のトップにいる人はみんなそんな感じなのかもしれないけれど。


ということで、そんな話をして、私たちは陰陽院を後にした。


帰り道では母がずっと「天月くん、かわいかったわ〜。」と言っていて、「琴音と蒼月さんの間に子供が生まれたら、あんな感じになるのかしらね?」なんてひとりごとのようにつぶやいたから、私はとりあえず聞こえなかったふりをした。


(蒼月さんとの間に・・・子供・・・)


鷲雅わしみやびさんや影渡かげわたりさんのご両親のこともあるし、あやかしと人間でも子は成せるのだとは思う。


子供はもちろん嫌いではない。

けれど、蒼月さんはどうなのだろうか・・・そもそも、美琴さんとの間にも子供はいないみたいだし・・・

彗月くんや星華ちゃんにはどちらかというと厳しめな印象に見えるし、子供達相手にデレてるところも見たことがない。

普通のカップルが結婚前に話をするようなこと、何一つせずに結婚しちゃったもんな・・・


そんなことを考えていたら、いつの間にか駅に着いていた。


「せっかくだし、この辺でお昼でも食べていく?」


母にそう聞かれて二つ返事でOKすると、ランチの途中で今日のことについて相談を持ちかけた。


「私としてはあちらを生活の拠点にしようと思っているから・・・悩む・・・」


「あら、そうなの?」


「ぶっちゃけ、籍がずっとこちらにあることやたまにはこっちにくることもあると考えると、お給料もらえるのはありがたいし・・・」


「確かに籍がこちらにある以上、保険料とか年金の支払いはあるからね。」


「そう。だけど、あちらが生活の拠点の場合、この仕事を受けても成り立つのかどうか・・・」


そうなのだ。こちらの世界で生活していないのに、必要な時にきちんと対応ができるかという不安があるのは否めないのだ。


「そういえば、あなた今どうやって行き来してるの?」


半個室とはいえ、どこで誰が聞いているかわからない。なので、スマホのメモ帳にさささと門について書き込んだ私は、それを母に見せた。


「え!そうなの!?」


まあ、普通は驚きますよね。


「そう、なので、行き来は楽なんだけど・・・」


「そうねえ・・・あ、たとえば、彼女に頼んでインターフォンみたいなの置いてもらえないの?」


彼女、というのは影渡かげわたりさんのことだろう。

そんなこと・・・と一瞬思ったものの、聞いてみる価値はある。


「そうだね。聞いてみる。それで、なんらかの方法でこちらの状況がすぐに向こうでわかるようになれば、成り立つね!」


やっぱり自分一人で考えず、誰かに相談してみるのは大事だな。そんなことを考えていると、


「あとね・・・向こうで暮らすことに反対はしないけど、二人でうちに住んでもらっても全然構わないからね。部屋なんていくつもあるんだから。」


確かに実家は、昔からあることで土地だけは広く、使われていない部屋がいくつもあるのは確かなのだ。それを一定期間で建て替えやリフォームをしながら、今に至っている。

二世帯ほど離れてはいないものの、同じ家でも両親の生活空間からは離れていて、適度に距離は保てる。


(でも・・・私たちがあの家を出てしまったら、小鞠さんは寂しがるだろうな・・・)


そんなことを考えていたら、それもいい案だね、とは言えなかった。けれど、


「まあ、拠点はあちらで、うちは別荘代わり、みたいに考えてもらってもいいけどね。っていうか、どうせそろそろリフォームする?って言ってたし、ゲストハウスみたいなのを作ってもいいかもね。」


母がそんなことを言うものだから、なんだかうまくことが運びすぎて、ちょっと怖いなとすら思ってしまった。

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